第42話 一人の時間

「さてと……蒼さんも出かけてしまいましたし、何をしましょうか」


 久しぶりの一人ということもあり、何をしようか迷ってしまう。

 ――――というより、この家に来てからは、誰かと喋っていることがほとんどでしたから、時間の流れが速く感じていたのかもしれません。


「来週までの課題でもしますか……」


 私はそう独り言を呟いて、自分の部屋に戻る。


「もうこんな時間ですか……」


 私はキリのいい所で勉強を終え、掃除に取り掛かる。

 リビングに玄関、キッチンなど自分の部屋はもちろん、普段使っているところを掃除していく。


「…………洗濯もしちゃいましたし、まだ、ご飯の準備には……もうしちゃいましょうか」


 私はご飯の準備をしていく。

 今日の献立はハンバーグをデミグラスとチーズ㏌など、味付けが違うのを何種類か作ろうと考えていた。


 黒色のエプロンをして、早速料理を開始する。


「ふぅっ、悪くはないですね」


 私は出来上がったばかりの料理に口をつけ、味見をする。


「……まだ6時30分ですか」


 私は時計を見ながら、ふぅっと小さくため息を吐く。

 カチカチと秒針が動く音がいつもより大きく聞こえる。


 今まで、一人に慣れていたせいか、こんなこと思ったことほとんどなかったのに……。


「一人は寂しいですね……」


 本当は思っていたのかもしれない。

 前まではそんな気持ちに蓋をすることができていた。


「なんか、寂しい……」


 ふと、思った時には言葉にしていた。

 優子さんもまだ帰ってくる気配がないですし……。


 一人で、ご飯を食べようとした時だった。

 玄関の扉がガチャッと開いた。


「あ、優子さんおかえりなさ――――」

「母さんじゃないけど、ただいま」

「あ、あれ? どうして……?」

「なんか日程変更になってたらしくて……」

「あ、そういうことですか」

「はい……友達が少ないので」


 蒼さんは、どこか落ち込んだ様子でしたが、とても悲しいというわけでもなさそうだったので安心しました。


「あの、ご飯とかってまだ残ってますか?」

「の、残ってますよっ!」

「ごめんなさい……いらないって言ったのに」

「そんなこと気にしないでくださいよ……」


 私は急いで、蒼さんの分の料理をテーブルに並べる。

 蒼さんは並べられた料理を見て、目を輝かせていた。


「いただきまーす」


 二人で挨拶をして、食べ始める。


「やっぱり、最高ですね蒼井さんの料理は」

「そ、そうですか?」

「はい! まじでお店出せると思いますよ」

「お店ですか……」

「考えてみては?」

「茶化さないでくださいっ」


 いつも私の料理を食べると「美味しい」と褒めてくれる。

 そして、作った本人よりも幸せそうに食べる。


 食べている時の蒼さんの姿は本当に子供みたいで可愛い。

 いつからか、そんなことを考えてしまう時がある。


「茶化してないですってば!」

「あ、ありがとうございます……」

「味付けも完璧ですよね」

「そ、それは、結構長く住んでいますし、大体の好みは把握しているつもりです」


 私がそう言うと、蒼さんは驚いた様子でハンバーグを食べる。

 モグモグと口を動かし、飲み込んだ後に口を開く。


「だから、こんなに美味しく感じるのか……」

「レシピがあれば、蒼さんでも作れますよ?」

「そうですかねぇ~? 俺不器用ですよ?」

「大丈夫です。私がしっかりと監視します」

「監視って……」


 何気ない話がとても楽しい。

 先ほどまでの寂しさが嘘のように消えていく。


 なんだろう、このよくわからない感情は……。

 ただ――――この時間が今は少しでも長く続いてほしい。

 


 


 


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