第42話 一人の時間
「さてと……蒼さんも出かけてしまいましたし、何をしましょうか」
久しぶりの一人ということもあり、何をしようか迷ってしまう。
――――というより、この家に来てからは、誰かと喋っていることがほとんどでしたから、時間の流れが速く感じていたのかもしれません。
「来週までの課題でもしますか……」
私はそう独り言を呟いて、自分の部屋に戻る。
「もうこんな時間ですか……」
私はキリのいい所で勉強を終え、掃除に取り掛かる。
リビングに玄関、キッチンなど自分の部屋はもちろん、普段使っているところを掃除していく。
「…………洗濯もしちゃいましたし、まだ、ご飯の準備には……もうしちゃいましょうか」
私はご飯の準備をしていく。
今日の献立はハンバーグをデミグラスとチーズ㏌など、味付けが違うのを何種類か作ろうと考えていた。
黒色のエプロンをして、早速料理を開始する。
◆
「ふぅっ、悪くはないですね」
私は出来上がったばかりの料理に口をつけ、味見をする。
「……まだ6時30分ですか」
私は時計を見ながら、ふぅっと小さくため息を吐く。
カチカチと秒針が動く音がいつもより大きく聞こえる。
今まで、一人に慣れていたせいか、こんなこと思ったことほとんどなかったのに……。
「一人は寂しいですね……」
本当は思っていたのかもしれない。
前まではそんな気持ちに蓋をすることができていた。
「なんか、寂しい……」
ふと、思った時には言葉にしていた。
優子さんもまだ帰ってくる気配がないですし……。
一人で、ご飯を食べようとした時だった。
玄関の扉がガチャッと開いた。
「あ、優子さんおかえりなさ――――」
「母さんじゃないけど、ただいま」
「あ、あれ? どうして……?」
「なんか日程変更になってたらしくて……」
「あ、そういうことですか」
「はい……友達が少ないので」
蒼さんは、どこか落ち込んだ様子でしたが、とても悲しいというわけでもなさそうだったので安心しました。
「あの、ご飯とかってまだ残ってますか?」
「の、残ってますよっ!」
「ごめんなさい……いらないって言ったのに」
「そんなこと気にしないでくださいよ……」
私は急いで、蒼さんの分の料理をテーブルに並べる。
蒼さんは並べられた料理を見て、目を輝かせていた。
「いただきまーす」
二人で挨拶をして、食べ始める。
「やっぱり、最高ですね蒼井さんの料理は」
「そ、そうですか?」
「はい! まじでお店出せると思いますよ」
「お店ですか……」
「考えてみては?」
「茶化さないでくださいっ」
いつも私の料理を食べると「美味しい」と褒めてくれる。
そして、作った本人よりも幸せそうに食べる。
食べている時の蒼さんの姿は本当に子供みたいで可愛い。
いつからか、そんなことを考えてしまう時がある。
「茶化してないですってば!」
「あ、ありがとうございます……」
「味付けも完璧ですよね」
「そ、それは、結構長く住んでいますし、大体の好みは把握しているつもりです」
私がそう言うと、蒼さんは驚いた様子でハンバーグを食べる。
モグモグと口を動かし、飲み込んだ後に口を開く。
「だから、こんなに美味しく感じるのか……」
「レシピがあれば、蒼さんでも作れますよ?」
「そうですかねぇ~? 俺不器用ですよ?」
「大丈夫です。私がしっかりと監視します」
「監視って……」
何気ない話がとても楽しい。
先ほどまでの寂しさが嘘のように消えていく。
なんだろう、このよくわからない感情は……。
ただ――――この時間が今は少しでも長く続いてほしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます