第41話 人形のような整った美少女と連絡先

「おはようございます」

「おはよーう……」


 蒼井から、さわやかな挨拶をされ、それにお返しをする土曜日。

 こんななんでもない休日がとてもいい。


 まぁ、今日は体育祭のお疲れ様会をやるってクラスの人たちが言ってたっけな……。


「あ、今日は晩御飯は俺の分は作らなくても大丈夫です」

「わかりました。なにか用事でもあるんですか?」

「クラスの人たちとお疲れ様会的なやつを……」


 俺がそう言うと、蒼井はなるほどといった何かを察した表情をしていた。


「わかりました。今日は優子さんと二人で食べます」

「母さん、今日は早く帰ってこれるのかな、なんだかんだ忙しそうだからなぁ」

「そうですね、それに私はいつか米村さんのお父さんにも挨拶をしなければなりませんから、お仕事が落ち着いたら早く帰ってきてほしいです」


 父さんも、最近帰ってこないなぁ……。

 LOINで話してはいるんだけど、中々帰れないって泣いてたっけ……。


「私は、この家の人たちにお世話になりっぱなしです……」

「俺も蒼井さんにお世話になってるよ、母さんだって、家事を蒼井さんが手伝ってくれるから、前よりも負担がな言ってたし」


 俺がそう言うと、嬉しいのか蒼井の表情が明るくなった。

 最初は全く感情を出さない人だと思ってたけれど、一緒に暮らしているうちに、段々とわかるようになってきた。


 そんなことを考えていると、蒼井からジトっとした視線を感じる。


「な、なんですか……」

「なにか、失礼なことを考えていませんでした?」

「あー……、いや、ないですよ?」

「今の間は怪しすぎます」


 蒼井はそう言って、プイッとそっぽ向いてしまう。


「あ、でも家を出るときにでも言えばよかったのでは?」

「なにをですか?」

「今日の夜ご飯がいらないってことをです」

「行く寸前だと忘れそうだったのと、LOINを持っていないので、外で連絡できないなと思いまして……」


 俺がそう言うと、蒼井はなるほどと言った態度をとる。

 そして、少しの間が空いた後、もじもじと気恥ずかしそうにしながら、上目遣いで俺のことを見てくる。



「なら、この際に交換しますか?」

「え……? いいんですか?」

「はい、というか今までどうして連絡先を交換していなかったのか不思議です」


 蒼井がもっともなことを言う。

 同じ家に住んでいて、連絡先を交換していない。不便な事の方が多いはずなのに。


「蒼井さんは、男性のこと苦手ですから、勝手に断られるって思ってました」

「男性のことは苦手ですよ。…………でも蒼さんは違います」

「え、それはどういう……」

「信頼できる男性ですし、他の男の子とも違います」

「あ、なるほど」


 少し期待してしまった自分がいる。

 信頼できる存在、この一言で脈がないですよって言われているようなもんだ。


「どうかしましたか?」

「いえ、何でもないです。それじゃあ……」


 俺は蒼井に自分のスマホを差し出す。


「このQRコードを読み取って追加してください」

「はい、わかりました」


 QRコードを読み取ればすぐさま連絡先が交換できるのが楽ですごいと感じる。

 蒼井が読み取り終わるまで姿勢を保つ。


「できました」

「それじゃあ、これから連絡取り合えますね」


 俺がそう言うと、数秒の間沈黙が流れる。


「あっ! そんな変な連絡とかは全然しないので!」

「ふふっ……あははっ。変な連絡って何ですか?」


 俺の変な発言で蒼井は大きな声で笑う。

 今まで生活してきて、ここまで蒼井が笑っているのは初めて見た。


 俺はその姿を見て、ボーっとしてしまう。

 見惚れていた。人形のように整った容姿の彼女の笑っている姿があまりにも可愛かったのだ。


 今まで、一目惚れする感覚というのが分からなかったが、今の自分の状態が一番近いんじゃないかと考えた。


「じ、自分でも何言ってるかわからないです」

「あー、おもしろかったですね」

「おもしろかったですか?」

「変な連絡……」

「意地悪しないでください」


 蒼井に向かって一言そう言うと、蒼井は爽やかな表情で「ごめんなさいっ」とペコリと頭を下げた。


 なんとも15歳の美少女という表情と態度だった。


 こういうのを何度もされたら勘違いをしてしまいそうだ。

 そう考えると同時に、中学時代のトラウマが蘇る。


 家を出るための準備を進めるため、俺は自分の部屋に戻る。

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