第39話 体育祭の後
球技大会も終盤に差し掛かり、俺たちのクラスは女子バレーだけが残っている。
「ちゃんと準備運動してれば、最後の試合もしっかりとできたんじゃないの~?」
「うるせぇなぁ、ちゃんと準備運動してたよ」
「じゃあ、足をつったのは水分を取ってないからだ! 情けない……」
「まぁまぁ、蒼も相当頑張ってた方だと思うぞ」
責められる明人を悠里は睨みつける。
どうやら今度は明人が標的にされたようだ。
「一番許せないのは、ずっと黙ってたこと!」
「そ、それはなぁ……」
「それに関しては明人は何も悪くねぇよ」
「私って……そんなに信用できないかなぁ……」
眉をへの字に曲げる。
その姿は小さい子供が悲しんでいる様子そのものだった。
自分に妹が居たら、こういう感覚なんだろうか? 同級生なのになと笑いそうになってしまう。
「悠里が信用できないんじゃなくて、俺の心の弱さの問題だよ」
「心の弱さ? 蒼が?」
「ずいぶんと驚いてやがるな」
「だ、だって、いつもそんな感じ全くしないもん」
「まぁ、そう見せてるんだよ」
俺が中学の時のことを思い出しながら言うと、悠里はそれ以上追求してこなかった。
「やべっ、俺バスケの決勝の審判だったわ」
ちょっと行って来る、と言い残し明人は去って行く。
廊下で悠里と二人きりになってしまった。
「あー……悪かったな」
「なにが?」
「本気出すとかかっこつけておいて、全然活躍しなかったわ」
俺が鼻で笑いながら、自分のことを嘲笑すると。
悠里は全く乗ってきてくれなかった。
自虐ノリだったのに……と思いながら悠里を見ると、真剣なまなざしで俺のことを見てくる。
「まぁ、足をつった時はなにしてんだっては思ったよ?」
「あはは……まぁブランクがな」
「でもね、かっこいいとは思ったよ」
「……はい? いやいやっ、ないないっ!」
俺が全力で否定すると、悠里は脇腹を小突いてくる。
いつもより、痛くなく、逆に悠里の小さな手の感覚がはっきりとわかる程ゆっくりのパンチだった。
「…………ばか、本当にかっこよかったよ」
「……お、おう」
「バスケ上手だったんだね」
「う~ん、まぁ途中でやめたけどな」
「そっかー」
そう言いながら、悠里は背伸びをする。
悲しいことに、成長が止まってしまったんじゃないかと胸に目を向ける。
「私はさ、人の言葉だけじゃなくて、その奥にある気持ちも大事なんじゃないかな?」
「…………気持ち、か」
「だってね、ほら何気なく、スター選手がかっこいいとか、身長大きいとか言葉にするときあるじゃん? でも、それは単純に大きいなーかもしれないし、ダンクできるのかなーかもしれないよね」
悠里は言葉を紡ぎながら必死に俺に伝えようとしてくれる。
「そりゃあ、人によっては考え方とか思ってることは変わるだろうな」
「そうっ! そこなんだよ蒼君!」
「そ、蒼くん……?」
「つまり、私が言いたいのはね? 酷いことを言って来る人なんて世界中探しても少しだよ!」
「そりゃ、世界規模になったらな」
「それに、そんな人たちの言葉に耳を貸すんじゃなくて、蒼のことを好きな人たちの言葉に耳を傾けてよね」
そう言いながら、照れ臭そうに笑う悠里の笑顔は、とても可愛らしい物だった。その瞬間、なぜか、目を逸らしてしまった。
「なんだ? なんだ?」
「い、いや……嬉しいな、なんか」
「だ、だって――――と、友達でしょ!」
「ん? あぁ、そうだな。いい友達を持ったよ」
「ふふんっ! そうだろそうだろ~」
褒められて鼻を高くしている悠里を見て、俺も笑顔になる。
早く家に帰り、蒼井に球技大会の話をしたいと思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます