第37話 体育祭 前編

 男子バスケは勝利を重ねていた。

 案の定俺にはあまりパスは回ってこない。


 俺がボールを持つときは、しょうがなくパスを出されるか、リバウンドやら変な方向にボールが飛んできたときだけだ。


 それ以外は他の四人で試合を戦っている。

 まぁ、前半のAチームが点を取ってくれるから、それを守り抜いて勝っているというところだ。


 そして、なんやかんやで、悠里たちを倒した先輩たちのチームと当たることになった。


「大丈夫なの?」

「なにがだよ」

「あそこのクラス、女子だけじゃなくて男子も強いよ? バスケ部の主力がいるし」

「まぁ、それは明人に頑張ってもらって」


 バスケ部の主力の先輩といっても、明人だって主力の一人だ。

 頑張ってもらうしかない。


 それに、Bチームになんか主力を当てては来ないだろうと考えている。下手したらAチームで押し切られたら、取り返しのつかないことになるからな。


「まぁ、全力で明人を潰しに来るだろうから、頑張れって感じだ」

「蒼は頑張んないんですかー?」

「な、なんだよその目は……」

「べっつにぃ~?」


 そんなことを言いながらプイっとそっぽ向く。

 そのあと、ジトっとした目で見られる。


 やめてっ! さっきの自分の発言がとてもかゆく苦しく感じるからっ!


「さっき、あんなに格好つけてたのに、活躍が見られないなぁと思ってさ」

「ぐ……す、すみません」

「あれま、意外と素直」

「活躍してないのは本当のことですからねぇ」


 はぁっとため息を吐く。

 別に疲れてもないし、緊張もしていない。

 しかしため息が出る。面倒くさいと自分で思っているんだろう。


「あ、そろそろ試合始まるんじゃない?」

「あー、本当だ……」

「凄く嫌そうな顔するじゃん……」

「う~ん、頑張ろう俺、頑張るんだ」

「じ、自己暗示?!」


 重い腰を持ち上げて、体育館に向かう。


「時間ギリギリだぞ米村っ」

「あー、ごめん喋ってたわ」

「一体、誰と喋ってたんだよっ!」


 ガシッと明人に肩を組まれる。

 勢いが強く、前に倒れそうになってしまう。


「多分この試合、Bチームが鍵になるぞ」


 明人が耳元で囁くように話す。

 最初はくすぐったいと感じたが、明人の口調が真剣だったので、俺も耳を傾ける。


「え……?」

「勝つためには、分かってるよな?」

「な、なんだよ……」

「お前が頑張らないとだぞ? 人の目なんか気にするな。できるだけのことをしろ」

「わかってるよ、チームスポーツだからな、俺にできることをするよ」


 急にやる気が出てきた。

 ま、先ほどの気持ちと比べたらという意味でだが。


 その後、試合は予想通り相手は明人のいるAチームに主力のメンバーを当ててきた。


 そのせいで、いつもの積極的なプレーが消極的になっている。

 それだけ、先輩相手に下手なことはできないという事だろう。


 相手の主力の実力が物語っている。

 俺……明人に一対一での勝負負けてるのに、主力相手に勝てるわけなくね?


 段々と不安になってきた。まぁ一人で戦うわけではないのだが……。


「悪い……全然だ」

「相手強いな」

「せ、先輩相手だとな」


 Aチームが終わって、ベンチに帰ってくるときに顔が暗かった。

 明人も悔しそうな顔をしている。


 点差はほとんど離されておらず、まだ勝負はここからというところだが、みんな戦意喪失ってわけではないが、押せ押せムードではない。


 周りからは応援の声が飛んでいるが、みんなの耳には入ってなさそうだ。


「蒼」

「ん? なんだ――――って、いってぇ!」


 バシンッと思い切り背中を叩かれ、肩をグッと力強く掴まれる。


「な、なんだよ」

「悪い、点数取れなくて……後は頼む」

「あのさぁ……頼まれても困るんだけど」

「いや、お前ならできるよ」

「いや……だから……」


 明人はそれだけ言って俺から離れていく。

 悔しいのはわかるけど、勝負に絶対はない。

 実力の差が表れてしまう事は当然だが、それでも絶対に負けるという事はない。逆もしかりだ。


 とんだ、大役を任されてしまった気がする。

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