第37話 体育祭 前編
男子バスケは勝利を重ねていた。
案の定俺にはあまりパスは回ってこない。
俺がボールを持つときは、しょうがなくパスを出されるか、リバウンドやら変な方向にボールが飛んできたときだけだ。
それ以外は他の四人で試合を戦っている。
まぁ、前半のAチームが点を取ってくれるから、それを守り抜いて勝っているというところだ。
そして、なんやかんやで、悠里たちを倒した先輩たちのチームと当たることになった。
「大丈夫なの?」
「なにがだよ」
「あそこのクラス、女子だけじゃなくて男子も強いよ? バスケ部の主力がいるし」
「まぁ、それは明人に頑張ってもらって」
バスケ部の主力の先輩といっても、明人だって主力の一人だ。
頑張ってもらうしかない。
それに、Bチームになんか主力を当てては来ないだろうと考えている。下手したらAチームで押し切られたら、取り返しのつかないことになるからな。
「まぁ、全力で明人を潰しに来るだろうから、頑張れって感じだ」
「蒼は頑張んないんですかー?」
「な、なんだよその目は……」
「べっつにぃ~?」
そんなことを言いながらプイっとそっぽ向く。
そのあと、ジトっとした目で見られる。
やめてっ! さっきの自分の発言がとてもかゆく苦しく感じるからっ!
「さっき、あんなに格好つけてたのに、活躍が見られないなぁと思ってさ」
「ぐ……す、すみません」
「あれま、意外と素直」
「活躍してないのは本当のことですからねぇ」
はぁっとため息を吐く。
別に疲れてもないし、緊張もしていない。
しかしため息が出る。面倒くさいと自分で思っているんだろう。
「あ、そろそろ試合始まるんじゃない?」
「あー、本当だ……」
「凄く嫌そうな顔するじゃん……」
「う~ん、頑張ろう俺、頑張るんだ」
「じ、自己暗示?!」
重い腰を持ち上げて、体育館に向かう。
◆
「時間ギリギリだぞ米村っ」
「あー、ごめん喋ってたわ」
「一体、誰と喋ってたんだよっ!」
ガシッと明人に肩を組まれる。
勢いが強く、前に倒れそうになってしまう。
「多分この試合、Bチームが鍵になるぞ」
明人が耳元で囁くように話す。
最初はくすぐったいと感じたが、明人の口調が真剣だったので、俺も耳を傾ける。
「え……?」
「勝つためには、分かってるよな?」
「な、なんだよ……」
「お前が頑張らないとだぞ? 人の目なんか気にするな。できるだけのことをしろ」
「わかってるよ、チームスポーツだからな、俺にできることをするよ」
急にやる気が出てきた。
ま、先ほどの気持ちと比べたらという意味でだが。
その後、試合は予想通り相手は明人のいるAチームに主力のメンバーを当ててきた。
そのせいで、いつもの積極的なプレーが消極的になっている。
それだけ、先輩相手に下手なことはできないという事だろう。
相手の主力の実力が物語っている。
俺……明人に一対一での勝負負けてるのに、主力相手に勝てるわけなくね?
段々と不安になってきた。まぁ一人で戦うわけではないのだが……。
「悪い……全然だ」
「相手強いな」
「せ、先輩相手だとな」
Aチームが終わって、ベンチに帰ってくるときに顔が暗かった。
明人も悔しそうな顔をしている。
点差はほとんど離されておらず、まだ勝負はここからというところだが、みんな戦意喪失ってわけではないが、押せ押せムードではない。
周りからは応援の声が飛んでいるが、みんなの耳には入ってなさそうだ。
「蒼」
「ん? なんだ――――って、いってぇ!」
バシンッと思い切り背中を叩かれ、肩をグッと力強く掴まれる。
「な、なんだよ」
「悪い、点数取れなくて……後は頼む」
「あのさぁ……頼まれても困るんだけど」
「いや、お前ならできるよ」
「いや……だから……」
明人はそれだけ言って俺から離れていく。
悔しいのはわかるけど、勝負に絶対はない。
実力の差が表れてしまう事は当然だが、それでも絶対に負けるという事はない。逆もしかりだ。
とんだ、大役を任されてしまった気がする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます