第36話 太陽のような笑顔の女の子のギャップ

「もしかしたら、私たちのクラスと戦うかもしれませんね?」

「ま、まぁ、勝ち進んだらいつかは戦いますよ」

「その時は負けませんからね」

「俺も、明人が黙っちゃいないですよ」

「蒼さんも頑張るんですっ」

「わかってますよ……」


 こんな約束をして、大丈夫かなって思うが、なんとかなるだろとも思う。

 しかし、出るかもわからないのに……。


「あ、米村ちょうどいい所に」

「何かあったのか?」

「今からバスケのミーティングするからさ、お前も補欠なら話し合いくらいは混ざれ」

「いや……俺歓迎されてないじゃん」

「たしかに、俺たちは明人がなんでお前を推薦したかわかんねぇよ」


 愚痴を溢すかのように、俺のこと言う。

 それに、この全く期待をしていない目、態度からもっと他にいただろとにじみ出ている。


「だよなー、やっぱり」

「でも、俺らの中で一番上手なアイツが言うからなしかたねぇ」


 なんなんだ、この熱血ぶりは。

 ただでさえ暑いのに、さらに体温が上がりそうだ。


「わかったよ、俺もさすがにくらいは果たそう」

「あぁ、頼むぞ」


 俺は教室までソイツの背中について行く。

 教室に入ったときに、ギロッと睨みのような眼差しが俺を襲う。


 うわー……俺のことめっちゃ見てるよ……。


「あ、よ、よろしく……お願いします」

「米村、バスケ経験は?」

「あー、えっとその……」


 俺がどうすればいいのか考えていた時だった。

 大きく足を開いて座っている、陽キャいや、やんちゃ坊主がふんっと鼻を鳴らす。


「こんなやつ、やってるわけねぇだろっ! 戦力外だっつーの」


 ものすごい偏見だが、まぁ別に仕方ないとも感じる。

 ひょろひょろの俺と明人の姿と見比べると、バスケをやっていたとは思えないだろう。


 まぁ、明人の場合、元ではなく現バスケット部員だがな。


「とにかく、米村はけが人が出たときの為に、誰にパスするかだけ決めよう」

「了解」


 俺は何の反論もせずに、ただ一言だけ。


「じゃあ、これで解散するかー、みんな応援の準備とかして待ってようぜ」

「そうだなー、準備しとくと楽だし」


 そんなこんなでミーティングが終了した。


 その後もなんやかんやで、女バスも男バスもどちらも勝ち上がっていた。

 バレーの成績は3位だったらしい。すごいなおい。


 これで、女子バスケも男子バスケもいい成績を残せたら、総合優勝もあり得るというところまで見えてきた。


 しかし、そんなときだった。

 ガララッと勢いよく扉が開く。


「おいっ! 女子バスケがまずいことになってる!」


 その言葉で全員がすぐに体育館へ行く。

 そこには、自分たちのクラスがボロボロに負けている光景が見えた。


「は? なんでこんな……」

「水嶋が先輩たちに潰されて、上手く動けてないんだ」

「水嶋ー! がんばれ~!」


 悠里を鼓舞する声が飛ぶが、そんな応援も虚しく、ボールはドンドンと自分たちのリングへ吸い込まれていく。


 悠里は徹底マークで、他は捨てても彼女だけは通さないというディフェンスをしている。

 そして、良くも悪くも悠里の活躍次第で調子が決まるチームだった。


 悠里が潰されれば後は、やりたい放題、されるだけだ。


 結果、俺たちのクラス女子バスケは2回戦で負けた。

 女子バスケの選手たちが教室へ帰ってきたときには、温かい言葉をみんなかけていた。


 その逆に、戦った先輩たちの陰口が聞こえた。


「悠里、調子乗ってたしスカッとしたわ~」

「ほんっとそれ」


 などと言って、きゃきゃと笑っている。

 悠里にも絶対聞こえているが、何事もないように振舞っている。


 すこし時間が経ってから、俺は保健室へ向かっていた。

 チームメイトの一人が怪我をした。

 これで俺のバスケ出場が決まった……。


 そして、保健室を出て教室へ戻ろうとすると、階段の陰で悠里らしき影が見えた。

 近づくと、悠里は肩を震わせながら静かに


「悠里、お前……」

「……負けたことが悔しい」

「そうか」


 なにか言葉をかけてやった方がいいのだろうが、俺にその言葉は見つけられない。


「先輩たちに、手も足も出なかったし、それに……みんなにも申し訳ない……」

「そんな事ねぇだろ、お前は頑張ったよ」

「あんなに、大口叩いておきながら……ほんとダサすぎる」

「ダサい? そんなことねぇだろ、お前は一生懸命最後まで戦ったんだ。それにまだ男子のバスケが終わってねぇよ、泣くんじゃねぇ」


 俺がそう言うと、悠里が顔を上げる。

 いつもは元気いっぱいの顔からは、涙しか出てこない。

 いつもとのギャップの差が激しい。


 大粒の涙を瞳に溜めながら、俺のことを見上げる。


「はぁ~、めんどくせぇけど、補欠の力見せてやるよ」

「期待しないでおく……」

「そっちの方が、驚きは大きいと思うぞ、なにせ本気でやるから」


 俺は悠里の頭をわしゃわしゃして、髪の毛がボサボサになったのを確認してやめる。


 もちろん悠里は怒るが、今回は笑っていた。

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