第35話 人形のような美少女は疑っている
「なーんだよ、こんな朝っぱらから、ボール持って公園に来いなんて」
「ちょっとな、体動かそうぜ」
「いやいや、これから十分動かすんだわ俺は」
「いいからいいから」
俺はぶつぶつと文句を言う、明人を公園のベンチに座らせ、来る前に買っておいたホットの缶コーヒーを渡す。
「いや、俺コーヒー飲めねぇよ」
「あれ? そうだっけ?」
「わざとだろ」
「そこまで性格は終わってねぇよ、じゃあ新しいの買ってくるよ、何がいい」
「温かいレモンのやつー」
明人から注文を受け俺は、指示通りしっかりと温かいレモンのやつを買った。
「ご馳走様っすー」
「ま、いいよ別に」
「それで? なんで急にこんなところに――――ってまぁ、大体予想はつくよ」
「あの明人でもわかるのか……」
「お前俺をなんだと思ってるの? ボール持って来いなんてそれしかねぇだろ」
そう言いながら、バスケットボールを指先でくるくると回す。
ボール回しというやつだ。
「ま、アップ始めるか」
「おうよー」
そう言って、ベンチから腰を持ち上げる。
◆
「はぁ、はぁ……お、おまえら……アップでこんなきついのか?」
「まぁ、ちょっとー辛いときあるよな」
「こ、これで、ち、ちょっと……」
細かい内容は端折るが、想像の2、3倍は辛かった。
「おいおい、もうバテたのか?」
「お前は……はぁ、さ、最近体育以外で運動をしていないやつにそんな言葉をかけるのか……」
「ま、お前だしな?」
「何が、お前だしなっだ」
適当なこと言いやがって、だがバテているまではいかないが、息が上がってアップ程度とかではないレベル。
「そろそろ、やるか?」
「はぁ……元気の有り余ってる奴だなー」
「いや、今のアップだろ」
呆れ気味につっこまれる。
いや、そうなんだけど、これがアップ程度とは聞いていなかった。
もっと軽めなやつかとばかり……。
「そんじゃあ、どうする?」
「スリーは2点、それ以外は1点で、10点先取した方の勝ち」
「なんか罰ゲームでもするか?」
唐突に罰ゲームなんか言ってきた。
俺が勝てる見込みはないわけじゃないが、相手のミスを祈るようなものだ。
ほぼ勝ち目はないので、罰ゲームをやる可能性が高いのに、受けるわけない。
「えー……お前有利じゃん」
「俺はスリーも1点でいいよ」
「えー、普通にやろうぜ」
「ちぇっ、しかたねぇ」
ハンデがしょぼすぎるような気がする。
やはりここでも受けたりはしない。
明人は俺の返答に不満があるみたいだが、普通の返しだろと思う。
「それじゃあ、やりますか、先行どうぞ」
「ほ~? バスケ部の余裕というやつですか?」
「これくらいはな?」
先に10点取った方が勝ちなので、先行の方が有利である。
それを堂々と渡してくる姿から、明人の余裕が見られる。
しかし、姿勢を低くして、ディフェンスの構えをしたときにはもうそこに油断という隙はなかった。
「くそが」
「なんだ? 余裕な雰囲気だしてるから油断してると思ったか?」
「少しくらいはしてくれると思ってたんだが」
「甘いぜ蒼、俺はお前の中学の時のバスケを知ってるんだ、油断なんてするかよ」
そう言って、靴をズリッと鳴らす。
ここが体育館でバッシュなら、キュッといういい音が鳴ったかもしれない。
「あーあー、俺の勝ち目が」
「やっぱり勝ちを狙ってたか」
「当たり前だろっ!」
次の瞬間俺は、ドリブルしながら姿勢を低くして右へ切り込む、それに秋ともしっかりとついてくる。
俺は左手で明人の身体をガードしようとした時、岩、壁か何かを押してるのかと思った。
「人の肉体じゃねぇだろっ! これっ……」
「ハハッ! こっちは鍛えてるんだよっ!」
コイツの身体がびくともしない。
それに、このまま突っ込んだらシュートなんて打てないし、打ったとしても角度がなく、入る可能性が低い。
これは一回立て直して……。
そう思って、後ろへ下がろうとした時、ボールに触られ、コート外へ出る。
「――――なっ!」
「はーい、残念」
「クソムカつく」
「今度はこっちが攻めなー」
「一本で止めてやるよ」
そう意気込んだものの、明人のシュートミスがなければそのまま10点取られていた。
俺は結局、4点しか取れず、明人に惨敗した。
一本で止めてやるなんて言った自分が恥ずかしい。
「スリーポイント、一発で決められたら引き分けでいいよ」
「引き分け? 別に負けでいいよ」
「いいから、打たないと悠里の報告するぞ」
「それほぼ脅迫だろ」
俺は明人の指示に従い、スリーポイントの位置に来る。
「スリーの位置はどこでもいいんだよな」
「あぁ、いいぜ」
俺はリングから左45度のところに立ち、構える。
ふぅーっと息を吐きながら、ボールを投げる。
ボールは綺麗な弧を描き、リングの中に…………。
◆◆
「じゃ、また学校で」
「はいよー。ありがとうな」
「おいっ、照れ臭いからやめろっ」
「言うこっちの方が恥ずかしいわ!」
なんて会話をしつつ、家へ戻ると、エプロン姿の蒼井が玄関で出迎えてくれた。
しかし、蒼井の表情はなにやら機嫌が悪そうに見える。
「どこに行っていたんですか?」
「あー……ちょっと運動に」
「運動ですか?」
その言葉を聞いてから、蒼井の不機嫌な様子は消えた。
運動とか以外で何があるのだろうか……。
「そうそう、結構ハードでしたよ」
「誰かと一緒にしたんですか?」
「うん、明人とね」
「あ、中学からのお友達とですか」
「疲れて寝るなよとか言われたよ」
俺をなんだと思っているんだ。
さすがに、あんなに動いて、すぐに寝るわけないだろ。
そう思いながら、蒼井の顔を見ると目を細めながら、こちらを見てくる。
「な、なんですか……」
「蒼さんは信用ならないので、寝ちゃいそうですね」
「なっ! 起きてられますよ」
「本当ですか? 絶対寝ないって約束できますか?」
蒼井は腰に手を当てながら、顔を近づけてくる。
俺はすぐに顔を逸らす。
「ぜ、絶対って言われると……」
「今日、私もすこしゆっくり目で行くので、駅の近くまでは一緒に行きますよ」
「え……俺、子供じゃないですよ」
「ダメです、行きますよ?」
「いや、でも……」
「行くんですっ」
「はい」
こうなった時の蒼井には逆らえない。
それに、このままだと本当に遅刻しそうで怖かった。
「今、朝ごはん作っていますので、手を洗ったらリビングでくつろいでいてください」
「じゃあ、先にシャワー浴びるてきます」
「あ、わかりました」
蒼井はそう言うとキッチンへ向かっていく。
しかし、またひょこっと顔だけ扉から出して俺のことを見つめてくる。
蒼井が何を言うのかわかった。
「ちゃんと服は着てから出ます」
「…………よろしいです」
ニコッと笑って、今度こそキッチンへ向かった。
人形のような美少女はせっせと料理を作る。
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