第33話 太陽のように笑う女の子は、彼女なりの気遣いがある

 球技大会が始まり、学年いや、学校中に熱がある。

 ドッジボールの一試合目は勝てたのだが、その後2、3年のクラスにボコボコにされ、ドッジボールは初戦敗退となってしまった。


 しかし、ドッジボール組は俺たちのクラスの中でも熱はそこまで強くないので、「先輩たちと当たったからな~」「どんまい、どんまい」という感じでゆるい。


 そのゆるい感じが、今の俺には合っている。


 しかし、教室に入るとだ……。


 俺たちが負けてから教室に入ると、ギラギラした視線が俺を含めたドッジボール組に向けられる。


 やばい……今日俺は殺されるかもしれない。


「最初から、あまり期待してなかったからな、男子のドッジボールは」

「そうそう、本気度が違うから」

「俺たちで頑張るしかねぇな」


 どうぞどうぞ、頑張ってくださいっ!! 俺は心の中で、応援して恨みを買わないように静かに教室へ入る。


「そ~お~?」

「あ……やべっ」

「やべってなんだこら」


 ポロっと声が出てしまった。

 でもすごく小さい声で言ったつもりなのに、なんで聞こえるんだよ。


「矢部だよ、矢部」

「矢部って誰よ」

「ま、まぁ、いいだろ」

「そんなことより、初戦敗退?」

「初戦というか、グループリーグ敗退だから、明日は見学です」


 俺が今日の戦績を正しく言うと、悠里の頭に怒りマークが……。


「ま、仕方ないか」

「へ? 怒らないの?」

「なんでこんなことで怒るのさ」

「いや、優勝狙ってたし……?」


 俺がそう言うと、う~んと腕を組みながら考えている。

 その腕の組み方といい、立ち姿といい、小さいマスコットのように見える。


「優勝はしたいけど、人それぞれ得意、不得意があるし、そこまで責めたりはしないし、勝負の世界だからねっ! 勝ち負けはしょうがないっ」

「なるほど……さすが悠里様です」

「そうだろ、そうだろ~」


 両手をするすりとこすり合わせながら、褒めると、悠里は満更でもない感じで鼻を高くしている。


「まぁまぁ! 私に任せておきなさいっ、蒼の分も勝利を勝ち取ってきてあげよう」

「おー、頼んだ頼んだー」

「ふんっ!」


 悠里はそう鼻息を鳴らして、くるっと振り返り、女子たちの方へ向かっていく。

 もしかしたら、あれは悠里なりの励ましだったのではないだろうか。と俺は一人になって考えた。


悠里なりに気を遣ってくれたことに、感謝と申し訳なさがある。

負けたことに対して全く残念と思っていないからだ。


 だが、悠里の心遣いにはしっかりと感謝しつつ、ありがたいなと思う。

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