第29話 太陽のように笑う女の子はくすぐりに弱い

「蒼ー種目はもう決めたのか?」

「いや……まだ」


 俺は明人から目を逸らしながら言う。

 明人は俺の言葉を聞いて、ため息を吐きながら俺の肩に手を置いてくる。


「お前もバスケやらねぇか?」

「いやいや、俺に優勝っ! みたいな熱意はないぞ」

「別に熱意が他の奴らと足りないからって参加しちゃいけないわけじゃないだろ」


 明人のくせに真面目に答えてくる。

 俺はその言葉に、なにも言い返せなくなってしまい、言葉にならない声を出すしかなかった。


 自分でも不甲斐ない……。


「一緒にやろうって言ってくれるのは本当にありがたいけど、やるんなら熱意があるやつとかやりたい奴がやった方が――――」

?」

「俺が?」

「じゃあ、何で迷ってるんだよ」

「…………別に、ただ言うのが遅くなっただけだよ」


 俺はそう言って、また逃げた。

 明人から、自分から、過去から、バスケから……。


◆◆

「あ~! やっと見つけたっ」


 明るい声なのにどこか呆れているような口調で話される。

 そこには、両手を組んでショートカットの髪の毛を揺らしている悠里が立っていた。


「あ……やべ」

「やべとか言ったか? おい、おぬし今やべとか言ったか?」

「言いました」

「ということは、なにか隠していることや思い当たることがあるじゃろうな」


 なんなんだ、その物語の序盤で出てくる、村長のような口調は……。

 とツッコミたくなるのをぐっとこらえる。


「君が犯した罪は何かね」

「つ、罪?! そこまで重大じゃないような気がするけど」

「まだ、球技大会でやる種目の希望表出してないだろ!」

「罪じゃないだろ!」

「明日までなのに?」


 そう言われると、心に刺さる。

 色々と考えすぎて、なにも考えたくなくなってしまう。

 やめてっ! もうライフはゼロよん。


「おぬし反省しておらんなっ!?」

「え、ちょ……何する気だ――――」

「ふっふっふっ、楽になるぞよ」


 手をなにやらいやらしく動かす。

 うにょうにょとタコの足のようだった。


 ――――すると、次の瞬間、俺の脇腹や、脇にズボッと手を押し込む。


 そこで、指を動かす――――そう、悠里がやってきたのはこちょこちょだ。


 小さく、可愛らしい手が俺の身体をくすぐる。

 くそ、やられてばかりでは男が廃るということで、俺も反撃をする。


 彼女のスポーツをしている、しっかりとした身体だが男子とは違う。

 どこか弱さを感じさせるそんな身体に俺は自分の手を滑り込ませ、こちょ、こちょこちょとくすぐる。


「やぁ……ん」


 おっと? おっとっと……。


「ちょ……さすがに、ん……」


 これ以上はダメだな。

 俺はそこで指を止め、悠里の制服から手を抜く。


「悪い悠里やりすぎ――――」

「蒼の変態セクハラバカ、モテナシー!!」


 腹と顔にグーパンを二発クリーンヒット。

 やめてっ! 俺の精神と肉体の体力はもうゼロよん!


 みぞおちを殴られてないだけマシだったが、かなりの強さで殴られた。


 腹と顔を抑えながら、よろよろと立つ。

 しかし、悠里からあんな声が……。


 新たな発見があった。と思う反面、どうしようという気持ちも残った。

 それに


「まだプリント出せてねぇよ……」


 自分のファイルから、プリントを出し見つめていると、明人の声が蘇る。

 クソ……明人は悪くない。悪いのは自分なのに。


 そう思い込ませ、逃げるようにプリントをしまった。

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