第28話 人形のような美少女は球技大会の種目決めを悩まない

「どうしよう……」

「どうしたんですか?」


 俺がリビングでテーブルに頭を突っ伏しながら、唸っていると、蒼井が顔をのぞかせて、心配してくる。


「あー……球技大会何に出ようか迷ってて……」

「球技大会ですかー……もう少しでありますもんね」

「蒼井さんは、なにか決めたんですか?」

「私はドッジボールかバレーかなーと」

「いいですねぇ、運動神経いいらしいですよね?」

「やめてくださいっ、そんなに良くないですよ」


 恥ずかしそうに、手を横にブンブンと振る。

 そんな姿が面白いとちょっと思いながら、また自分の問題について考える。


「蒼さんは、どれがしたいんですか?」

「う~ん、バスケもバレーもガチっぽくて……ドッジボールは比較的マシなんですが……」

「何か問題があったんですか?」


 蒼井は、じゃあドッジボールで決まりでは? と首を傾げている。

 外でやるのが嫌、なんて小学生みたいなわがまま蒼井に対して言いたくなかった。


「そ、外だと日差し強くて、熱中症とか危ないかなって……」

「天気がいいと、辛いかもしれませんね」

「で、ですよね」

「でも、対策をしてないわけではないですよ、1戦ごとに水を飲んでいただいて、1試合も6、7分と考えているので」


 やばいちゃんとした答えが、返ってきてしまった。

 もう、この理由で行くしかない。


「そ、そうですよね」

「はい、私てっきりのかと思っていました」

「ど、ど、どうしてですか?」


 心臓がキュウッと締まり、いい気持ちはしなかった。

 なんで、蒼井が俺がバスケをやると思っているんだ?


 俺は急なことで、声が裏返ったり、あたふたしていた。


「前に優子さんにバスケの試合の動画を見せてもらいました」


 やっぱり母さんか……。

 でも母さんには、元カノのことは言ってないし、チームメイトと仲が悪くなったとしか伝えてないからな。


 それに、練習試合とか、大会となると、必ずといっていいほど見に来てくれたからな……。


 感謝もしているから、蒼井に見せたことは許そう。


「母さん……なんでも見せていいってわけじゃないでしょう」

「か、かっこよかったですよ?」


 蒼井は優しいからな。

 あの時は自分が周りに合わせられなかった、一人でやっていると感じることが多かった気がする。


 自分勝手なクソガキって感じ。


「……ありがとうございます」

「嘘ついてると思ってます?」


 蒼井が本心ではなく、お世辞で言っているとは思っていた。

 いや――――


 蒼井は目を細めて、ジトっとした目で俺を睨んでくる。

 いや、だって、かっこいいなんて……ねぇ?


「私は、一生懸命にチームの為に頑張る姿を見てかっこいいって思ったんですっ! 私の気持ちを嘘で決めないでください」


 グイッと顔を近づけてくる。


「ご、ごめんなさい……」

「こういう時は、ありがとうですよ?」

「…………あ、ありがとぅ」

「はいっ」


 最後、俺の声は小さくなっていた。

 俺の言葉を聞いた後、蒼井のはにかんだ笑顔が頭から離れない。


 俺の考えが解決したわけではないのに、どうでもよくなっていた。



 




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