第27話 太陽のように笑う女の子は夏が待ち遠しい

「あーあー早く夏休みにならないかなー」


 悠里はそんなことを言いながら、スライムのように机に突っ伏している。


「夏休みになったら、練習だろ? 練習試合だろ? それに……練習」

「ほんと、大変だな」

「大変って一言で表すのは酷ってもんだぜ」

「でもその分、夏祭りとか心の底から楽しまないとね!」


 夏祭り……そう聞いて、一番最初に浮かんだのは蒼井の浴衣姿だった。

 なんで蒼井のって思ったけど、単純に似合うからだろうなと考える。


 あとは、個人的な問題で見てみたいと思ってしまった。


「でも、その前に二人は追試にならないように、テスト勉強頑張らないとだな」

「うげぇ~テスト終わったのに、もうテストー?」

「でもその前に、球技大会があるから、リフレッシュもできるだろ」

「球技大会! 一年生だからって、甘く見てる先輩をぎゃふんと言わしてあげよう!」

「すごい熱だな」

「そりゃあ、先輩とガチンコで当たれるんだよ!?」


 そう言いながら、悠里は拳を握り、交互に空手の突きのようなものをして、全身で楽しみを表している。


 俺は最近はスポーツもしなくなったし、運動も体育くらいだからなぁ……。

 前までは――――バスケも……俺はそこで考えるのをやめた。


 俺は逃げたんだ。

 あのまま続けている明人に申し訳ない。

 もし球技にバスケがあっても、出ないようにしよう。


「球技って何があるんだっけ?」

「まだ決まってないとおも――――」


 そこで、教室の扉が開く。

 ――――その瞬間、教室にいた誰もが静かになった。


 蒼井幸奈が教室へ入ってきた。

 「え? なんでこの教室に?」「か、かわいい~」「スタイル良すぎだろ」「何カップくらいあるんだ」とか男子が騒ぎ出す。


 女子は妬む視線を送る者もいれば、憧れのような眼差しを送る者も。


「水嶋悠里さんはいらっしゃいますか?」

「悠里は私だけど、どうかしたの?」

「今日体育委員は集まりがあるんですが……、忘れてました?」

「あーっ! ご、ごめんなさいぃ!」

「大丈夫ですよ、先輩たちのクラスも何クラスかは、集まっていなかったので」

「あ、ありがと~」


 悠里は、くるりとこちらの方を向き、俺と明人に合図を送ってくる。

 両手を合わせて、ごめんっと。


 別に大事な話はしていないし、蒼井が入ってきた時点で、会話は終了したような物だろう。


 明人はへらへらと笑っている。

 俺は無反応を突き通した。


 チラッと、蒼井に視線を送る。

 本当にチラッとだけだ、そこまで長い時間は見ていなかったはずなのに、ばっちりと目が合った。


 俺はすぐに、目を逸らした。

 いや、悪いことをしているわけではないが、反射的に目を逸らしてしまう。


 もう一度見ると、もうそこに蒼井はいなかった。

 気づいてない……? いや、絶対に気づいてるよな?


「球技大会の種目の話だった!」


 十数分くらいして戻ってきた悠里が、元気よく大きな声でクラス中に言っている。


 コイツの喉にはスピーカーか何かついてるのか? と疑ってしまう時がある。いや、割とマジで。


「そんな大きな声出すな」

「だって! バレーとバスケ、ドッジボールまであるんだよ?」


 こりゃやるっきゃないでしょ! と熱血主人公のスポーツ漫画のような展開……。


「そろそろクーラーもつける時期なのに、暑苦しいわ」

「なんじゃと? この日陰人間が! すこしは太陽の光を浴びんか!」

「オ、オレハ、ヒカリガキライ……」

「なんでカタコト? それに、光が苦手って吸血鬼かっ!」


 ナイスツッコミ、と言いたくなるが、暑い時期に動いてわざわざ汗をかきたくない。


「でも体育館の関係で、ドッジボールは外競技になるかもって」

「なっ……仕方ない考えなおすか」

「え? なに?」

「室内だったら、ドッジボール一択だったが、外なら考え直す」

「まぁた、この日陰少年は!」

「あーはいはい、すみませーん」


 俺は適当な言葉を並べて、外の競技でもしっかりやれと説教をしてくる悠里をやり過ごす。


「まぁまぁ、悠里、蒼はこういう奴だからさ」

「もー明人は甘いよぉ」

「マジかー? 俺蒼に対して甘いか?」

「甘いっ! 恋人かっ!」

「うわ、それは無理だわ」


 下を出しながら、「無理無理」とケラケラと笑いながら言う。


「俺もお前はお断りだ」

「あははっ。だよなっ」


 俺も口をとがらせながら言うと、明人はさらに笑う。


 俺はその時、自分がなんの種目に出るかではなく、蒼井が何に出るかを考えていた。

 噂によると、運動神経もいいって聞くからな。


 ドッジボール? いや、どちらかと言うと、バレーの方が似合うな。

 ポニーテールで鉢巻なんかつけてたら、もっと似合うな。


 俺はまず自分の種目をしっかりと決めないとなと笑ってしまう。

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