第26話 人形のような美少女は苦手なホラー映画を観る

「海外映画系のやつと、日本の映画どっちがいですか?」

「どちらも同じようなものではないんですか?」

「う~ん、海外系のやつは、驚かしてくることが多いです。日本の映画は呪いとか幽霊とかの方が多いと思うかな」

「蒼さんはこういう、怖い映画をよくみるんですか?」

「怖い?」

「ほ、ホラーってことですっ!」


 蒼井は間違えたって焦りながら言ってたけど、怖い映画って言ってたよな? いや、間違ってはいないんだけどさ……。


「良くは見ないけど、面白そうなのは

「怖い映画に、面白いとかあるんですか…………」

「え? 何か言った?」

「いえ、なんでもないです」

「あ、そう」


 蒼井はスンとした表情をしている。

 まー、面白いと思ったのを見ればいいか。


 蒼井は全部初めて見るだろうし。


「これにしようか」


 俺はタブレットの動画配信サービスにサブスクしているので、無料で観れる。

 タブレットで、映画の画面まで行き蒼井にも見せる。


「海外系のやつですよね?」

「そうそう、怖いシーンもあるけど、普通に面白いよ」

「見たことあるんですか?」

「まぁね、話題だったから」

「じゃあ、嫌です」

「え? どうして?」


 返事は「NO]だった。

 俺が蒼井にその理由を聞くと、俺のことをジッと見つめてくる。


「蒼さんも見てないのがいいです」

「俺は別に大丈夫ですよ?」

「二人で楽しめる映画がいいです」

「何回でも楽しめますよ?」

「そういう問題じゃないです」


 ぷくっとすこし頬を膨らませている気がする。

 二人で楽しめる映画か……。


「じゃあ、これはどうです? この人形に幽霊が乗り移るやつ」

「…………観たことないですか?」

「はい、ないです」

「じゃあ、それにしましょう」


 蒼井の承諾も出たことだし、俺は再生のボタンをタップしようとした時だった。


「待ってくださいっ」

「ど、どうしました……?」

「ポップコーンを作ったので、持ってきます」

「ポップコーン作ったんですか?」

「はい、映画館ではないですけど、雰囲気は大事かと思って」

「なるほど、とてもいいと思います」


 こういう時に、雰囲気作りも欠かさない蒼井に俺は感心した。

 パーティーではないが、そういうのに疎いと勝手に思っていた。


 蒼井自身こういったことが好きなんじゃないか?

 ホラーは苦手だろうけど。


「キャラメルにバター醤油、塩もあります」

「バター醤油もらっていいですか」

「はいどうぞ」


 小さな可愛らしいカップに入っているポップコーンを渡される。

 蒼井はキャラメルをとった。


 全種類食べるつもりだが、キャラメルも欠かさず食べよう。


「それじゃあ、再生しますね」


 俺は再生ボタンをタップした。


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ひゃあぁっ!」


 映画で一人の少女が人形に襲われたときの悲鳴で、蒼井も身体をビクつかせて、驚いた声を出す。


「ご、ごめんなさぃ……」


 大きな声を出してしまったことに対して蒼井は小さな声で謝ってくる。


「大丈夫ですよ、今のは怖かったですね」

「は、はいぃぃ……」


 そう言いながら、ふるふると震えながらまた映画に目を向ける。

 しかし、さっきからすこし大きな音が鳴るたびに、ビクッと反応している。


「ふわっ!!」

「あははっ……ふわって、なんですか?」

「だ、だ、だって……い、いま人形がすぐ目の前にどんって、どんって……!!」

「海外映画でよくあるやつですね」

「よくあったら、耐えられません」

「やめますか?」

「いいえ、やめません」


 怖いなら、やめるかという俺の提案を拒否して、またジッと真剣に映画を見る。

 蒼井はなにかと、負けず嫌いな気がする。

 ソファーにある、クッションに顎を乗せ、抱きしめている。


「あっ……エンドロールが流れましたねー」


 気づくと映画は終わっていた。

 中々に面白く、俺もビクッとなるシーンも多かったので、蒼井のことを馬鹿にはできないのだが……。


「蒼井さん? どうしました?」

「あ、あの……こ、腰が抜けて……」

「だ、大丈夫ですか?」

「ち、力が……」


 俺は蒼井に手を貸して、ソファーに立ち上がらせる。


「ありがとうございます……」

「本当に大丈夫ですか?」

「は、はいぃ……そ、それより! ね? 大丈夫だったでしょう?」


 ホラーは苦手じゃないんですっと胸を張っているが……。

 たしかに、途中でリタイアしなかったのはすごいけど、ホラーは苦手に決まっている。反応からして……。


 映画の途中なんて、怖かったのか、涙目になっていた時もあるし。


「そうですね、リタイアしなかったのはすごいです」


 俺はそう言いながら、蒼井の頭に手を伸ばしていた。

 俺はハッと気づき、すぐに手を引く。

 無意識だった。蒼井は気づいてなかったので良かったが……。


 もし、これがバレていたら――――なんて怖いことを考える。

 この関係が壊れてしまう。今この関係が俺には心地がいい。


「今日、寝れるんですか?」

「ね、寝れますよっ!」

「夜、人形が――――」


 俺は蒼井の反応が面白く、からかってしまう。

 すると、蒼井は両方の耳を、両手で塞いで。


「あーあー! い、意地悪しないでくださいっ」

「ごめんごめん」

「もう! ね、寝れなくなったら責任とってもらいますからね!」

「責任とは」

「と、とにかくっ! おやすみなさいっ」


 そう言いながら、ぱたぱたと急ぎながら自室へ戻って行った。

 責任……とは何を取らされるんだろうか。

 

 タブレットの電源を落とし、俺も眠る準備をする。

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