第24話 人形のような美少女は一人で帰りを待つ [蒼井視点]

 キーンコーンカーンコーンと、学校のチャイムがいつも通り6時間目の授業の終わりを知らせる。


 金曜日の6時間目の先生は教科書を閉じ、コホンコホンと二回咳払いをして「今日はここまで」と言うまでがセット。


「じゃあまた明日、蒼井さん」

「あ、蒼井ちゃん、またね」

「あおいさーん」

「はい、さようなら」


 クラスメイトに帰りの挨拶を言って、自分のバッグを持ち、帰る。

 愛想笑いを欠かせない。正直息苦しい。というより気を遣うのが疲れる。


「ただいま帰りました」


 誰からも返事がない。まだ蒼さんも帰ってきていないし、そういえば今日、優子さんは仕事で遅くなると言っていた。


 最近はすることも少なくなった晩御飯を作りましょう。

 久しぶりなので、腕によりをかけて作らなくちゃいけませんねっ。


 美味しいって、褒めてくれますかね……。


 蒼さんは、私の料理を「美味しい」と口に出して褒めてくれる。

 しかし、いつも同じく美味しいと……でも本当に美味しそうに食べてくれるので、嘘ではないですね。


「よいしょ」


 せっせと晩御飯の用意をする。

 お米を研ぎ、炊飯器で炊いて、今日は鮭のホイル焼きにしましょう。


 鮭のホイル焼きのレシピを見ながら、怪我や失敗をしないように、丁寧にかつ早く作る。


 前までは褒められることもあまりなかったし、母が無くなってからはご飯を誰かと食べるなんて思ってもいませんでした。


「…………早く帰ってこないかなぁ」


 私がそんな独り言をポツリと呟く頃には、ご飯も炊けて、ホイル焼きも完成していた。


 しかし、蒼さんは帰ってこない。

 優子さんからも連絡はないし、遊びに行っているのでしょうか……。


 上手にできたと思ったのですが……。

 私はもうすこし待つことにしました。


 蒼さんはめんどくさがり屋ですが、とても紳士的で優しさがあり、信頼できる男の子です。

 私が風邪をひいた時も、眠るまで黙ってそばにいてくれて、私を必要と私が居たら幸せになるとまで言ってくれました。


 昔、母が言ってたことがありましたね……。


「好きな人のことは、胃袋を掴め……と」


 好きな人、その単語に私はすぐに顔が熱くなるのが分かった。


「す、好きな人って……大袈裟ですね。私が蒼さんのこと信用しているのは確かですが、あくまで信用、異性としての好きではないです」


 私は、自分に言い聞かせた。

 好きではなく、人として信用ができると。


 男の人の中だったら、一番に信用はできます。

 仕方ないですね。蒼さんは帰ってくる気配がないので、一人で食べますか……。


 その時、ガチャっと玄関の扉が開きました。


「ただいまー」

「あ、お帰りなさい……」

「ごめんなさい、遅くなって、連絡先しらないもので」

「い、いいんです……あの、ご飯できてます」

「…………ありがとうございます」


 あれ? あまり喜んでいない気が…………前はぱぁっと表情が明るくなったのに、今日は暗いというか、変化しません。


「今日、なにかありました?」

「えっと、その……」

「言ってください、怒りませんから」


 蒼さんはもじもじとしていて、なにか言いづらいことでもあったんでしょうか。

 私の料理が本当は美味しくないとか?


「わかりました、話します」


 蒼さんが謝ってきたのは、もう既に晩御飯は食べたとのこと。

 今日は外で食べてきて、私の料理を食べられないことに残念がっていました。


「別に、明日食べればいいじゃないですか」

「いや、今日食べたかった……です」

「ふふっ、そうですか。ありがとうございます」


 たまに、子供っぽいところがあるのも可愛らしい所です。

 私に弟が居たら、こういう感じなんだろうなと思います。


「…………一人じゃない」

「え? なにか言いました? やっぱり怒ってるとか?」

「どうして、私がそこまで怒っていると思うんですか」


 蒼さんから見て私は鬼にでも見えているんでしょうか。

 たしかに、ここに来た時のことを考えると冷たく接していたのはわかりますが……。


 もうすこし私に心を開いてくれても――――ってなに考えてるんだ私……。


 考え事をしながら、私は自分で作ったホイル焼きを一口。

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