太陽のような笑顔の女の子

第23話 太陽のような笑顔の女の子は牛丼を奢ってもらう

「蒼~今日ひまー?」

「どうしたんだよ急に……」

「そんな露骨に嫌な顔しないでよ……」


 俺が何をされるんだと顔を引きつりながら、身構える。

 そうすると、悠里は腰を低くし、両手をこちらに向けウ〇トラマンのような体制をとる。


「お前は今から何と戦うんだ」

「怪人、ヘタレめんどくさがり男」

「なんて弱そうな怪人なんだ」

「結構強いよ、周囲の人間のやる気をなくさせる能力」

「それ……強いか?」


 俺がそんな怪人、パンチ一発でやられそうだがと考えていると――――グスッと脇腹に悠里の小さな手刀が入る。


「ぐふっ――――ってなにすんだ」

「ふっふっふっ、守りが甘いのだよ」

「お前の方が怪人じゃねぇか」


 俺がそうツッコミを入れると、悠里はケラケラと笑う。

 彼女が笑うと、空気が暖かくなる気がする。

 彼女が笑うと、天気が曇りでも晴れているように感じる。


 水嶋悠里という女の子は、


「――――で? 俺に本当は何の用なんだよ」

「あっ! そうだよっ。私のこと前に侮辱したでしょ? だからそのお詫びに牛丼食べたいから奢って?」

「は? 牛丼?」


 もうすこし、女の子らしい食べ物を……いや、食べ物に男も女もないな。

 それに、悠里はバスケットボール部で期待の新人として頑張っている。


 身長は小柄なものの、スピードやシュートの精度や状況の判断など、優れているものがあるって前に、通りがかったバスケ部の先輩らしき人が言ってた。


「なに? 牛丼じゃダメ?」

「いやいや、いいですよ? もちろん」

「ようし!」


 ピースと俺にVサインを送りながら、ニッと笑う。


「蒼ー! 早く入るよ!」

「はいはい――――って、二人きりかよっ!」


 牛丼のチェーン店に着いたはいいものの、俺と悠里の二人とは聞いていない。というより聞かなかった。明人は絶対に来ると思っていた。


「しかたないでしょ? 男バスは練習試合近いから休みが別なのー」

「ま、まぁ……練習試合が近いなら練習しないといけないな」

「ありゃ? やけに聞き分けがいいね」

「あ……いや、そりゃ負けたくないだろ」

「ま、それもそうだね! からね!」

「…………そう、だな」


 なぜだろう。悠里の勝たなきゃ意味ない。この言葉が間違っているとは思わない。しかし、とても悲しい気持ちになったのは事実だ。


 違うとも言えず、なんとも言えない気持ちを胸の中にしまって、牛丼屋の中へ入っていく。


「お前……その超大盛食べるのか?」

「……ダメ、かな?」


 ここでダメと断ったら、罪悪感に苛まれそうだった。

 お爺ちゃんが孫のお願いを断れないのはこういうのなのかもしれない。


「だめじゃないけど、食べきれるのか?」

「大丈夫、女子高生舐めんなぁ?」

「ほほう?」

「部活でも、たくさん食べろって言われてるし」

「部活でもか……さすが体育会系」


 でも、女の子にたくさん食えってアウトな気がするけど……。


「蒼ー? いま変なこと考えたでしょう?」

「か、考えてませんっ!」


 ブンブンと全力で頭を振る。

 それと同時に、店員さんが注文したものを運んできてくれる。


「それじゃあ、いただきまーん」

「ちゃんと言ってから食いなさい」

「ほめんほおめん」

「もういいから、食べるのに集中しろ」


 俺ははぁ、と呆れながら自分の頼んだ牛丼を紅ショウガと合わせて食べる。

 とても美味い。久しぶりに食べる牛丼はこんなにも美味しい。


 そのまま二人で食べ続け、牛丼に夢中になっていた。


「はぁ~、食べたなー」

「ね? 食べれるって言ったでしょう?」

「あぁ、マジですごいな」

「へへんっ! すごいだろ~!」


 悠里はそう言いながら、胸を張り、すこし顎をあげて鼻を高くしている。


 ――――あれ? これって夕飯だよな……?

 俺はここでを入れていないことに気づいた。


 ていうか、連絡先知らないじゃん……。


「またこよーね!」

「当分いいかな」

「次は超ビッグサイズを食べて見せよう」

「あんまり無理すんなよ、そして俺の財布も気にしてくれ」

「了解ッ!」


 へへっ、とすこし男の子のような笑い方をした後、やはり暖かい空気になる気がする。牛丼を食べた後かもしれないが……。


 水嶋悠里という女の子は、



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る