第21話 番外編 人形のような美少女とゴールデンウィーク
「蒼~?」
学生の味方ゴールデンウィークが始まり、数日が経った。
俺はゴールデンウィークで外にも出ずに、溜まっていたゲームやアニメを消化していた。
そんな時、母さんに突然呼ばれ、自室から急いでリビングへ向かう。
「どうしたの?」
「ん」
「え、なにこのお金……くれるの?」
母さんに渡されたのは1万円という、つい最近まで中学生だった俺には大きな額だった。
「なわけないでしょう? そのお金で幸奈ちゃんと外出ていきなさい」
「外出ていきなさいって……」
「言い方が悪かったわね、遊びにでも行ってらっしゃい?」
「いや、いいよ別に」
俺がすぐにお金を返そうとすると、母さんは露骨に嫌な顔をした。
「だめよ」
「いやいやいや、だって幸奈だって行きたくないだろうし……」
「幸奈ちゃんが行くなら行くのね?」
「いや、そうとは言ってない」
「あら? 幸奈ちゃんは準備万端らしいわよ?」
「え……?」
母さんが後ろをチョンチョンと指さす。
振り向くと、そこには私服姿の蒼井が小さなカバンを持って立っていた。
服装はシンプルで、淡い紫色のワンピースに黒のカーディガンを着ている。
服装はシンプルだが、とても似合っている。
色合いもいかにも春をイメージさせる色で、とてもいい。
「優子さんから、出かけると聞いているので……」
「え、二人でですよ? いいんですか?」
「蒼井君が嫌なら、行かなくても」
「そ、そうじゃないですっ」
「ふ~ん、そうじゃないなら行けるわよね?」
ニヤニヤした様子で俺の方を見てくる。
「あ~、いいわねぇ若い子の青春ってやつ?」
「母さんうるさい」
「せいしゅん?」
「あ、蒼井さんは聞かなくても大丈夫ですよっ」
蒼井に聞かれたらどうするんだこの親は。
はぁっと心の中でため息を吐いた後、俺は自室へ戻る。
「どこ行くの?」
「着替えてくるんだよっ!」
「は~い」
母さんは甘ったるい声を出してひらひらと手を振ってくる。
お酒でも飲んで酔っているのかと思ってしまう。
いや、むしろもう酔っていてほしかった。
素面でこれはきついだろ。
「まったく……母さんは本当に勝手なんだから」
俺はぶつぶつと文句を言いながら着替える。
黒のジーンズに、黒色のシャツ、ベルトをして、最後にワックスで髪の毛を整える。
「わぁ……」
「あらっ! いいじゃない。あの人に似てかっこいいわよ?」
「はいはい。お世辞はいいから」
「お世辞じゃないわよー、まぁ、目は私よりなんだけどね」
ぱっちりしてて可愛いわと言っている母を横目にため息を吐く。
「母さんは放っといて、どうしますか?」
「――――えっ!? あ、あの……私、行きたいところがあって……」
「行きたいところですか?」
「はい」
蒼井はスッとスマホをバッグから取り出し、画面をパッと見せる。
そこには、クマさん型のパンケーキが可愛く撮られている。
「ここは――――カフェですか?」
「はい、最近クラスの子たちが話してて、パンケーキも可愛いし、とても美味しいらしいので」
「なるほど……」
高校生男子が入りにくそうな場所だ。
しかし、蒼井のお願いを断れる気もしないし、どこに行くかも決まっていなかったので、もうそこで決まっているみたいなものだ。
「いいですよ?」
「本当ですかっ! ありがとうございますっ」
蒼井はそう言いながら、ニッ口角を上げる。
そんなに行きたかったのか……。
最近になってだが、蒼井は段々と表情を豊かにしてる気がするのだが……気のせいか。
「パンケーキいいなー」
「母さんも行けば?」
「私は今日、ゆーっくりお休みするのでダメでーす」
「お邪魔者は行きますよ」
俺は母さんに向けて、嫌味を言うかのようにリビングから出て、靴を履く。
「蒼さん? 優子さんはお邪魔なんて思っていませんよ?」
「……え?」
「優子さんは、せっかくのお休みなのに外に出ない蒼さんを気遣ってだと思いますよ?」
「……そうですね」
ひきこもり……そう言われてしまえば終わりなのだ。
反論の余地もない。
「ごめんなさい、蒼さんのことを悪く言うつもりではなかったのですが……」
「いいですよ、分かってます」
「自分のお母さんのことを、もっと理解してほしくて……」
蒼井はそう言うと、眉を下げるとともに、俺の目を見つめてきた。
大きな瞳、白く柔らかそうな肌。
ふっくらした唇がリップで赤くなっている。
正直、可愛い。
女性に苦手意識、トラウマがある俺でも、この子はとても可愛いと思う。
そう思えるのは、蒼井の性格がとてもいいからだろうか。
「…………絶対に一途だよなぁ」
「ん? なんですか?」
「あっ……いや、別になんでもないです」
行きましょうと、蒼井と玄関から出ていく。
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