第20話 人形のような美少女と風邪
「かなりきつく怒られてたな」
「テスト前ってこともあって、遅刻するとは何事だ―ってな」
「まぁ、遅刻する方が悪いからな」
今日はテスト前の勉強週間ということで、短縮授業でお昼で帰れる。
帰りに、コンビニでもよって、買い物でもしてくか。
俺は帰りにコンビニでスポーツドリンクや、ウィダーインゼリーを買って家に向かう。
「ただいまー」
家に帰った報告をしても、誰からも帰ってこない。
母さんの車はなかったし、買い物に行ったんだろう。
今朝、仕事を休むと連絡を入れていた。
「蒼井? 起きてるか?」
俺は蒼井の部屋の扉を二回ノックする。
しかし、返事がない。
扉をそっと開けると、蒼井は眠っていた。
俺は起こさないように静かに、自分が買った飲み物を部屋に置いておく。
「お大事にな」
小さい声で一言、言って、部屋から出ようとした。
「…………ないで」
「え? 蒼井さん、起きて――――」
「行かないで……お母さん……」
蒼井のその言葉に俺はその場所から一歩も動けなかった。
胸が苦しくなった。
母さんから、話は聞いてたし、蒼井からも詳しくではないが聞いたことがある。
蒼井の母親は、蒼井が小さいころに交通事故で亡くなったと。
それから、父親が仕事一筋になったのも。
蒼井は大人びているけれど15歳の普通の女の子なのだ。
母親の存在が彼女にとってどれだけ大きかったのか。
「蒼井……」
「――――あれ? そう……さん?」
すると、蒼井が目を覚まし、立っている俺とパチッと目が合う。
「どうですか? 体調の方は」
「今朝よりは、とてもよくなりました」
「そっか……それはよかったです」
「あの……これは」
「近くのコンビニで買ってきました」
俺がそう伝えると、蒼井はベッドの横になったまま、「ありがとうごさいます」と言いながら、しんどそうに微笑む。
「無理しなくていいですよ」
「あの……すみません、私なにか寝言とか言ってましたか?」
「え? 寝言?」
「は、はい」
蒼井は恥ずかしそうに、ベッドに潜り込み、顔を目だけ出るようにして、見つめてくる。
これは上目遣いで話されるよりも、破壊力が高い。
「寝言というか、その……お母さんって言ってたぞ」
「……お母さん、ですか」
蒼井はその言葉を聞くと、眉を下げる。
本当のことを言った方がいいのかはわからなかったが嘘を言うのも違うと思った。
「じゃあ、ちゃんと安静にしててくださいね?」
「え……行っちゃうんですか?」
「えっと、はい。いつまでも自分の部屋に居られても休めないですし、男の俺が部屋にいるのも嫌でしょう?」
俺は立ち上がって、自分の部屋に戻ろうとすると、ベッドの方からゴソゴソと何かが擦れるような音がする。
振り返ると、蒼井が自分のベッドから出て、俺の方に腕を伸ばしている。
「ど、ど、どうしたんですかっ!?」
「…………い、行かないで」
「へ?」
「行かないで……くださいっ」
俺の頭の中はパニック状態。
どうしてこういう状況になっているかもわからなくなっている。
俺の胸に蒼井の身体が倒れ掛かる。床に倒れないようにしっかりと支える。
そのため、蒼井の身体と俺の身体が密着している。
とてもいい匂いがするし、柔らかいし、軽いし。
それに一番ロマンを感じるところが、当たっている。
服装も、パジャマというゆるい格好なので感触がよくわかる。
――――そう、蒼井山である。二つの決して小さくない、存在感のある山だ。
おっとっと、欲望に駆られてはいけない。
俺はグッと欲望という名の悪魔を押し殺して、理性という天使を自分の中に召喚する。
「一旦、ベッドに戻りましょうか」
「迷惑をかけてしまい……ごめんなさい」
「大丈夫です、何かありましたか?」
俺がそう聞くと、蒼井は悲しそうな目をしている。
「私の母のことです……私の母が交通事故で亡くなったのは知っていますよね?」
「……はい、母さんから聞きました」
「交通事故で亡くなった日、私は風邪をひいてしまい、その日は、風邪薬が切れてたんです」
「…………もしかして」
「はい、私の薬を買いに行って母は交通事故に遭いました」
さっきの行かないではそういうことか。
自分の昔の出来事による、不安からか……。
「私のせいで……母は」
「蒼井、それは違うよ」
「え?」
「お前のせいなんてことは絶対にない。お前の母さんは絶対に自分の娘に殺されたなんて思ってねぇよ。娘のことを愛してたから薬を買いに行ったんだろ」
「私が風邪をひくと、身近な人が不幸になります……」
「俺は不幸になんてならないよ」
俺は蒼井を安心させるために言った。
でも、本心だった。蒼井の悲しそうで、今にも泣きそうな顔を見ていられなかった。
「お前が、そんなに後ろ向きな考えだと、お前が好きで好きでたまらなくて、可愛い娘のために薬を買いに行ったお母さんが、可哀そうだろ」
「…………」
「それとな、お前が風邪をひいても、俺は不幸にならないから安心しろ、むしろお前が居てくれるお陰で、幸せに感じるよ」
やっべぇぇぇぇ、めっちゃきもいこと言っちゃった。
なんか、方向ミスったら、告白ってかプロポーズじゃね?
もう少し考えてから、発言すればよかった。
軽率な発言だった。と反省した。
「ふふっ、ありがとうございます……そうですね、私がこんな考えだと母が悲しみますね」
「おう」
「眠くなってきたので、寝てもいいですか?」
「あぁ、おやすみ」
俺がそう言うと、蒼井はジッと俺のことをベッドに横になりながら見つめてくる。
「ど、どうした?」
「わ、私が眠るまでそばにいてくれますか?」
「…………へゃい?」
「だ、だめですか?」
変な声が出た。
恥ずかしさと動揺で、顔が熱い。
それに、心臓の鼓動も早くなる。
「……だ、だめじゃ、ないです」
「ありがとうございます」
そう言って俺は、この可愛すぎるお願いを断ることはできず、蒼井が寝息をスースーと立てるようになるまで見守った。
こうしてみると、本当に等身大の人形が寝ているみたいだ。
俺は今一度、考えていた。つい最近まではこんなことになるとは思わなかった。
――――――――人形のような整った顔の美少女と一緒に暮らすことになるなんて……。
◆◆◆
読者の皆様、お世話になっております楠木と申します。
この作品を読んでいただきありがとうございます。
ここでですね第一章は終わりになります。星やブックマークをお願いします。
次は第二章なんですが、その前に番外編を入れるか、迷ってます。
番外編と言っても、1,2話程度なので、本編を見たい方もいらっしゃると思いますが許してください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます