第17話 人形のような美少女はもしかしたら無防備かもしれない
晩御飯を食べたあと、部屋でくつろいでいると、コンコンッと扉をノックされる。
母さん、はいつもコンコンッと可愛らしいノック音ではないので、蒼井だろう。
「蒼さん……? 今よろしいですか?」
「はいはいはい、どうぞどうぞー」
ガチャリと扉が開く。
扉の向こうには、人形のような容姿で、大きく綺麗な瞳、制服とは違い薄着なので、はっきりとスタイルの良さがわかる。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込む。
いかにも男の理想といったスタイルだ。
「あの……蒼井さん、薄着過ぎるのでは……」
「そうですか? 最近は暑くないですか?」
たしかに、最近はまだ、春だというのに最高気温が夏の日くらい暑い。
だとしても、Tシャツ一枚と動きやすそうな太腿らへんまでの短パン。
俺も男だというのに、流石に無防備じゃないか?
これは男を殺すための服だ。
「ごめんなさい、先にお風呂頂いちゃって」
「そんな、謝らなくていいよ」
「はい……。ありがとうございます」
蒼井はそう言うと、丁寧なお辞儀をする。
その時に、Tシャツの胸元からチラッと谷間が見える。
しっかりとした、山と山の間。そこには蒼井の谷間が……。
「――――さん? 蒼さんっ!」
「あ、えっと……どうしました?」
「ボーッとしてどうしました?」
蒼井の谷間に見惚れて、ボーっとしてました。なんて口が裂けても言えない。
「あ、いや……大したことじゃないよ」
俺はそう言って、その場を乗り切る。
あまり納得していない様子だったが、俺はコホンッと咳ばらいを一つ。
「それで? なにか、話があるんだろ?」
「あ、そうです……。先ほどの先生というのは……」
「それはもちろん、蒼井先生です」
俺が当然ですよね? と言った顔で話す。
しかし、蒼井はちっとも嬉しくなさそうだ。
「馬鹿にしてますか?」
「してないですよっ! ……してるように聞こえたなら謝ります」
「いい先生なわけないじゃないですか、私なんかが……」
「でも、俺よりは勉強できますよね?」
自分より勉強ができる人に教わらないでどうするのだ。
先生に聞け、と言われても、自宅でも教えてもらえるとしたら、とても効率がいい。
それに、この間教えてもらった時もすごくわかりやすかった。
「わ、私なんかでいいんでしょうか……?」
「なんでそんなに、自分のことを下げるんですか? 蒼井さんだからお願いしてるんですよ」
俺がそう言うと、蒼井は大きな瞳を見開いた。
綺麗なまん丸とした形、長いまつげ、くっきりとした二重などがこの距離なら良く見える。
「わ、わかりました……。――――で、ですがっ! 先生はやめてくださいっ」
「先生は恥ずかしいですか?」
「…………はい」
蒼井は数秒の間、だんまりした後、コクコクと頷いて、小さくそう答えた。
答えるころには、蒼井の耳は赤くなっていた。
こんなところも可愛らしい。
そして、もうすこし意地悪したくなってしまうのも男の性だろうか。
「でも、生徒と先生の関係なので――――やはり、蒼井先生がしっくりときませんか?」
「き、きませんよっ!」
声を荒げて、否定してくる。
俺もすぐに謝る。案外すぐに謝ると蒼井は許してくれる。
というよりも、そもそもそんなに怒っていないのだろう。
「次先生って呼んだら、教えてあげません」
「はい、わかりました」
「本当に教えませんからねっ」
くぎを刺されてしまった。
まぁ……さすがにからかいすぎたかなと反省するとともに、蒼井の可愛らしい一面も見れたなと思った。
「あ、あと俺からも一ついいですか?」
「どうしました?」
「その恰好は……男の部屋に入る時にはどうかと……」
俺がそう言うと、蒼井は自分の服装をキョロキョロと見る。
頑張って背中の方まで見ようとして、首を痛めていたのは内緒だ。
「へ、変ですか……? に、似合っていないとか?」
「いやいや、そういうことではなく。男の部屋にそんな恰好で来たら、襲われちゃいますよ?」
「はぁ……そういうものなんですね?」
あれ? 思ってた反応と全然違うぞ~? お兄さん困ったな……。
「いや、だから、俺も男なんですが……」
「蒼さんは、他の人と違うでしょう?」
襲ってきたり、しないですよね? そんな表情だった。
信用とともに俺は男として見られていないのだとも感じ取れた。
「ま、まぁ……そうですね」
「信用もしています。それに――――」
「それに?」
蒼井は、恥ずかしそうにもじもじ、しながら俺の方を見つめてくる。
「それに、蒼さん以外の男の子の部屋になんて入りませんよ」
俺はその言葉を聞いたとき、心臓が止まるかと思った。
しかし、蒼井も良くない。いまのところこの言葉が抜けている。
まったく、たまにこういうドジなところがあるんだから……。
「あ、すみません、お風呂どうぞっ。失礼します」
逃げるように、蒼井はパタパタと出て行ってしまった。
まぁ悪い気分はしないし、いいか。
準備を済ませ、風呂に向かう。
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