第16話 人形のような美少女は馴染めていない

「そーいえば、二人ともテスト勉強は進んでるの?」


 朝、早く言った日の夜、蒼井と母さんと晩ご飯を食べている時に聞かれた。


「私は、結構捗っている方だとは思います」

「さすがねぇ~。幸奈ちゃんは本当に偉くて可愛いわね~」

「あー。俺も俺も」


 蒼井に便乗するような形で言うと、母さんは俺の方をジトっとした目で見てくる。


 息子をそんなに信用していないのか……。


「あんたねぇ、嘘つくならもうすこしマシな嘘をつきなさい」

「残念ながら、嘘じゃない。いい先生がいるから」

「高校になって、いい先生に巡り合えたの?」

「いや、もっと身近にいる先生だ」


 俺がそう言うと、どういうこと? と母さんは首を傾げた。

 その横で、蒼井は恥ずかしそうに、下を向いている。


 蒼井のその姿を見ていると、キッとした目で睨まれる。

 ば、馬鹿にしたわけではないので、恥ずかしいからやめろという事だろう。


「ま、まぁ……期待しててくださいってこと」

「ふ~ん、じゃ、期待しておこうかな~」


 母さんはいい歳なのに、柔らかい口調で話す。

 そのため、たまに同級生と話しているんじゃないかと、不安になる時がある。


 母さん曰く、茶目っ気があって可愛らしいのだろと。


「まぁ、二人とも体調には気を付けてね? 特に幸奈ちゃん」

「だ、大丈夫ですっ!」

「本当? 幸奈ちゃんには、ご飯とか任せちゃってる時とかあるから……」

「大丈夫ですよっ! 料理は好きなので、それに私はお手伝いしなくてはいけない身なので……」

「幸奈ちゃん? あなたはまだ高校生なのよ?」

「はい、高校生にもなったので、大抵のことはできます」


 心配かけてすみませんと一言、蒼井は謝る。

 母さんは、そういうことを言っているわけではないと思う。


 蒼井にもうすこし肩の力を抜いてもらいたかったのだろう。

 しかし、返ってその言葉が、蒼井を変な方向に力を入れさせてしまった。


「ご馳走様でした」

「ごちそうさま」

「はい、お粗末様でした~」


 自分の食器をシンクに持っていく。

 その時に、蒼井が俺のTシャツの背中を引っ張ってくる。


「蒼さん、後でお話があるので、すこしよろしいですか?」

「あ……はい」


 なんだろう、怒らせるようなことをしたのだろうか。

 わからない。こういう時、何をやらかしたのか、分からないのが一番ヤバい。


「蒼ー?」


 なにをしただろうか。そんなことを考えていると、母さんから呼び出しを食らう。


 怒っている口調ではない。普通に俺を呼ぶ時の声だ。


「幸奈ちゃんまだ馴染めてないのかしら……」

「蒼井も思うところがあるんだろ」

「もうすこし頼ってくれてもいいのにぃ!」

「あははっ、そうだけど、無理に言っても逆効果だろ」

「じゃあ、蒼が適任ね」

「は? どうして?」


 俺がそう聞くと、母さんはとても重い溜息を吐いた。


「アンタの方が一緒にいる時間が多いからでしょうが」

「でも、俺は……」

「アンタに丸投げしてるわけじゃないから、安心しなさい」


 その言葉を聞いて多少安心できた。

 こういう時の母さんは、しっかりと最後まで面倒を見る。


「よろしくねっ」


 と、歳のわりに可愛いウインクを見せてきた。


「いやいやいや、任せるって言ったって……」


 俺は、数分の間、リビングに立ちっぱなしで考えていた。

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