第13話 人形のような美少女と朝風呂後

 最悪な夢を見て、目覚め、6時には起きてしまった。

 汗も結構かいたので、朝風呂に入る。


 朝風呂で、嫌なことを水と一緒に流す。

 考えないようにしていても、ふと目を閉じると考えてしまう。


 もしあの事件がなかったら、今も恋人同士だったのだろうか……。


「はぁ……やめよやめよ、考えたところで無駄なことだ」


 今はそんなことを考えるよりも、今日のご飯が何かを考えた方が有意義な時間を過ごせる。


 髪の毛をタオルドライしながら、風呂場から出る。

 その時に、蒼井とばったり会った。


「あっ……」

「あれ、今日はとても早起きですね」

「あーちょっと、悪夢を見てーそれで汗かいたから、朝風呂をちょいとですね……」


 俺がそう言うと、蒼井は下から上にかけてゆっくりと視線を移動させる。

 なんでそんなにジロジロ見るの? えっちっ。なんて言ったら、絶対に怒られるだろうなと思い、胸の中にしまっておく。


「お風呂上りでも、ちゃんとお洋服を着ていますね、えらいですよ」

「えらいって……子供じゃないですよ」

「それでも、以前指摘されたことを治せるのはすごいことです」

「ま、前のやつは、まだ慣れてなかったからで……」


 俺が慌てながら言うと、蒼井はフッと口元を抑えながら笑う。

 こういうところでも、上品さが分かる。


「じゃあ、そう言う事にしておきます」

「今からご飯作るのか?」

「えぇ……そうですが、どうしてわかったんですか?」

「それ」


 俺は指を指して答える。

 蒼井は長袖を腕まくりしている。それに白色のエプロンも着ている。


「あっ、なるほど……エプロンをつけたままでしたね」


 すこし照れ臭そうに笑ったあと、髪の毛先をくるくると指に絡ませる。


「あ、あともう少しで朝ごはんできるので、もうリビングに居てください」

「了解であります」

「もうっ、なんですかそれ」


 すこし呆れ気味で蒼井は言う。

 そのあとは蒼井と一緒に、リビングへ向かう。


「そういえば、最近蒼井さんばっかり作ってない?」


 大変じゃない? という意味を込めて、言ったのが伝わったのか、蒼井は笑みを浮かべる。


「優子さん、忙しいみたいですし、今日は久しぶりに午後かららしいので、朝はいらないって昨日言われたので、今日は私と蒼さんだけですので大丈夫です」

「大変だったら俺はカップラーメンでも……」

「カップラーメンの方がいいですか?」

「いやいやっ! よくないです!」

「アハハッ、分かりました」


 蒼井の手料理は美味しい。とびっきり美味しい。

 だが、カップラーメンも段々と恋しくなってくる頃だ。


 朝ごはんを、一緒に食べている時に、蒼井が聞いてきた。


「今日見た悪夢って怖かったんですか?」

「え……?」

「あっ、単純に気になってしまい――――あっ覚えてなかったらいいです」


 覚えているが、あれを怖いと思うのは、トラウマを持っている本人だけだと思っているから、どういう表現をした方がいいのかわからず言葉に詰まった。


 俺は悩みに悩んで、人間のリアルホラー映画に似ていると感じたので、ホラー映画と言っておいた。


「ほ、ホラー映画ですか……」

「うん、そうですそうです」

「か、可愛い所もあるんですね」


 フワッとした表情で、こちらを見つめる。

 しかし、俺はその言葉にムッとしてしまい、すこし意地悪をしたくなった。


「蒼井さんはホラー大丈夫な方ですか?」

「わ、私ですかっ!? ほ、ほ、ホラーなんて、だ、大丈夫……です」

「そうですか、そうですか」


 絶対に大丈夫じゃない人の反応だったけど、そのまま続けて意地悪をする。


「じゃあ、今度一緒にホラー映画の鑑賞会をしましょう? 俺借りてくるので」

「え…………それは、その」

「だって、平気なんですもんね?」

「……え、えぇ! 平気ですっ!」

「じゃあ、決まりですね」

「…………はいぃ」


 蒼井はあきらかに、落ち込む様子を見せながら、モグモグと口を動かす。

 すこし意地悪しすぎたかと感じさせられる表情だった。


 学校に行く準備をしていると、ブブッとスマホが鳴り、LOINを開く。

 そこには父さんからメッセージが送られてきていた。


「あっ、父さん帰ってくるって」

「えっ! 蒼さんのお父さんですか……き、緊張しますね」

「大丈夫ですよ、そんなに緊張しなくても」

「いえ、私が日本に残れているのは、蒼さんのお父さんのお陰ですから……」


 そうか、蒼井さんは父さんに恩を感じているんだ。

 まだ伝えない方が良かったかな……今からなんか身構えてるし。

 

 父さんが帰ってくる。

 それを聞いて、今から動きがぎこちなくなっている。


 帰ってくるのは、夏休みだというのに……。

 一応伝えたが、聞こえていない……。


 そのぎこちなさも、学校行く前にはなくなっていた。

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