第12話 米村蒼 過去のこと

「蒼~部活行こうぜー」

「おう!」


 そう言って、友達と一緒に部活に行く。それが中学のときの俺だ。

 俺はそこそこ上手な方だと自分で思ってた。


 部活しか、目がなかった俺にも彼女が中学2年生で初めてできた。

 クラスでも可愛いと評判の女の子、鈴木恵美すずきえみだ。


「蒼くんっ! 部活頑張ってねっ! 体育館から見てるねっ」

「うん、ありがとう!」


 彼女も女バスで同じ体育館で練習していた。

 部活で知り合えたのは本当ラッキーだったと思う。

 真面目で可愛い女の子、俺にはもったいないくらいの彼女だ。

 そう思っていた――――あの事件が起こるまでは……。


 中学2年生の夏。

 その日はザーザーと雨が降っていた。

 バスケ部は体育館で練習なので、雨など関係ないので、いつでも練習ができる。


 それに、期待の年とかも言われていた時だった。

 その日、俺は忘れ物を取りに教室へ戻っていた。


 すると、教室の中から誰かの話し声がする。

 すぐにその正体の声が恵美だと気づいた。


「あっ……だめだよぉ~真司くん」

「え~? いいじゃん別に……」

「男子は今日練習あるでしょ?」

「俺、恵美に構ってもらえないと練習できない」

「んっ、もう……仕方ないんだからっ」


 俺の心臓はバクバクと、早くなる一方、冷静に物事を判断できた。

 これは浮気だと……。今考えると、冷静じゃなかったのかもしれない。


 頭に血が上ると同時に、胸の奥がきゅぅっと苦しくなった。


「え、み……? お、お前なにやってるんだ?」


 俺が見たとき、


「んぅ?! な、なんで……」

「忘れ物して……って、そうじゃなくてっ! どうして真司と恵美がき、キスしてんだよ!」

「なんだよ、するでしょキスの一つや二つくらい」


 は? こいつ頭おかしいんじゃねぇのか?

 本当に殴り込みに行く寸前だった。


 よく、抑えられたなと本当に褒めてやりたい。

 じゃないと、コイツの整った顔を歪ませていたところだった。


「お前、恋人同士でもないのに!」

「恋人同士ならいいのか?」


 こいつは何を当たり前のことを……。

 そう考えていると、真司から衝撃の一言が放たれた。


「……あー、俺と恵美は

「は……? どういう……」

「蒼が言うには、恋人同士なら、してもいいんだよな? じゃあ、いいだろ」

「恵美、違うって……否定してくれよ……」

「蒼……」


 恵美が言ってくれる。

 あの真面目で可愛い恵美は浮気なんて……するわけがない。


 違うって言ってくれる。

 恵美があなたなんて恋人じゃないと、真司に言ってくれる。

 そう考えていた……。


「蒼、ごめん。


 現実はそう甘くはなかった。

 恵美との楽しかった思い出がすべて、ガラスが割れるように、すべてこの状況だけとなった。


 俺はフラフラと歩いてるのかわからなくなる感覚とともに、教室からそっと立ち去った。


 その日、俺は初めて部活をサボった。

 ザーザーと雨が降り続ける中、傘もささずに打たれながら、泣きながら家に帰った。


 次の日、学校に行くと、俺はいじめの標的となっていた。

 なにやら、恵美が浮気をしていたことが他の生徒が見ていたらしく、それをごまかすために、先に浮気をしたのは俺という事になっていた。


 俺は同じ学年の奴らからは、と呼ばれていた。

 バスケ部でもいじめはあった。


 パス連は明人以外誰もしてくれないし、ボールはわざと当てられ、それを見てケラケラ笑って楽しむ。

 それが日常だった。


「お前ら、本当に蒼が浮気したと思ってんのかよ」

「えー? うーん、別にそこはどうでもいいんだけどさぁ、アイツちょっとバスケ上手いからって、調子乗ってたじゃん? 今なら誰も文句言わないだろって」


 はぁーやだやだ、こういう奴に構っているのは時間の無駄。

 そう感じて、その場を後にしようとした時、ガッシャンッ! とものすごい音が部室から聞こえた。


「いってぇなっ! なにすんだよ!」

「お前らは蒼の努力を何もわかってない!」

「し、知らねぇよ! ムカつくからやったんだ! 俺だけのせいじゃない」


 もう一度、明人が殴ろうとした時、俺は腕を引っ張った。


「蒼……こ、これは」

「明人、ありがとう……いいんだ、お前まで悪者になっちまうよ」

「こんな奴らと同じにされるくらいなら、悪者になった方がいいっ!」


 俺は明人の背中をぽんぽんと叩いて、殴られそうだった男の方へ寄る。


「俺が殴ったことにしろ、わかったか?」

「は? いや、なんでだよ」

「明人には悪者になってほしくねぇんだよ」


 じゃあ練習するか! 的なノリで部室から出ようとすると一人の部員に止められた。


「どうしてそんなに平気そうなんだ?」

「はぁ……お前らみたいな下手くそと絡んでると、俺まで下手くそになるからいちいち構ってられねぇんだよ」


 俺はそう言って、部室を出た。

 そしてすぐに顧問によって部員全員集められた。


「蒼……お前が殴ったんだってな? あぁ!!」

「はい、そうです」

「チームの大事な時にお前は何しているんだ!」

「先生、殴ったのは悪いと思ってますけど、先に乱したのはこいつらだと思います」


 俺がそう言うと、先生はもっと怒り始めた。

 手でも飛んできそうな勢いで、壁際に追い詰められて、ずっと睨まれている。


「お前が、アイツら、そして部員たちに謝らない限り、俺はお前を試合では使わない!!」

「はい、別に俺もいいっすよ」


 ここまで来たらとことんやってやろうと思い、絶対に謝らないと決めた。

 次第にベンチからも外され、最終的には見向きもされなくなった。


 毎日部活にも行ったが、空気として扱われていた。


 三年生になり、俺が抜けた穴には、真司が入っていた。

 ベンチ外だった男が、先生のお気に入りというだけで、スタメン入り。

 

「……最悪だ」


 ここで、目が覚めた。

 久しぶりに最悪の目覚めだった。


 朝の6時、とても早起きだ。眼が冴えてしまって、二度寝はできそうにない。

 汗もけっこう出したので、朝風呂でもしようと、ノソノソとベッドから起き上がる。

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