第10話 人形のような美少女はすでに学校のアイドル

「よーっす」

「よっす……」


 明人と教室の前で鉢合わせ、片手を挙げ挨拶を交わす。

 いかにも、運動部というスポーツバッグを持って登校してくる。


「やっぱり運動部か」

「おうよっ、そういうお前は……やらないんだっけか?」

「あぁ、部活じゃなくて、バイトとかやってみようかなって」


 明人はそれを聞いて、うんうんと首を縦に振っていた。

 何に納得したのかはわからないが、構わないでおこう。


「二人とも来るの遅くな~い?」

「悠里……」

「俺は先輩たちと、朝練だぞ!」

「一緒の扱いするな、みたいな言い方だな? おい明人」

「そう聞こえたか? すまねぇすまねぇ」


 明人はそう言いながらもケラケラと笑っている。

 コイツを小突くのは後にして、今、俺たちと喋っている女の子は水嶋悠里みずしまゆうり


 明人と同じ部活で、バスケ部で、そこから俺も仲良くなった? まぁ、知り合いくらいにはなった。


 ショートカットの髪の毛に、小柄で笑顔がニコニコと犬のような安心感のある笑みだ。


 見る人からすれば、成長が乏しい部分がある……どこがとは言わないが、明人は大きい方が好きだからなぁ……。


「おい蒼、いま変なこと考えてたでしょ」

「別に考えてないですよ」

「正直に言ってごらん?」


 今正直に言ったら、先生怒らないからみたいなノリで聞いてくる。

 絶対、言ったら怒るだろ……。


「今日は身長すこし伸びてるかなと」

「そんなすぐ伸びるかっ! 人が気にしてること言うなっ!」

「す、すんまへん」

「え? そっちか? 俺はてっきり胸の方かと思ったぞ?」


 はぁ~あ、明人はん、それはあきまへんよ。

 ほら見てください、髪の毛が逆立つくらい怒っとります。


「明人~、あんたはそう思ってるってことでしょう?」

「え? あ……あはは……」

「ね? そうなんでしょ?」

「わ、悪い悪い……」

「許さんっ! 先輩に言って、外周多くしてもらお」

「それはちょっと勘弁してくださいっ」


 明人は悠里に泣きついて謝っていた。

 外周……考えただけで気分悪くなりそうな単語だよ。


「あっ、蒼にも後で何かしてもらうからね」

「は……? ち、ちょっと待てよっ!」


 完全に飛び火……ではないが、なにをさせられるのか怖いので一応やめるように言うが、悠里はもう覚悟を決めている……。


 誰かが言っていた、覚悟を決めた者は厄介だと。



「蒼~今日も行くだろ?」


 4時間目の授業が終わり、学校での至福の時間が訪れる。

 昼休みである。昼休みには必ずと言っていいほどカフェオレを飲む。


 今、自販機にカフェオレを買いに明人と二人で向かっている。


「げっ……」

「げ、ってなに!」

「いや、ほら……さっきのことあるし、ねぇ?」

「さっきのアレは、二人が悪いでしょうが」


 そう言われると、ぐうの音も出ない。

 悠里から俺は駅前に最近できたカフェがあるらしく、そこで奢るという事に決定した。


 俺の財布の中身が寂しくなるよ……。

 明人には当分カフェオレは飲めねぇな、とか笑われたが、俺は飲む。

 カフェオレは我慢しないっ、と強く自販機のボタンを押す。


「うひゃ~、この時間になると、いつも2組の前男子がいっぱいだねー」

「男子だけじゃない気がするけどな?」

「女子もいるけど、男子の方が多いでしょーが」

「そりゃ、お近づきになりたいんだろうな、学校のアイドルと」

「とんっっっでもなく美人さんだもんね」


 悠里はすごいためを作りながら言ってきた。


 悠里も男子から人気がある。それくらいには可愛いはずだが、その彼女ですらも、蒼井の可愛さというのは飛びぬけているらしい。


「あっ、俺の方見たぞっ!!」


 明人が2組の方を向きながら、はしゃいでいる。

 どうせ、勘違いか何かなので恥ずかしいからやめてほしい。


「あー、はいはい。恥ずかしいからやめなさい」

「絶対信じてないな? 今本当に見てたんだからな?」

「はぁー、だからわかったって」


 俺はため息交じりの声で明人に話す。

 悠里は明人の背中を慰めるようにポンポンと優しくたたいていた。


「お前ら……俺がもし仲良くなっても紹介してやらないからな!」

「別にいいよ、紹介してもらわなくたって」

「えー、私は紹介してほしい! 友達になりたいっ」

「だとしてもだーめ、もう起こったからな!」


 子供のように、プイッとそっぽ向く明人を置いて、俺と悠里は教室へと戻る。


「たしか学級委員長なんだよね? あの子」

「あの子って――――さんのことか?」

「え? う、うん? あの子、蒼井って名前なの?」

「あっ……」


 やべっ。完全にミスった。

 学級委員長に気を取られて、普通に言ってしまった。


「た、たぶん?」

「でもなんで、蒼が名前知ってるのかなぁ?」

「あ、いやーその……2組の男子が言ってたから」

「……ふーん」


 悠里はなにかニヤついた表情で、ゆっくりと頷いた。

 この表情が妙に怖い。何か企んでいるような気がしてならない。

 


 午後の授業を受けている時には今日帰ったら、蒼井に謝らないとな……と悠里の表情よりも、そのことを考えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る