第9話 人形のような美少女とお片付け
蒼井さんが作ってくれた手料理をすべて平らげ、とても満足な気分だった。
ご飯も2杯おかわりした。
「ごちそうさまでした」
俺は両手を合わせて、作ってくれた蒼井に感謝しながら言う。
すべての皿を持って、キッチンの方へ片付けに持っていく。
「あ、流しに持っていってもらえれば、後で片付けておきますよ」
「いや、さすがにそこまでしてもらうのは……蒼井さんのお皿も片付けるから、食べ終わったら、持ってきていいですよ」
「え……このくらいはできますよ」
「なら、俺もそのくらいはできます」
俺がそう言うと、蒼井さんは顔をしかめたが、すぐに納得するような表情になり、「わかりました」と一言。
俺は自分のお皿を片付けた後、リビングへ戻る。
蒼井さんは綺麗に料理を食べている。
ゆっくりと丁寧に食べていく。
白く、柔らかそうな頬をモグモグと動かす。
こんなのを見たら、ウチの高校の奴ら、先輩も含めて好きになる人続出するだろうな。
「あ、あのっ!」
「どうしました?」
「私、何か変ですか?」
「え? どうして?」
蒼井さんはなぜか、不安……?
いや気まずそうに俺の方を見つめながら聞いてくる。
「あんまりジロジロ見られると、食べづらいです……」
「あ、ごめんなさいっ。食べ方綺麗だなって思って見てただけなんです、変だなんて思わないですよ」
「そ、そうですか……自分の食べ方を綺麗だなんて感じたことなかったです」
蒼井さんはそう言いながら、ハンバーグを一口、大きく頬張る。
デミグラスソースが頬に付いてるのも可愛らしい。
蒼井が食べ終わるまで、携帯をいじり待つことにした。
蒼井の「ごちそうさまでした」を聞いたあと、俺が食器を片付ける。
「ち、ちょっと待ってくださいっ! どうして私の食器まで持っていくんですか」
「蒼井さん食べ終わったみたいだったから、その……洗おうかと……」
「どうして私の分まで洗ってくれるんですか?」
蒼井は不思議、といった表情で俺のことを見つめてくる。
そのまん丸く大きな瞳には、何かを疑う様子があるようにも思えた。
「普通に、俺は料理の手伝いしてないから、その料理作ってもらったお礼」
「料理の件は私が勝手にやったことですから、別に気にしないでくださいと言ったはずですけど……?」
「うん、たしかに言われた」
「じゃあ、どうしてですかっ!」
そのことを覚えているのに、どうして片づけをするんだ。大体そういうことを言われたんだろう。
「じゃあ、蒼井さんの言葉をお借りして、これも俺が勝手にやってることだから気にしないで」
「……そ、そうですか」
蒼井は納得のいっていない表情で、頷いた。
媚びを売ったり、好感度を上げるためではなく、完全に何かお返しができないかと考えた結果これが一番よかったのだが……。
「ま、まぁその代わり、お願いがあるんだけどさ……」
「……はい、なんでしょうか」
「今度もう一度料理作ってくれないかな?」
「え? 料理ですか?」
「うん、料理。……だめかな?」
俺が蒼井にお願いすると、最初は警戒心Maxだったのに、料理と聞いた途端、ポカンとした表情をしていた。
こんな表情も可愛らしいのだから、美少女とは恐ろしい。
俺がこんな表情をしたら、間抜け面とか罵られそう。誰に言われるわけでもないがそう思う。
「そのくらいなら、大丈夫ですよ」
「やっぱりだめ――――え……本当?」
別に拒否されたら仕方ないと思っていたけど、蒼井の答えは優しいものだった。というか、多分だが蒼井は優しい。
最初、男が嫌いと聞いて、俺が知らない間に距離を作っていたのかもしれない。
蒼井は優しい女の子だ。すこし声色とかは冷たいときあるけど……。
「なんであなたが驚いてるんですか」
「いや、だって……してくれないと思ってたから」
「蒼さんの中で私の印象は嫌な女なんですね、わかりました」
「そ、そういうわけじゃ……!」
「わかってますよ、冗談です」
「い、意地悪だなぁ……」
蒼井がからかってくるなんて思わなかったので、絶対に怒ってると感じた。
でも、冗談と聞いてホッとしていた。
「それに、優子さんの負担も減るでしょう?」
「母さんはまぁ、とっても喜ぶだろうな」
「そうだと嬉しいです」
「絶対喜ぶよ、母さん限定とかじゃなく、人に親切にされたら誰でも嬉しいよ」
俺がそう言うと蒼井はすこしニマッと柔らかい表情を見せる。
本当に、俺じゃなかったらそのまま襲われているんじゃないかと思ってしまう。
それくらい蒼井の不意に見せる表情は破壊力が高い。
「なにか?」
「いや、別になんでもない」
俺はそう言って、逃げるようにキッチンへ行き、食器を洗う。
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