第8話 人形のような美少女と手料理
「さて、蒼さんは何が食べたいですか?」
「それ俺の好きな物でもいいやつですか?」
「まぁ、好きな物でも、今食べたい物でも……」
「今、急に言っても作ってくれるんでしょうか?」
「まぁ、不可能でなければですけど……」
蒼井はそう言って、首を傾げながら聞いてくる。
ぱっちりとしたまんまるの瞳が、俺の目を真っすぐ見つめてくる。
俺はその視線に耐えられずに、すぐにサッと目を逸らす。
見つめていると、ふと好きになってしまいそうだ。
俺たちはそういう関係ではないのに……。
それに、俺たちはそう言う関係にはなれないだろう。
「そ、そんなに悩むことですか?」
「え……? あ、あぁ! 当たり前だろっ」
「本当に考えてましたか?」
ジトッとした視線で疑いの目を向けてくる。
見抜かれてる、というか俺が隠すのが下手なだけか……。
「決まらないなら、私が勝手に献立を考えて作りますよ?」
「じゃあ、肉っ!」
「それ、決まらなかったからって適当に言ってませんか?」
「ほ、本当に肉が食べたい気分だったんですぅー」
蒼井は「ならいいです」とすこし柔らかい笑みをこぼした。
その笑みはすぐに彼女の顔から消えてしまったが、どんな男も「かわいい」と言葉を漏らしてしまうほどには衝撃だった。
俺も例外ではない。
「か、かわいい……」
「へっ? 何か言いました?」
「あっ、いやなんでないです……」
やばいやばいっ! 普通に思ったことが言葉に出てた……。
芸能人やモデルを見て「かわいい」って出る感じと一緒だった。
蒼井は男が嫌いみたいだし、そこまで仲良くなっていない俺から急にそんなことを言われたら、戸惑うし、気まずい。
もうすこし、しっかりしなければ……。
そう思う出来事だ。
「あっ……!」
「な、なんでしょうか」
「他に食べたい物がちゃんとあったら、遠慮なく言ってくださいね? 今なら変更可能ですからね」
「おっけーおっけー、変更はなしで頼みます」
「じゃあ、冷蔵庫見させてもらいますね」
そう言いながら、蒼井は俺の家の冷蔵庫を開けて、隅々何が入っているのか見ている。
俺はジュースとかアイスが入っている場所とかしか覚えていないので、そんなところに、それが入ってたのかっ!? なんて、驚くこともある。
「ひき肉があったので、ハンバーグでもいいですか?」
「ハンバーグッ! いいな」
「じゃあ、ハンバーグを作りますね? ソースなどはどうしますか?」
「デミグラスで」
「わかりました、では座って待っててください」
「俺に何か手伝えることはありますか?」
「料理できるんですか?」
「……できません」
「なら、大丈夫です」
サラッとリビングへ行くよう指示される。
蒼井のすこし冷たいような声色に、邪魔をしてはいけないと感じ、言われた通り、すぐにリビングへ向かう。
スマホでもいじって、待って居よう。
そうして、スマホをいじり15分くらいした時には眠りについていた。
―――――ふと目が覚める。
寝起きはあまり良くない。リビングで寝たせいだろう。
しかし、キッチンからはとても美味しそうな匂いが伝わってくる。
「あ、起きたんですね」
「おー……今起きた」
「寝起きで食べれます?」
「食べれる食べれる」
「別に後で食べてもいいんですよ?」
蒼井からの提案はよそに俺はキッチンの方から香ってくる匂いに食欲をそそられていた。
寝起きだからとか関係なかったのだ。
それに、お菓子や間食も食べていないので、お腹がペコペコなのだ。
「食べれます……」
「そ、そうですか……」
「じゃあ、持ってきますね?」
俺はコクッと頷く。
蒼井はパタパタとキッチンへ行き、料理をリビングに持ってくる。
「本当に何から何まで申し訳ない」
「い、いえ……私から言い出したことですし」
そう言って、蒼井は俺の分の料理を置くと、隣にちょこんと座る。
まるでぬいぐるみの様に小さくなっている。
「あ、あの……蒼井さんは食べないんですか?」
「え……? 食べます……けど」
「一緒には食べないんですか?」
俺がそう聞くと、驚いたような表情で俺のことを見つめてくる。
考えたら、蒼井は男嫌いじゃないか……。
またやらかした……か?
「あっ、ごめんなさいっ! 男の人嫌いでしたよね……」
「……ます」
「え? なんて?」
「た、たべますっ……」
「じゃあ、待ってますね」
そう言うと、蒼井は急いでキッチンへ行く。
パタパタとスリッパの音が聞こえてくる。
蒼井が料理を持ってきて、対面に座る。
俺が両手を合わせると、蒼井も同じく両手を合わせる。
「いただきます」
「召し上がれ……いただきます」
今回の献立はハンバーグと卵を使ったオニオンスープと野菜スティックだ。
野菜スティックには特性のソースをディップして食べる。
俺はまずメインのハンバーグに行く前にスープを一口。
「うまっ……」
身体中に染み渡るようなうまさだった。
お世辞でも何でもない、素直な言葉。
「ほ、本当ですか?」
「本当、次はハンバーグをいただきましょうかね」
俺はそう言いながら、デミグラスがたっぷりとついたハンバーグを一口サイズに切り、口へと運ぶ。
食べた瞬間から肉汁がすごく、デミグラスも合わさって、最高の一品だった。
「蒼井さん……いや、蒼井シェフ」
「え、し、シェフ?」
「とっても美味しいよ! いや、マジでびっくりするくらい美味しいぞコレ」
「よ、喜んでもらえてよかったです……」
「あ……ごめん、興奮しすぎました……」
俺は落ち着きを取り戻すように野菜スティックへと手を伸ばす。
「あの……一つ聞いてもいいですか?」
「んー?」
俺が野菜スティックで興奮を落ち着かせていると、蒼井は改まった感じで俺に質問してくる。
「どうして一緒に食べようと言ったんですか?」
「……はい?」
「私は一人で食べることが多かったので……その、こういうこと言ってはいけないと思うのですが……その、あまりまだ仲良くないですし」
「まぁ、仲良くないとか、俺も思うところはあるけどさ、ご飯はみんなで食べた方が美味しくない? ほら、自分で作ったんだから蒼井さんも食べなよっ」
俺がそう言って食べるように勧めると、蒼井さんは一口食べてすこし口元を緩ませた。
「お、おいひぃ……です」
「ですよね……って俺が作ったわけじゃないけど」
「もしかしてそれだけですか?」
「うん、まぁ、そんなに急に仲良くならなくてもいいって思ってるから、すこしずつ仲良くなっていきましょう」
「そう……ですね」
そんな会話をした後は、また蒼井の手料理に手を付ける。
とても美味しい。この手料理を食べれる未来の夫が羨ましい限りだ。
まぁ、今は俺だけどなと勝手に今は存在しない者に対して、優越感を得ていた。
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