第7話 人形のような美少女とインスタント

「すごいよなー2組のあの子、昨日入学式で初めて会った奴も多いと思うのにな」

「たしかになー」

「おや? あまり興味がないみたいだな」

「言ったろ? 今回は普通に過ごしたいんだよ。彼女とかそういうのは……」

「わかったわかった。今はな?」


 明人が「今はだろ? わかってるって」という意味を含めたウインクをしてくるが、そう言う事じゃない。


 それに、俺が知ってるとか、蒼井の名前を言ったらそれこそ追及される。


 だから、興味がないフリ、関係がないと思わせる必要がある。


「でもまぁ、よくあんなに人気があるよな」

「そうだな、あの靴の色、2年だろ?」


 葉城高校の生徒が履いている指定靴は一年生は青、二年生は赤、三年生は緑色となっている。


 三年生が卒業したら、新一年生が緑色というサイクルになっている。


「マジじゃん、当の本人は面倒くさそうだよな」

「まぁ、入学して次の日なんて嫌だろうな」

「はっあれなら友達100人なんて余裕だろ」


 俺がすこし馬鹿にするような言い方で話すと明人は「がははっ」と声をあげて笑った。


「すぐだろうな」

「なっ」


 こんなことを言っているのがバレたら、あの冷たいようなキッという目つきとともに怒られるんだろうなぁと考えていた。


『今日、仕事で遅くなっちゃうから、自分でご飯よろしくねっ♡』


 という、自分の母親とは思いたくないLONEが届く。

 きついメッセージ打つなよ……と思いながら、今日は久しぶりにカップラーメンでも食べると決めた。


 家に帰ると、すでに玄関に靴が綺麗に並べられていた。

 蒼井の方が先に帰ってきていたことが分かる。


 俺がトントンと自分の部屋に行こうとした時、リビングから出てきた蒼井とぶつかりそうになった。


「わっ……」

「あ、ごめん」


 俺が一言謝り、自分の部屋に向かおうとした時、蒼井に呼び止められる。


「帰ってきたなら、一言くらいくれてもいいんじゃないでしょうか?」

「わ、悪い……今度からはただいまって言うよ」

「そうしていただけるとありがたいです」


 俺がでもなんで? みたいな態度をとると蒼井はふぅっと息を吐いて、呆れているような態度をとった。


「知らない人が入ってきたら、怖いじゃないですか」

「それは……はっ! もしかして、怖かったのか?」

「こ、怖くないですっ! 別に……」


 プイッとそっぽ向いて、そのままパタパタと部屋に入っていった。

 そっか、女の子だもんなぁ。

 今度からは意識しようと思った。


「あ、それと、今日蒼さんのお母さん、遅れるみたいですよ」

「あー知ってる、ご飯勝手に食べろって言ってたな」

「何作るんですか?」

「え? カップラーメン」

「カップラーメンですか……?」


 なんか、思ってたのと違うみたいな反応される。

 どうしてだ? カップラーメンなんて普通だろう。


 あ、自分の分があるのか心配してるのか?

 たしかに、カップラーメンを二人で分けたら、あんまりお腹いっぱいにならないからな。


「大丈夫だ、蒼井さんの分のカップラーメンもあるよ」

「いえ、数の問題ではなく」

「もしかして、味とかメーカー? その好みは知らなかったから我慢してくれると……」


 こだわりが強いのだろうか。

 でもわかる。俺も冒険しようって時と、実家のような安定した美味しさを取ってしまう守りの時もある。


「ですからっ! そういうことではなく」

「じゃあなんですか?」

「自炊しないのですか? てっきり、作るというからインスタントではないと思ってました」


 ……こっちの方がびっくりだ。

 何か作るのですか? と言われて自炊なんて全く頭になかった。

 妙に話が合わなかったのはそのせいだろう。


「いや、俺自炊とかしたことないし……カップラーメン美味いし」

「そう……ですか」

「そんなに引かなくてもいいじゃないですか……」

「あっ、ごめんなさいっ。そういうつもりではなかったんです」


 ということは、素でその態度が出たってことですかっ? 蒼井さんっ。そうなんですかっ!?


「今回は私が作るので、カップラーメンは控えてください」

「えっ、作ってくれるんですか……?」

「逆に今ので作らなかったら、私凄く性格悪いじゃないですか」


 嘘じゃないらしい。本当に作ってくれるのか。

 美少女高校生の手料理をまさかご馳走になれるなんて……。


 言葉では言わないものの態度では、楽しみというのが溢れているかもしれない。




◆蒼井視点


 家に帰ってくると、誰もいなかった。

 蒼さんより、私の方が帰るのが早かっただけ。


 家に帰って、一人きりということが、久しぶりに感じた。

 今まで、ずっとこうだった。

 しかし、今までと違うところは、夜まで一人だったのが、最近はひとりではないということです。


 すると、ガチャリと玄関の扉が開きました。

 今日は優子さんはお仕事で遅れると言っていましたし……。


 蒼さん……? で、でも……なにも言わなかったですし。

 も、もしかして不審者……だったり……。


 私は恐る恐るリビングから体を出すと、横から出てきた蒼さんとぶつかりそうになってしまい、声が出てしまいました。


 私が帰ってきたなら一言くらいよこしてくださいと伝えると「怖かったんだ?」ですって! 嫌になっちゃいますっ……。


 優子さんの帰りが遅いので今日のご飯のお話をすると、蒼さんは作ると言って、カップラーメンのことを言ってきました。


 蒼さんが「カップラーメン美味しいし」という言葉を聞いて、すこし呆れたような態度をとってしまったのは失礼でしたね……。


 しかし、育ち盛りの高校生がカップラーメンというのはいかがなものかと。

 それに、なんか自炊した料理より、カップラーメンの方が美味しい、みたいな風に聞こえて嫌だったというのも……。


 と、とにかく、カップラーメンより美味しかったと言わせて見せます。


 

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