第6話 人形のような美少女と学校の話

「ただいま帰りました」

「おーう」


 蒼井が本屋から帰ってきたのは、俺が家に帰ってから、数十分してからだった。

 時間で言うと、大体5時前ってところだな。


「何か買ったのか?」

「はい、元々この本を買う予定で本屋さんに行きましたので」


 そう言って、取り出したのは最近ニュースで取り上げられていた小説だった。

 【若者に大人気】の見出しで、やっていたような気がする。


「ほ~ん、見たことあるかも」

「その割には、興味なさそうですね」

「そりゃあ、見ただけだからな、興味あるとは限らないよ」

「蒼さんは本などは読まないんですか?」


 学校では米村呼びなのに、家に帰ってきた途端、蒼呼びに変わる。

 違和感というか、慣れていくしかないのだが、全くなれる気がしない。


「漫画なら読むぞ」

「まぁ、そんなところだろうなとは思いましたよ」

「なんですか、その反応は……」

「いえ、私にも同じような反応をしていたので」


 えっと、興味ないような反応をしたのがよくなかったみたいなことか?

 でも、確かに自分の好きなものを、全く興味ないみたいな反応されたら嫌だな。


「わ、悪かった」

「別に怒ってないですよ」

「そうか」

「はい」


 そう言って、蒼井は手を洗いに洗面所へ向かう。

 洗面所へ向かう足取りは、いつもより少し軽く、蒼井の横顔は笑っているように見えた。


 なんでだ? と思い、テーブルを見ると、先ほど蒼井が見せてきた本が置いてあった。


「そこまで読むの楽しみなのか」


 案外子供っぽい所もあるのかもしれない。

 蒼井は俺と同じ15歳だ。大人びて見えるけど、まだまだ歳相応なところもあるんだなと、安心するくらいだ。


 俺は自分の部屋に行き、夕飯の準備ができるまでゲームでもすることに決めた。


 夕飯の準備ができたらしく、母さんに名前を呼ばれる。


 ゲームもキリに良いところだったのと、早くいかないと愛の鉄拳が飛んでくる可能性がある。


 避けるためにも、セーブしすぐに下へ降りる。


「早く食べるわよ~」

「はいはいー」


 下へ降りて食卓を三人で囲む、父さんは本当は今日帰ってくる予定だったが、仕事の都合上どうしても帰ってこれなくなってしまった。


 別によくあることだ。俺たちの為にお金を稼いでくれているので、頑張れ父さんと応援するくらいしかできない。


「二人とも、表情暗いのよ」


 母さんが呆れるような笑みを浮かべながら、スマホの写真を俺たちに見せてきた。


 入学記念にこっそり写真を撮っていた。

 母さんにほぼ無理やりだが、記念ということで仕方なく……。


「ま、周りに人も多かったので……緊張……していたのかもしれません」

「幸奈ちゃんはとっても可愛くて美人さんだから、みんな注目しちゃうのよ~」

「わ、私なんてそんなっ……」


 蒼井は母さんに褒められて、照れ臭そうに顔を隠すように下に向ける。

 母さんはそのあとにチラッと俺の方を見てくる。


「ね? 可愛いからみんなから見られてるわよね?」

「クラスが違くても、そうだなー注目はすごかったと思う」

「そんなすごくないですよ」


 蒼井はムッとした表情をしている。

 こういうことを言われるのが嫌なのかもしれない。


 先ほどから、こういうことを言うとキッと睨まれる。

 まるで「なんで言うんですか」と言わんばかりに。


「あと、なんか俺たちがホームルームしてる時に悲鳴ににた歓声みたいなの聞こえたんだけど……蒼井さんのクラスでも聞こえました?」

「あー、き、聞こえました」


 蒼井は嘘を言うのがものすごく下手らしい。

 今の反応で、蒼井のクラスで歓声が起こって、誰が原因なのかも大体わかる。


「な、なんですか?」

「いや? 別に……」

「人の顔を見て笑うのは良くないと思いますけど」

「失礼な、笑ってません。元々こういう顔です」

「いや、ちゃんとニヤついてましたよ」

「どーだか」


 俺がフンッと鼻息を立てるようにそっぽ向く。

 母さんが俺たちを交互に見て微笑んでいるのが分かった。


「なに笑ってんの?」

「いやぁ、いつの間にそんなに仲良くなったのかなって」

「仲良くない」

「仲良くないですよ」


 二人同時に同じことを言ってしまった。

 これがハモリというやつか。

 俺と蒼井は「あっ」とまた同時に声がそろってしまう。


「仲いいのはいいことよ~、悪いより断然いいわ」

「だから、そんな数日で仲良くならないって」

「じゃあ、時間をかければ仲良くなれるのね?」

「なっ……そ、それは」


 母さんの視線が面倒くさいにも似た感情を生み出す。

 諦めて黙って首を縦に振った。


「ちなみに、何組になりました?」

「えっと、2組ですね。蒼さんは?」

「俺は4組だった」

「ひとまず、同じクラスではなくてよかったですね」


 蒼井はそう言いながら、食器の片づけをしている。


「やっぱり、あの歓声は蒼井さんに向けてでしたか」

「ひ、否定はしきれないです」

「凄いですね、初日から大人気じゃないですか」

「……そんなんじゃないですよ」


 これ以上言うのはやめようと思った。

 なぜ思ったかはわからないが、まぁ直感ってやつだ。


◆蒼井幸奈視点

 私が米村さんの家に本屋から帰ると、遠くから「おーう」という声が聞こえてきました。


 彼なりの「おかえり」という事で受け取っていいのでしょうか? 


 帰ると彼がチラチラと私が持っていた紙袋に視線を送っているのが分かりました。

 「何か買ったのか?」と聞かれ、もしかしたらこの人も本が好きなのかと思いましたが、あまり興味がなさそうでした。


 なんか、自分が楽しみにしていたものを否定された気分でした。

 普段はこんなこと思わないのに……気にしないのに……どうしてでしょう?


 それに、彼は漫画本しか読まないらしいです。

 男子高校生って感じがします。

 今日なったばかりですけど……。


 夕食中に入学式の時に米村さんが撮ってくれた写真を見て、話題が今日の入学式の話になりました。


 その時に、私が可愛いとか美人とか言われました。可愛くなんか……す、少しは自覚している部分もありますけど、彼がなんかニヤつきながら、頷いていたり、肯定したりするのに、ムッときてしまいました。


 すこし、馬鹿にされてると感じてしまいました。

 ごめんなさい……。


 そのあと、米村ママに「仲良くなった」と言われ、否定したら彼も同じことを言いました。


 本当に仲良くなれるのでしょうか。


 夕食を食べた後、食器を片付けていると、何組になったか聞かれました。


 2組になったことを伝えると、彼は4組になったそうです。

 隣のクラスならまだしも、その隣にまであの歓声が聞こえていたなんて……皆さんに迷惑をかけてしまいましたね……申し訳ないです。


 私は明日からの学校生活にすこしワクワクしている気持ちを胸に眠りにつきました。



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