第4話 人形のような美少女と入学式
すこし暖かい風が身を包み、桜の花びらが今日入学する学生たちを祝福してくれるているような光景を前に、家の最寄り駅まで向かう。
これを逃したら、遅刻という電車にギリギリで乗れた。
駆け込み乗車とかではない。
蒼井は俺が起きるより先に電車で学校で向かったと母さんが言っていた。
なんとも規則正しくて、お早いことで……。
学校について、入学式をするよりも、家に帰りたくなる気持ちが強くなったきた時だった。
肩をドンッと叩かれる。
なんだなんだ? 入学式の朝から人のことを叩くなんて失礼な奴め。
俺が一言叱ってやらんと行けんなぁ。
俺が自分ができる一番怖い顔で振り返ると、そこには見たことのある男が白い歯を見せながら立っていた。
「明人……」
内田明人……中学からの知り合いで、一番の友達である。
「そんな嫌な顔すんなよっ! お前が大好きな明人ちゃんだゾッ」
内田明人……中学からの知り合いで、たぶん友達である。
「朝から叩かれて嫌な顔しないやつは、仏か聖人か?」
「ハハッ、まぁまぁ、俺に免じて許してくれよ」
「お前が叩いたんだけどなっ?!」
ケラケラと笑って、全く悪いと思っていない明人に対してため息が出る。
「周り見てみろよ、結構、良くねぇか?」
「周り? 良く? 何言ってんだよ」
「女の子が可愛いってことだよ、それに、ほらスタイルがいいっ!」
「つまり?」
「おっぱいが大きくて、可愛い子が多いっ!」
誰かこいつを捕まえてくれ……と思ったが、周りを見ると可愛いし、制服の上からでも胸があるのが分かるなど、明人の言ってることはわかる。
「お前なぁ……知ってるだろうが、俺が彼女とかそういうの作らないって」
「悪い悪い、けどよー、お前アイツらはこの学校には……」
「わかってる、同じ中学校からきた奴らがこの学校には少ないことはわかってる」
けど、そういうことではない。
同じ中学の奴がここにはいないからとかではない。
自分が無意識に拒否反応を出しているのだ。
「けど、なんか付き合いたいとかは思わないんだよなぁ……」
「じゃあ、本当に付き合いたいって思う女子に会ったら、その女子は相当嬉しいだろうな」
「なんでだよ」
「付き合いたいとか思わないとか言ってる男を落としたんだからそりゃ凄いだろ」
なるほど、そういう考えもあるのか。と変に感心してしまう。
コイツと喋っていると、自分の考えが広くなる感じがする。
感じがするだけだ。
「あれ、蒼今日って何時からだっけ」
「今日は8時30分までに登校だろ?」
「――――あと3分だ」
「は? カップラーメン作る時間しかねぇじゃねえか」
「5分のやつもあるぞ」
「今はいいよ、カップ麺の種類は」
何くだらないこと言ってんだよ、と思いながら急いで校舎に入っていく。
「早く自分のクラス見に行こうぜ」
事前に連絡がされていた。
学校に入り、一番でかい中央の掲示板に張り出されていると。
俺と明人はそれをすぐに見に行く。
俺は4組だった。
1~6組ある中での4組。
明人はどうだったのだろうか、そう思いながらチラッと横を見ると、ニヤついた表情で俺のことを見た後に、指で4と表してきた。
こんなにクラスがある中で、一緒になるかね普通。
これも何かの縁なんだろうな。
「やべっ! 呑気に見てる暇なんてなかった、行くぞっ」
「遅刻した時の言い訳考えとけよ」
「お前のせいにする」
「じゃあ俺も明人のせいにする、ていうか明人が悪い」
「なんでだよっ!!」
酷いっと目線を送ってくるが、俺はケラケラと笑いながら階段を登っていく。
「よーし、ギリギリセーフ」
「あっぶなかったなぁー」
そんなことを言いながら教室に入ると、クラスの目線が俺たちに集まる。
そりゃそうだ、入学初日に時間ギリギリで入ってくる奴がいる。そんな奴が注目されないわけがない。
「ほぼアウトだぞ~? お前ら」
「「す、すみませんっ……」」
担任の先生だろう。
ひげが少し生えていて、やる気のなさそうな目をしている。
俺たちは同時に謝り、自分の席を探す。
「わかったら席つけー五十音順で空いてる二つの席がお前らのだ」
「はーい」
そう返事をして、二つ空いてるうちの一つに座る。
「お前らすげえな、入学初日に遅刻なんて」
後ろの男が笑いながら話しかけてくる。
制服も着崩しているし、顔は整っているし、チャラそうな見た目だ。
俺からしたら、初日から制服を着崩しているお前の方がすごいけどな。
「遅刻じゃねぇよ、セーフだ」
「そうかいそうかい、そういうことにしておこう」
「なんでお前が許す側なんだよ」
またケラケラと笑っている。
すると、隣からものすごい歓声が聞こえてくる。
「な、なんだ……?」
「隣のクラスもう自己紹介とかしてんのか?」
先生が明らかに嫌そうな顔をしながら言った。
自己紹介で歓声……まさかとは思ったけど、さすがにないよな。
俺たちの自己紹介は簡単に名前と出身中学を言って、後は一言付け足すだけで終わった。
緊張などはしなかったが、一言が思いつかなかったので、少々頭を悩ませた。
まぁ、可もなく不可もない自己紹介になったんじゃないか。
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