第2話 人形のような美少女はやっぱり俺のことが嫌いらしい?
蒼井が家に来て、一日経った。
昨日は母さんが家に帰ってきた後に、すこしだけ話をして眠りについていた。
俺はというと、ぼーっとスマホを片手ににらめっこしていた。
ずっと動画を見ていたんだよ。最近の悩みは遅くまで起きてしまう事です。
「ふぁ~あ」
そんなだらしないあくびをかましながら俺は、のそのそと動いて、リビングに向かう。
「あんたねぇ、何時だと思ってるの」
「何時って……何時?」
「もう12時よ? お昼よ? おひる!」
「あー、はいはい、遅くなってすんません」
俺は全く悪びれない様子でリビングに座る。
すると、母さんはジロジロと俺を見てくる、それはもう、上から下まで。
「な、なに?」
「いやぁ? アンタねぇ、この家にはもう一人新しく住んでるんだから、その恰好はどうかと思うわよ?」
「恰好……?」
俺は自分の姿を、洗面所に行き鏡越しに見る。
上から下まで見て、通気性の良い黒のインナーにすこし地味な鼠色のボクサーパンツである。
ふむふむ、いつも通りの格好なのだが……。
先ほどの母さんの言葉を思い出し、鏡の前で「あっ」と拍子の抜けた声とともに気が付いたがもう遅かった。
蒼井が鏡越しに、俺の姿を見ていた。
「なっ……なんて格好してるんですかっ」
「い、いやぁ~、悪い悪い、いつもの癖で」
「私がいるところでは服は着てください」
「下着は服ではないのか……」
「下着の上に何か着てくださいという意味ですっ」
男の下着姿を見たからなのか、すこし顔を赤らめながら言われる。
いつもの癖だとはいえ、これは見苦しい物を見せてしまったと俺は反省した。
「悪い、反省する」
「わ、わかってもらえて嬉しいです」
まぁ、蒼井さんの男に対する好感度は0に等しい。
それは例外なく俺もだ。男である限り0だろう。
まぁ、今の反応を見れば、軽蔑はされていないだろうと思い、俺は洗面所で顔を洗おうとした。
その時だった――――俺は肩を掴まれる。
振り返ると、蒼井が顔を赤らめながら肩を掴んでいる。
しかもすこし強めに。
「い、今言ったばかりですよね?」
顔を赤らめながらも、ジトよりも、キッという睨みのような瞳で見られる。
「ご、ごめんなさいっ……今すぐ着替えてきます!」
俺はそう言いながら、急いで着替えに自分の部屋に戻る。
さっきまで眠く、重かった瞼が一瞬にして軽くなり、眠気が吹き飛んだ。
「ごめんねぇ? 幸奈ちゃん嫌かもしれないけど、あの子もあの子でいい所はあるからさ」
「い、いえっ……ごめんなさい。私がこの家に住まわせてもらっている分際で」
「いいのよ! 蒼が悪いんだから、嫌なところは嫌って言わないと」
「ですけど……」
「いざという時は叩いてもいいからねっ」
「実の息子を叩いていいっていう母親がどこにいるんだよ」
俺は不貞腐れたような態度で言った。
母さんはそれに対して「ごめん、ごめん」とケラケラ笑っていた。
「――――ったく、母さんは」
母さんの方を呆れながら見ていると、蒼井からの視線を感じた。
蒼井の方を向くと目が合った。
なんかすぐに、目を逸らされたけど。
「蒼? ちゃんと幸奈ちゃんのこと考えてあげなさい」
「おー、悪かったと思ってる」
「本当でしょうね」
「ほ、本当だよ」
「それならいいけどね」
俺はそう言いながら、作り置きされていた今日の昼食であろう、ミートパスタを食べた。うん、しょっぱくて美味しい。
そのあと母さんは午後からの出勤で、仕事に向かった。「嫌だ」「はぁ~、行って来るわ」とこの世の終わりのような声色と表情で。
母さんが仕事に行ったとなると、今家には二人きりである。
父さんは出張のため、明日の入学式まで帰ってこない。
入学式には出れるとかなんとか――――っとそんな話はいい。
今、蒼井と二人きり、この状況がどういうことを意味するか、わかるかな……? 美女と二人きりで羨ましいって? ふむふむ、昨日知り合って良いわけねぇよな?
結構、気まずいんだぞ? 相手が男嫌いってのもあるけどな。
「え、えーと、蒼井さんは高校ってどこに通うの?」
俺はまず無難な問題から切り出す。
男嫌いな女性にガツガツ聞いても良くないからな。あれ? だったら、質問なんてしない方がよかったのかな?
しかし、一緒の家に住むことになるから、少なくとも交友関係は良く築いた方がいい。
俺に聞かれた蒼井はすこしびっくりした様に目を見開いて俺の方を見ていた。
(そ、そんなに嫌がらなくてもいいじゃないですか……)
「私は葉城高校です」
「あっ、えっ? 俺と一緒なんだ……」
「そうなんですか」
「結構遠いから電車で通うしかないよね」
「そう……ですね。一緒の電車に乗るってことになるかもしれませんね」
蒼井さんが不満ではないが、良くはなさそうな顔をして言う。
そんな顔しなくても、俺と一緒の時間帯に乗ることはないでしょ……
明らかに嫌な顔をされるので、男としてというか、人として傷つく。
「電車はトラブルの原因になったりするので」
俺が勝手に一人で落ち込んでいると、ぽつりと呟くように蒼井が言った。
「トラブル?」
「ええ、でも早めに行けば空いているので大した問題ではないですよ」
「そ、そうなのか?」
なんにせよ、俺と一緒に行くのが嫌という理由が一番ではないらしい。
まぁ、それだけでもすこし胸がすぅーっとなるのが分かった。
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