人形のような整ったお顔の美少女が一緒に暮らすことになったので、よろしくお願いします。

楠木のある

人形のようなお顔の整った美少女が家に住むことになりました

第1話 人形のような美少女が家に住むことになった。

「はじめまして、蒼井幸奈あおいゆきなと言います。今日からとある事情で米村さんのお家に住まわせもらうことになりました」


 おいおい、この女はなに言ってるんだ? 可愛らしい人形のような顔からは考えられないが、頭がクレイジーなのか?


「えっと、あなたは頭が――――」


 あっぶねぇぇぇっ! 言いかけた。初対面の女の子に頭がおかしいの? って言いかけた。


 男として、いや人として終わるところだった。成長という名の階段を一歩、いや百歩くら降りる寸前で踏みとどまった。


 ほらぁ……えっと蒼井さん? が今の俺の不自然な動きのせいできょとんとした目をしてるし、なんか逆に頭がおかしいみたいに思われてそうで怖い。


「あ、あの……?」

「あっ、家を間違えてるんじゃないですかっ?」

「間違えてはないと思いますけど」


 ここらへんに米村という苗字はここしかないが、俺は一か八か言ってみる。

 もしかしたら、とんでもなく可愛い泥棒、なんてこと……。


「それはどうして?」

「ここらへんに米村さんのお宅はここしかないのと、米村さんのお母様に連れてきてもらいましたから」

「なるほど……それはここしかありませんね」

「……ですよね?」


 不安そうに、苦笑いしながら小首を傾げる。

 気まずい空気が漂って数秒、玄関の扉が開く。


「ただいま――――って、あんた幸奈ちゃんのこと部屋に案内してなかったの?!」

「その前に説明が必要だと思うんだがっ」

「女の子こんなところで立たせて、話なんて聞けないでしょう」


  母さんは「アンタって子はぁ」とジトっとした目で呆れたようなため息交じりな声で言ってきた。


「わ、私は大丈夫ですよ? 困惑されていたと思いますし」

「ほんっと、幸奈ちゃんはやさしーわよねぇ」


 母さんの顔がデレデレととろけている。

 実の息子を前に何をやっているんだか。


「悪い、変に疑ったりして。なんていうか、その――――ごめん」


これは俺が悪い。すぐに自分の悪い所を認めた。

 これのお陰で変な意地を張らずに、そこからはスムーズに動いた。


「謝らなくていいですよ……はい」

「じゃ、中に入って、自己紹介も含めて説明しましょうか」

「そうですね」


 なんかもう、大事なことはこの子から聞いた気がするけど、まぁちゃんと説明してくれるんだから、しっかりと聞いておこう。


「――――ということなの」

「つまり、父親が海外転勤で、蒼井さんは日本に残りたくて、本当は一人暮らししたかったけどできなかったと?」

「そうそう、それで、幸奈ちゃんのお父さんが頼んだのがパパってこと」

「なるほどね、可愛い娘を一人暮らしさせるのは怖いと」


 まぁ、父親ではないから気持ちはわからないが、一人の男として、自分に娘ができて、一人暮らししたいと言ってきたとする……。


 素直に「いいよ」なんて言える自信はない。

 それに、こんなに可愛い子を一人暮らしとはさせたくないだろうなぁ。


「まぁ、そう思われているかはわかりませんが……」

「そんなことはないわよ」

「お父さんは、母が亡くなってから、より一層、仕事一筋になっていた気がしますから……」


 そのあとは、ただ沈黙が流れた。

 誰も何も言おうとしなかった。

 いや、何も言えなかったのだ。


 これは、蒼井家の問題であって、俺たちが下手なことを言うわけにはいかない。


「幸奈ちゃん、ここを第二の家だと思ってくれて構わないからね?」

「あ、はい。あ、ありがとうございます」

「うんうん」


 そう言いながら、母さんは猫を愛でるかのように、蒼井の髪の毛を撫でている。


 蒼井は少し照れ臭そうにしていたが、嫌がる表情はなかった。

 ただ――――どこか、寂しそうな、悲しそうな表情だ。


「じゃあ、ご飯にしましょう」

「そういえば、めっちゃお腹空いてるわ」

「――――って言っても、今から買い物してくるんだけどねー」

「行ってらっしゃい」

「あの、なにか手伝いましょうか?」

「いいのいいのっ、なにかと緊張したりして、疲れたでしょう? 今日は休んでて」

「そう……ですか、わかりました」


 母さんは俺に、蒼井を部屋に案内させろと言い残し、家を出た。

 俺は、母さんに言われた通り、蒼井を部屋に案内する。


「ここを好きに使ってください」

「いいんですか?」

「当たり前でしょう? それに、使ってなかった部屋なので大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」


 掃除はしたが、多少はほこりや汚れがあるかもしれないが、そこは我慢してもらうしかない。


「蒼井さんは、彼氏さんとかいるんですか?」


 なぜ、今この質問を聞いたのかは自分でもわからない。

 たぶん……たぶんだけど、彼氏がいるとなると、問題が出てくる可能性あった。


「私に彼氏なんていませんよ……」

「へー? 特に理由はないんですけどね」

「そうですか」

「まぁ、もし彼氏がいて、問題になったら嫌ですし」


 俺が「わかるでしょう?」といった感じで答える。

 ここでの、問題とは、彼氏が難癖付けて浮気だなんだの、言ってくる可能性もある。


 俺が蒼井と付き合いたいからというわけではない。

 蒼井というか、彼女を作るつもりはないし、作れる気もしない。


 誰がモテないだ? このやろ。


「理由あるじゃないですか」

「たしかに……」


 自分でも矛盾していたことに、フッと軽く笑ってしまった。


「それに、私が付き合うなんてこと想像つきませんよ」

「そうなんですか?」

「はい、私は男の方が


 はひっ? え……今この方なんておっしゃったんですか?

 男が嫌いと言ったのでしょうか……。


「え、えっと……嫌い?」

「はい」

「あ、聞き間違いじゃなかったんだ……」


 俺が、苦笑いしながら言うと、彼女は表情を変えずに、いやさっきよりも冷たい表情を作り。


「はい、嫌いなのに付き合えるわけないでしょう?」

「た、たしかに、そうですね……」

「はい」


 その冷たい瞳からは、なにかを諦めたようなものが感じられた。

 まぁ、俺の思い込みかもしれないけど、あんまり関わらない方がいいかもしれない。


「ま、そっちの方が仲良くできそうだ」

「えっと? それはどういう意味ですか?」

「ん? あぁ、大丈夫。面倒くさいことにはならないよってこと」

「あ、なるほど」


 蒼井は俺の言葉を聞いて、すこしホッとしていたような気がする。

 同じ家に住んで、こんな人形な子を好きになるなって方が難しいのかもしれない。


 蒼井が俺の家に来たのは運が良かったと言えるのだろうか。

 この子の運がいいのか、俺の運が悪いのか。


 この日から、俺、米村蒼よねむらそう蒼井幸奈あおいゆきなと一緒に住むことになった。


 

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