第17話 魔王を倒す勇者は?
同盟魔族達の軍は、当然シウンの下にいた。というより、シウンと彼を後援する王侯都市部族の軍とともに進み、野営もし、作戦会議も行った。はじめは危ぶまれた関係も、シウンとシデンの奔走、2人が腕を組んでいる姿も効果があり、比較的スムーズに魔族と人間・亜人はその関係が馴染んでいってくれた。自分達が対峙している魔族と比べると姿も、立ち居振る舞いも、考えも近かったし、恨みを共有する関係もあったからだ。
シウン直属の精鋭部隊の半ばも魔族だったし、魔族と人間の王族男女の間で、仲のよさげな者達まで出て、それは下まで広がって、酒のつまみの噂話となっていた。
魔王城を取り囲んだ人間・亜人・藻族の連合軍は、総攻撃を開始した。その先頭には、勇者シウンがいた。そのすぐ後ろには、彼のチームがいた。
彼は、体に魔法を纏わせて魔王城の城門に体当たりした。その衝撃で魔王城の城門は揺らいだ。同時に、それを防ごうとして魔王軍側の魔法が弾かれる形になり、飛んできて、城壁等に衝撃を与えた巨石の振動も付加されて、城門は揺らぎ、ついには倒れてしまい、突入路ができてしまった。
「突入するぞ!」
シウンは躊躇なく突入し、守ろうとして彼に殺到する魔族達を、力の出し惜しみもすることなく
魔力も体力も全開にしてなぎ倒していった。
「主様。ここであまり無理をしては・・・?」
とシデンが傍らで戦いながら囁いた。
「後は、後続にまかせて、適当にやるさ。ここでの活躍を印象づけたいのさ。」
と囁き返した。曖昧にうなずいたシデンは、
「みんな、勇者シウン様を援護するわよ。」
自分も特大の攻撃魔法を放つ。"主様の支援魔法が以前より効果が上がっている、やっぱり。"スピット達も、彼らに感染したかのように全力で戦い始めていた。"私だけじゃない・・・。しかも、範囲が広がっている。"
「魔王討伐隊のために、道を作るぞ!」
とシウンが叫んだ。
"ああ、これもありだな。我々も協力するか。それに我々の勇者様だからな、彼は。"
と後ろから見ていた彼の後援国の王太子は考えていた。そして、自ら陣頭指揮でシウン達の後ろから進軍した。
魔王城の三の丸、二の丸は次々落ち、後は魔王のいる本丸だけである。ここまでシウンの一人舞台のように彼は大立ち回りだった。それに引きずられるように、彼のチーム、さらに続く部隊の活躍ぶりが目立った。“もう、この辺でいいかな。”その時だった。
「何しやがる!」
怒鳴り声が聞こえた。戦いの中で聞こえなくなっていたが、彼には分かった。ベアキャットが、他の勇者を無理矢理おしのけたのだ。剣を抜いて、切りかかる他の国の勇者を慌てて、シウンは、羽交い締めしておさこんだ。
「勇者ベアキャット様。早く進んで。」
彼の脇をベアキャットと彼の女達、彼のチームがしたがった。あの人数すらも、正体不明の女達もだ。
「遅れをとるな!」
先ほど、突き飛ばされた、勇者がそのチームと共に追いかけていった、その際シウンを突き飛ばしていった。“これ以上かかわり合っても…助けてもかえって恨まれるだけだしな。”とシウンは、自己弁護するように心の中で言った。
「主様。大丈夫ですか?かなりお疲れでは?」
とシデンが。
「そうですよ~。私達もヘトヘトですよ。」
とはハリア。スピット達も、疲労困憊のようだった。
「そうだな。後はまかせて、一休みしよう。」
周囲を警戒しながら、シウンは言った。一気に疲れが来た感じだった。“あいつらは大丈夫かな?あの勇者の一行・・・ベアキャットに殺されなければいいが・・・流石にこういう場だ・・・そこまでしまい。しかし・・・。”と心配しながらも、彼らを助けるつもりは、シウンには全くなかった。
それでも、しばらく休息し、
「魔王を倒した!」
という叫びが聞こえてこないこともあり、
「様子を見に行くか。」
とシウンは言いだした。
「全く、協力の姿勢を見せないと、見殺しにしようと思っていたなどと言われかねないから…。」と弁解がましく、
“もう…主様は…。”
“絶対辯解よ。”
“弁解以外の何があるのよ?”
“やっぱり、あの4人が、大切なのよね。”
“ああ、分かっているわよ、分かりましたよ、行きましょう。”
と5人の心の声は、彼には聞こえなかったが、その痛々しい視線は感じたシウンだった。
「まあ、いいさ。私もついて行く。その言い分も、当たっている面もあるしな。ただ、あいつらにやられないように気をつけないとな。」
との女勇者。
「その場合、敵は、もう4人増えると思うから、背中に気をつけて。」
スピット達4人をチラッと見たベラクルス、こちらは耳元での囁き。
二人の言葉に、頷くしかないシウンだった。
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