第15話 こちらも加わる者が
「私を君のチームの一員として、加えてもらえないだろうか?」
と言ってきたのは、勇者ヒエンだった。彼女は傷が癒えると直ぐに後を追ってきたのだ。
「しかし、勇者が二人でチームをと言うのは…。」
もちろん、シウンは躊躇した。彼にもプライドがあるし、入ってもらうのは戦力アップになるが、どちらが真の勇者か、魔王を倒した後で(捕らぬ狸の皮算用だが)どちらの功績かなどという問題が起きるだろう。それでも、ヒエンの功績が大としてもいい、自分は小さな領主になればいいから、と思っているシウンだが、ことはそれで収まらない。彼らのバックに、後援、支援している王侯貴族都市教会の関係もあるからだ。
「いや、一員としてだよ。単なる元勇者の1剣士として。正直、何もいらないとは言わないが、勇者としてのそれはいらない、求めない。」
と彼女は彼の懸念を察して約束するように言った。
「それは、私を・・・支援してくれている王侯貴族や教会も同意していることだから大丈夫だ。」
もう分かりましたとしかいえなかった。しかし、ことはそれだけではなかった。
「私達も加わらせて下さい。」
と言ってくるグループが相次いだからである。勇者ヒエンの元チームの面々たちの中からもいた。半ばは、敗者に見切りをつけたのだが、
「私達の勇者はヒエン様です。一緒に連れて行ってください。」
という男女もいた。前者を非難できないし、後者が純粋というわけではないが、決して。
さらに、勇者トマホークの元チームの何人かもやってきた。
「トマホーク様を救いたいのです。」
「私達を助けるためにトマホーク様は屈辱を受けて・・・。今度は私達がお助けする番なんです。」
トマホークが自分を殺そうとするだろうということを聞かされても、覚悟は変わらなかった。彼らの場合も見捨てた者も、そうでない者は欲と純情の差ではくくれないが。
「私が、それで死んでも、勇者様をお助けできるのであれば、解放できるのであれば、本望です。」
「トマホーク様をあのような目にあわせたまま生き延びて、なんになるのでしょうか?」
彼らの決意は堅く、シウンは説得をあきらめた。
シウンの説得を聞きながら、スピット達が青ざめていた。
一旦説得をあきらめたかに見えたシウンだったが、あらためてヒエンとヒエンのチーム、トマホークのチームに、自分は魔族と提携し、和平、共存を目指している、その気持ちは一寸たりとも揺るがない。同盟を結んだ魔族は自分とともに戦い、自分は彼らのために戦うこともある、自分と行動をともにできない者を仲間にはできないと彼らに向って言い放っていた。
「お前らは、主様を殺すのか?ベアキャットを守るために?あるいはその命令に従って?主様を愛する心より、彼の方がいいのか?」
意地の悪い笑みを、彼女らしからぬ、浮かべてシデンはスピット達を見た。
「シウンの方がずっといいよ・・・。でも・・・。」
「シウン様を愛しているという言葉に偽りはありませんが・・・。感じるんです・・・。」
「殺したいなんて思っていないわよ・・・。そうなんだ、体が感じるのよ。」
「ベアキャットの命令を聞くとか、守りたいなんて絶対ない・・・です・・・。」
四人は、ともに言葉が途中からでなくなった。
「では、問題はなかろう。お前達も、主様とともに、主様を守って戦えばよい、それだけだ。」
彼女の顔は、これも彼女が四人には今まで見せたことのない優しいものだった。
「シデン。もし、シウンをあたいが殺そうとしたら、殺してくれ、頼む。」
「そんな、自分をゆるすことができません。だから、お願いします、殺して。」
「シウンを傷つけるくらいなら、生きていない方がいいわ。」
「体が勝手に動いて・・・全てを忘れて、狂ったようになって・・・多分。」
シデンはため息をつくと、
「ふん。お前らが主様に襲い掛かったら、私はお前らの前に立ちはだかる。主様も流石に、お前らを支援などはしまい。」
悲しそうな顔を、シデンはした。その時、シウンは再度説得をあきらめたところだった。
戻ってきたシウンを見て、4人はきまり悪そうに、そそくさと背を向けて、姿を消してしまった。
「?」
という顔のシウンに、視線を向けられて、シデンは"仕方がないな。でも、何でわたしが。"と思いつつ、シウンにいない間のやり取りを説明した。
「主様は、どうするつもりですか?どう考えていますか?やはり彼女らが、主様を殺そうとすると思いますか?」
そのシデンの問いに、
「分からないが、多分、俺を殺そうとすることになると思う。勇者トマホーク殿のチームの面々にも言ったように。ああ、トマホーク殿も犯されているだろうな・・・、それがどういう関係になるのかわからないが。」
と言った後、彼はしばらく黙っていた。
「彼女らは、私に殺してくれと言いましたが・・・。」
「う~ん。」
彼は腕を組んで唸った。そして、
「受け流して、邪魔してくれれば・・・。いや、自分の身を考えて・・・殺ろす方が安全であれば、殺せ。あいつらへの支援は・・・・止めるから。」
彼は大きなため息をついた。その目は、少し虚ろに見えた、シデンには。
「サイウン達も同様だ。」
辛そうに付け加えた。その時、シデンは何かを感じて彼に抱き着いた。
"私は、嫉妬しているのか?あの4人に?あ~、そうかもしれない・・・取って代わりたいと思っている・・・。"
シウンは、その彼女を強く抱きしめた。抱き締めないと、何かに耐えられないというように。
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