第13話 魔族との提携③

 戦いは決して楽ではなかった。だが、

「主様…。前より強くなっていないか?」

 スピットが、シデンに問いかけた。

「ああ。」

 シデンは、そう言って頷くだけだった。少し怖い気持ち、それが何なのか分からなかったが、とこれから自分の部族との関係がうまくいってくれることが心配だった。

 だが、彼女もスピット達4人もすぐに気持ちを切り替えた。今は、全力で彼と進み、戦わなければならなかったからだ。そして、彼女らは、そのようにしたのだった。

 彼女らを支援し、助けながら、小魔王に、彼の親衛隊を蹴散らしながら進むシウンは、その周囲すらまきこみかねないくらいの魔力攻撃 をその本陣に放ったのである。その一撃で、本陣は半壊、小魔王は倒れた。

「今だ!行くぞ!」

とのシウンの叫びに全員が呼応し、その勢いに攻城側は総崩れで壊走を始めた。

 さらに、追撃を続けた。

「これならどうだ。」

と潰走する魔族の軍に、光の衝撃弾を放った。それは、混乱を一層ひどくさせた。この結果、リョウネイ族はカイヨウ族の領域の大半を放棄して撤退することになった。とはいえ、カイヨウ族にとっては、中心地を奪われ、何とか逃れてきて確保した地域を守ることができたという程度にすぎなかった。それでも、存亡の危機を乗り越えたことは事実だった。

「勇者殿。今回の助力有難うございます。」

 砦の城主とシウンに従ったカイヨウ族騎士団長が並んで、かついずまいを正して深々と頭を下げた。魔族が人間の勇者に感謝を示すということは、今まであり得なかったことだった。

 これに対して、シウンもいずまいを正して返礼をして、これからの提携、共存を約束した。

 この後、さらに周辺での残敵掃討にも協力した。

 これで、彼らの精鋭騎士数人を自分のチームの一員として同行させ、支援部隊として千人を越す部隊を提供することに同意するとの使者が、彼らの部族長、彼らにとっては魔王から来た。さらに、たの部族への呼びかけも同意を得られたので、同様な協力をするとになるだろうとの言葉もあった。

「ありがとうございます!」

と涙目のシデンに対して、

「礼を言うのは私の方だよ。」

と彼女を抱きしめるシウンだったが、“彼らのために、ベアキャットと対峙することになるかもしれないな…?”とも、突然思いついた。


 その頃、

「わ、分かったわ。あなたの奴隷になるわよ!」

 女勇者トマホークは、ベアキャットの前で、唇を噛みしめながら、無念そうに言った。もはや気力を失って、四つん這いになって、頭を項垂れていた。

 無理やり勝負を挑まれ敗れた…それで殺されようと、奴隷になる屈辱など拒否するつもりだったが、彼の4人の超一流の4人の女戦士に生殺与奪を握られている仲間達を見ては、拒否できなかったのだ。

 彼女のチーム、十人以上の男女の面々は大地に倒れ、動けない状態だった。

「私が不甲斐ないばかりに・・・。」

 彼女は思ったが、ぎりぎり意識を保っている彼女の仲間達も同様の気持ちだったた。

「だ、だから・・・仲間達の回復を・・・、せめて手当をしてやってほしい。頼む!すぐにでも奴隷盟約を結んでもいいから・・・。」

 土下座する彼らの、彼女らの勇者の声に、彼ら、彼女らは体を何とか、何にもならないと分かってはいたが、少しでも動かそうとした。いかい、動くと容赦ないね無慈悲な一撃がきた。

「動くんじゃないよ。あなた方の勇者様が、さらに苦しむことになるよ。」

 上からの声は、厳しく、威圧的ではあったが、どこか哀愁が漂っているように思われた。他方、ベアキャットは、見下す、嗜虐的な笑みを浮かべていた

「敗者が奴隷盟約を結ぶのはとうぜんだろう?何か望むなら対価というものがいるだろう?常識だろう。かといって、奴隷のお前、奴隷勇者様に差し出すものなどないだろう?お前自身も、お前の物も、俺の物だからな。ああ、でも、俺は寛大だからな。ここでお前が名実ともに、俺のものになることで、お前の願いを聞きとどけてやろう。」

 そう言ってから、彼女に奴隷盟約を結ばせると、彼女の鎧を脱がせ始めた。

「や・・・。」

 彼は、彼女を彼女のチームの面々の前で、そして4人の前で、彼女らも彼の愛人?であるのに、悠々と誇示するように犯した。

「ますますゲスになっていくわね。」


 その後、何とか動けるようになる程度まで彼らに回復魔法をかけた4人は、ぐったりと仰向けになって、見事な金髪を乱れるままになっている勇者トマホークの体を簡単に拭くと、二人が肩を貸して、二人が彼女の装備を持って、彼女らは皆、食糧その他の荷を担ぎながら、

「早くいくぞ。」

と言って歩き始めたベアキャットと3人の後を、必死に追い始めた。

「5人に見えない?」

「そう?」

「見えるような・・・。」

「さあ、今は考えるよりも足を動かす時よ。」

 後方で漏らす声にならない声、嗚咽を背に感じながら、ぐったりしている勇者の心中の絶叫を感じながら、4人は疲れている体を動かしていた。

「ひとおもいに殺してくれないか・・・情けだと思って・・・。」

 元勇者トマホークは、消え入るような声で、サイウン達3人に懇願するように言った。あれだけ夕暮れの下で彼女を弄んだベアキャットは、レイカンを抱いていた。だから、彼女がいないのである。

「勇者。トマホーク様。それは私達にもできません。今は、この屈辱に耐えるしかないのですよ。」

 彼女らは、もはや元勇者であるトマホークの両手を握って慰めるしかなかった。


 

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