第12話 魔族との提携②

 この夜、戦いが終わり、戦勝の祝いは翌日以降ということにして、いつもより多少豪華で、酒が少しだけついた夕食がふるまわれ、休息、そしてそろそろ就寝という頃になってシデンが、三人の捕虜を連れてシウンの天幕にやってきた。

「主様。この者達は、私の旧知の者、というより、私の上官だった者、我が部族の軍がまだ健在であった頃のことですが。」

「分かった。天幕の中で、ゆっくり話を聞こう。」


 シウンは、戦勝の祝宴の将兵の声を耳にしながら、その翌々日、城の奥の一室にシデンと魔族の騎士一人を従えて、長椅子に座っていた。二人は、その後ろの椅子に座っていた。

 彼らの前には、二人のどこかの王族と思われる男女が豪華な長椅子に座っていた。

「それで、その魔族に何をさせようというのかしら、勇者様?」

「リュウセイ王女殿下。彼を通じて、彼の部族の魔族に、今、我々が対峙している魔族に対して戦う、同盟を結び、提携するのです。彼は高位の貴族、彼ならば、その交渉の使いとして適任と思うのです。」

「しかし、彼は・・・大丈夫かね?いや、彼というよりだ・・・彼の部族、やはり魔族だし・・・その部族の長はやはり魔王なんだろう?とりあえず、共通の敵がいる間は協力しあえるが、その後は我が方に侵攻されることになっては・・・、将来の脅威が生まれることになるが。」

 "流石にギンガ王太子。当面の利益を考えながら、将来のことを懸念するのだか。" 

 2人は、この戦いに手勢を率いて駆け付けてきたのである。シウンの支援者というか、後見者というかの存在だった。

「彼らは、人間との戦いを望んでいないというか、あまり関心がないのです。私の奴隷となった魔族の話では、ですが。彼らの生活は、どちらかというと我々と、人間と似ています。かえって人間側からの援助を、農業とか色々、することにより、互いに利益を得られるでしょう。」

「それはわかるけど、彼らが侵攻しない、提携、和平を守る保証が必要ということですよ。」

とリュウセイ王女が割って入った。

「勇者である私と盟約をむすぶことで。」

「は?」

「しかし、盟約は見返りも必要だが?」

「まさか・・・。」

「破った方に、勇者が敵として立ちはだかると。」

「う~ん。」

 二人は唸って、黙り込んだ。

 その二人に、シウンはシデンに聴いた魔族に関する話を、自分が可能な限り説きまくった。二人は、それを文句を言わず黙って聞いた。

「とにかく交渉してみよう。」

「そうですわね。」

 “この2人は、利益…公私共に…を理解する、自分の利益を後回しにすることがかえって自分の利益になることがあると知っている…人の良さそうな顔、厳しい顔をしながらも…。”とシウンはこの2人を見ていた。


「主様。有難うございます。」

 二人との会見を終えて部屋を出てきたシウンに、シデンが涙を流さんばかりになって礼を言った。

「こいつ・・・、こんなことをあんたにさせて、あんたに迷惑をかけたのではないかとおろおろしていたよ。」

「意外と可愛かったですよ。」

「お、お前ら~!」

 シデンはスピット達に揶揄われて、真っ赤になっていた。怒ったのか、恥ずかしかったのか、その両方だったのかはわからないが。

「シデン。こうなったら、是が非でも、お前の部族との提携、和約は実現させなければならない。交渉が上手くいくように色々と頼むこととなるが、頼むぞ。」

「はい、主様。命に代えても。」

「止めてくれ。お前に死なれては、俺が一番困るんだから。」

 苦笑するシエンに、他の女達4人が笑い、シデンは涙ぐんだ。

 

 翌日、シデン達は先を急いで、出発した。それはベアキャットのチームが、魔王との直接対決となり、痛み分け、一時撤退、支援の部隊としばらくして合流して再出発するという情報を得たからだ。

 この戦いの勝利で支援する、後援するという動きが強まり、精鋭の騎士、魔導士達も加わってきた。それを率いての旅立ちとなった。これで、ベアキャットの一行に追い付けるかもしれない状況になった。そうなると、彼の襲撃を警戒しなければならなくなるな、シウンは考えざるを得なかった。

「私達が守るから。」

と言ったファイアだったが、自信がなかった。それは他の3人も、さらにシデンすら同様だった。あの4人にはとても勝てない、彼女らを抑えなければシウンは圧倒的に不利になるし、自分達の誰か一人でも加わらなければ、助力しなければ、シウンに勝ち目はないだろう。

「あの4人は強いか?」

「私達より強い。悔しいがシデン、あんたの方があたいらよりかなり強い。それでもリーダーの支援魔法で強化されていても、あんたより強い。」

「彼女に賛成。」

 他の3人。それでもシデンは納得がいかず、シウンに直接問うていた。

「主様。私ではあの4人に勝てないのか?」

と。

「今の彼女らの体調がわからないから何とも言えないが、私の見るところでは、純粋に一対一でも勝てない。」

だった、シウンの回答は。

「彼女らは、主様との戦いなのだから手を抜かないか?ベアキャットに尽くす意味はないだろう?」

 シデンの問いに、ハリアが、

「今思うとさ、奴の為に無心にというか、ためらうことなくというか戦うという気持ちになるんだよね。奴の女だったわけだけど・・・・それとはまた違った感情のような気がするのよ。だから、いざ戦うというときには、彼女達は手加減しないと思う、もう無我夢中、相手が誰かわからない状態になってると思うよ。」

言ったが、一つ疑問があった。彼女らは、ベアキャットの命令通りに、相手を殺さなかった、命を助けていることだった。

「もう闘いが終わっていたからだろうね。」

ケーンの言葉に、同意せざるを得なかった。

「主様はどうするつもりだろうか?ところで、その魅了なのかよくわからない強制力は、奴本来の力なのか?それとも、あの3人の女の力なのか?」

「わかんないな。」

「てんで・・・。」

「分からないわ。考えたこともなかったし。」

「4人目だったりして・・・。」

「あり得るな。面白い・・・。」

 最後はいつの間にか加わっていたパラケウスだった。


 魔族との提携が具体化することになった。最初の段階として、シウンにシデンの部族から、三十人の魔族騎士が彼の配下になることになった。その見返りとして、彼らが、今危機に瀕している彼らの砦への助力をすることとなった。魔王討伐の旅に遅れがしょうじることになるが、人間全体としては利益になる。シウンは、この決定を受け入れた。ベアキャット達に、再び差をつけられることになるかもしれないが、やむを得ないと観念した。


 いくつもの小さな砦、魔族の各村々で作ったものだろう、が防衛線を形成しているのを、かなりの数の魔族が取り囲んでいた。取り囲んでいるのは、当然、シウン達が討伐の目的にしている魔王の部族、リョウネイ族であり、囲まれているのはシデンの部族カイヨウ族である。シエン達は、さらに加わった魔放騎士団200騎とともに、後ろから、エイダブル族の軍に襲い掛かることになった。

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