第11話 魔族との提携①
「それでな、魔族との提携の件なのだが…。」
司祭はその件について、承認され、内々だがシデンの部族と接触を図ることになったとシウンに伝えた。
しかし、それは人間・亜人全体ではなく、シウンの後見となっている諸国、教会がであった。
“これ以上、どうしようもないか…。とりあえず、進んだことを、喜ぶか?”
「私も主様と同じです。」
とシデンも複雑そうな表情だった。“あいつらを殺せればいいけれど…。仲間が…。”
それが一転して、具体的に動き出した。
まず、シウン達は魔族の一隊と戦うこととなった。戦うことになったというより、彼らが侵攻してきた都市からの救援の報が届いたからである。かなりの数だった。最低でも三千との報だった。もちろん周辺の諸侯、諸国からの騎士達が派遣されていた。ここは無視して、魔王討伐の旅に、魔界に入ることも一つの選択だった。かなりの兵力の魔軍、指揮官はかなりの実力者だと思われる。集まっていた人間の軍はさほど多くなく、かなり危険であった。魔王さえ倒せば、早く魔王を倒せば早く全てが終わる。だから、そちらを優先すべきかもしれない。しかし、シウンは救援に駆け付けることを選んだ。
囲まれている都市を救援する。
まず、シウンは事前の偵察に自分のチームを率いて行った。その上で、自ら先頭に立って攻撃をかけた。彼が、勇者が先頭に立つ、自分だけでも行くという態度に、できるだけ自分の兵だけは失いたくないという思惑から、動こうとしない軍を動かすことになった。
「まず、これからだ!」
シウンは叫ぶと、大きな攻撃魔法を長距離で発動した。電撃が魔軍の本陣の中で炸裂した。後方での混乱に、魔軍全体が動揺が走った。
「皆、行くぞ!」
シウンが飛び出すと、五人の女が続き、その後に騎士の精鋭が続いた。それを見て、罠にはまったな、とほくそ笑んだ魔軍の指揮官の一人がいたが、
「?」
唖然とするまでに時間はかからなかった。罠が発動しなかったからだ。その間に、瞬く間に部下達がなぎ倒され、周囲には僅か数名の護衛しかいなくなった。その目の前に、魔族の女が立っていた。
「この雑魚は、私に任せて、主様は先に。お前たち、主様の邪魔にだけはなるな!」
と叫んだ。
「ちゃんと、シウン様を助ける!」
「任せて!」
「大丈夫よ!」
「やってやるわよ!」
と4人の女達の声が聞こえた。彼女らは、彼を無視して奥に駆けていった。さらに何人かが続いていた。
「行かせぬ…う。」
彼の動きが止まった。彼の護衛2人を瞬殺した魔族女が、彼の前に立ち塞がっていたからだった。
「お前は…魔族のくせに…。」
「お前らに、仲間呼ばわりはされたくないわ!」
シデンは、彼と残りの護衛達と対峙した。その時、雷が落ち、切り刻む竜巻が起こり護衛は二人に減っていた。応援に駆け付けようとしていた一隊もそれに巻き込まれて、動けなくなってしまった。周囲にそのような魔法を発動したような者はいないようだった。"主様か、もう・・・。"シデンは、彼女だけではなく、シウンに力を温存させようと、できるだけ使わせまいとしていたのだが。ため息を漏らしながらも、そんなシウンが愛おしく思った。"すぐ駆けつけますからね。"
目の前の三人を倒して進んだシデンの目に、副魔王とその親衛隊幹部達と死闘を演じているシウンの姿があった。それでも、彼女は自分に彼の支援魔法が働いているのを感じた。"主様は・・・本当に。"その上、スピット達をはじめ、自分のことで精一杯、というより苦戦、相手が複数ということもあるが、しかも、危なくなるのを見ると、シウンが魔法やらで援護をしてくれるので、そのたびなは押し返すことができている、という有様だった。
「い、今すぐ、駆け付けます!」
と小さく叫んで、戦いの中に身を投じたシデンだったが、直ぐに、“こ、こいつら、強い!”4人とはいえ、何とか優勢にたたかえているという状態で、全く余裕がない、シウンを助けるという状態ではなかった。“こ、こいつは、魔王直属の兵?”大柄な騎士の剣を受けとめながら、火炎弾の連発を弾き返しながら、シデンは呻いた。押し返し、蹴散らしてシウンのそばに援護に駆け付けることなど、とてものことできなかった。
「私達のことをとやかく言うけど、お前もあの4人とは比べようもないよ。」
ファイアが言った言葉を思いだした。“私では駄目なのか?”と、つい、奴らのような足手まといにはなっていないと言い訳しようとしている自分に唇を思わず噛んだ。
「くそ!流石にきついな。みんなは大丈夫だろうか?」
シウンは、次々に繰り出される剣、矛、矢、拳、蹴り、そして、火炎弾、炎の放射、氷弾、雷などを何とか受け流し、周囲の仲間達を援護し、助勢に駆け付けてくる一隊を次々に魔法攻撃を加えて、撃破、足止めしていたが、根をあげ始めた自分を感じ取っていた。“サイウン達なら、助けに駆け付けてくれた…そんなのことを考えているときではない!”と自分に叱咤していた。
シウンが今まで相手にしていなかった実力だった。それは、総大将と思われる奴だけでなく、彼に助力している連中もだった。
彼らも、ここで勇者の一人を確実に葬ろうとしていた。“他の連中の実力もかなりあるだろうな…みんな大丈夫だろうか?”と防戦一方ながらも、時折、相手に、当人も気が付かないような打撃を与えながら戦っていた。
「そんな他人のことを気にかける余裕があったら、自分ことを心配したらどう?」
彼が魔道士の女を助けるために、手裏剣を器用に複数投げて、しかも彼女に魔法攻撃しようとしていた男の急所に命中させたからである。
“あれ?こいつ女?”はシウン。かれの目には、シデンを見慣れた彼の目には女魔族どころか人間型魔族にすら見えなかった、要素から見ると確かに人間型だが、おぞましい姿だったから。
「ぐ…、まさか…。お前、なにをした?わ、我に構わず、お前達…な、何?ま、まさか…。」
急に動きに、痛みが伴い、腕が動かないことを感じた“彼女”?は、驚愕してシウンを睨みつけた。
息があがりかけていたが、主の危機に、後方から飛び出して襲いかかった魔族騎士と兵士計3人を、風で巻き上がる火炎陣で包み、剣一閃で斬り、止めをさしたシウンは、答える余裕はなかった。気力を振り絞って、動きを止めた一団に斬り込んだ。
「ぎゃあー!」
「卑怯者!」
「俺が…。」
と叫び、その直後に崩れ、倒れるのを見て、自分も大地に倒れたいという衝動を必死に耐え、敵陣を睨みつけるシウンだった。“早く崩れて…逃げ出してくれ。”それでも、ケーナの援護に光弾を複数放った。"シデンは・・・流石に大丈夫だな。"
そのシウンに、まだ戦いを挑む、忠義な魔族兵士が何人かいた。それを、魔法を乗せた剣の斬撃破で一気に倒し、すかさず止めをさした。“この程度の魔族で一撃で倒せないとは、もう…あ、ハリアが危ない!”と雷を落として、魔族騎士の戦闘力を消失させた。“いよいよ…。”と思った時、魔族の将兵が退き始めた。“ようやく…。”と思いつつ、残りの力を振り絞って、大火球を飛ばす、追撃のように。シデン達が駆けてくるのが目に入った。魔軍が視界から消え、シデン達が周囲に魔族の兵士達がいないことを確認してから、
「もう…だめだ!」
とシウンは大地に膝を落として、座り込んでしまった。
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