第7話 魔王打倒への旅立ち
「勇者シウン殿。ついに魔王打倒の旅に出発なさるとのことですが、やはり慎重を期した上で行うべきではありませんか?」
彼の魔王打倒への旅立ちを報告すると、再洗礼派教会と母国から使者が来て、心にもないことを言ったのは、彼が出発の準備を手分けして行う中で、物資調達の打ち合わせが終わって、冒険者ギルドにいた時だった。
それまで、やんわりとではあるが、催促がしきりにきていたのである。まあ、逆に出発するとなると、心配がでてくるのだろう、とシウンは思った。
「まあ、魔族がらみの討伐依頼も果たさなければなりませんし、準備も入念にしてますから、今日、明日のことでは、ありません。」
使者達がほっとしたのは、彼が確実に数日中には出発すると確約したことだった。
「ついては、優秀な戦士あるいは賢者といえる方の派遣をお願いできないでしょうか?」
「もちろんです。既に、希望者を募っております。決まりましたら、後を追わせましょう。」
「よろしくお願いします。」
シウンは頭を下げたが、期待してはいなかった。というより、やっぱりな、と思っただけだった。希望者はいないのだろう、だから希望者の中から選びとは言わなかったし、今連れてこなかったし、出発前には、とは言わなかったのだ、と推量していた。危険極まりない、そんなこと希望する奇特な者なら、既に自ら彼のところに来ていただろう。一応言うだけ言っただけである、シウンは。それよりも、
「例の。」
と言って、声を小さくした。
「他の魔王、魔族との提携の件は?」
使者は、彼に顔を近づけた。臭い息がかかるのを嫌な顔をしないようにシウンはごまかした、ごまかしたつもりだった、さらに小さな声で、
「王太子殿下は、進めよう、話を通してくれないか、とのことでした。」
具体的な指示が来たことで、王太子、彼は体を悪くした父国王に代わり国政を担っていた、油断できない男ではあるものの、国益の第一、将来を見据えることができる男ではある。
「分かりました。ご期待に応えましょう。」
実際、シデンの知恵を借りて、連絡をつけられるところまで来ている。彼にとっても、国にとっても、人間・亜人と魔族にとっても悪くない話である。"あの悪党ならわかってくれる。"シウンは、王太子の顔を思い浮かべながら思った。"問題は、正論や優しいことばかり言う第二王女が問題だ。"
「そんなんだと、魔界に乗りこんだら、即死ぬぞ。主様の足手まといどころか、主様を危険な目にあわせることになるぞ!」
「う、うるさい!もう一度もだ。」
郊外の原っぱの一角で、剣を交えているのは、シデンとスピットだった。
フャイアとハリアもいた。魔王と討伐の旅に出るということで、少しでも実力を高めたいということだった。彼女達も、シデンの実力が自分達より、かなり上であることを認めたからだ、こうして彼女の指導?を受けることにしたのは。ケーナがいないのは、シデンと共に出かけているからである。
“少しは強くなったか?他に何人か追加できれば一番いいのだが…。”
それでも、スピットら4人が、自身の力を、戦力を高めようと本気で取り組んでいることは、シデンも感じてはいた。ただし、どこまで伸びてくれるのやら、と実際は半信半疑ではあったが。
魔王打倒に旅立ちます、とは言っても魔族の脅威にさらされているところからの救済の要請を断るわけにはいかないし、受けた以上は仕事として、きちんと果たさなければならない。こういうことを考えるシウンは、義理堅い、義理堅過ぎるとも見えた。実は、彼なりに、かなり考え抜いた末の行動なのだ。彼は、自分では結構、小狡い、小悪党だと思っているのだ。
彼は、その村の義勇兵と共に、その日も、魔族の兵士達と戦っていた。五人の力のかさ上げのための支援魔法の発動と効果は、しっくりいくようになっていた。
“相性があるのだろうか?それとも、長く続けてもいるうちに…ということかな?どちらだろうか?あの女はどうなのだろう?”
シウンの疑問に答えられるかもしれない人間が、現れた。
賢者、まだ若いけど、と中年だけど古強者と分かる修道士聖騎士と治癒士?が、加わっていた。応募者がなく、シウンの後ろ盾になっている国々、教会が、彼に助力せねばと、選抜し、命令して、派遣してきたのだ、2人は。最後の一人は、頼みこんで、意外に快諾してくれた男だった。
3人は、彼の疑問に回答を与えられる可能性があると、彼は期待していた。
一方、女達というと…。
「あたいは、あいつについていく積もりだよ。」
とスピット。テーブルを囲んで、左右なファイアとハリア、向こう側にケーンが座っていた。
「私も…だけど…。」
「だけど、何?」
ファイアにハリアが、尋ねた。ファイアは困った顔で、
「私達じゃ、足でまとい…いえ、正直言うと怖いのよ。」
「怖い?」
今度は、ケーンだった。
「あいつといた時は、こんなこと思わなかったわ。まだ、魔王討伐の旅に出たわけじゃなかったからかもしれないけど、あの頃は。それに、このまま行ったら、あいつに会うし、あの4人もいるし…。」
あー、何言いたいのよ、わたしー、いう感じで、髪の毛をかきむしるような仕草をした。
「なんか、奴は死なないし、自分も死なない、死ぬのは他の女だ、って思っていたんでしょう?」
「そ、そんな…。」
「いいのよ。私も思っていたから。」
あなた達もそうでしょう?とハリアは、ケーンとスピットの顔を交互に見た。ケーンは小さく頷いたが、スピットは顔をそむけた。それから、あらためて皆の顔を見て、
「多分、シウンは、あの女達がいれば、もっと早く旅立つことになっていたろう。私達が遅らせたんだ。」
「それで、シウンは苦しい立場になったわけね。それを、取り戻してあげようと言うの?」
ハリアが、穏やかにといつめるように尋ねた。スピットは、返す言葉が思いつかなかった。
「いいんじゃない、それで?」
ハリアは、ケリーとファイアの方を見た。
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