第6話 だって、ビッグになる、上を目指すって…
「二年程前に、彼のチームにはいったんだろ?その頃、もう他のチームでは実力が上にいたろう、それだけの実力を持っていたろう?」
お前達の年齢なら、は喉まででかかったが止めた。彼女らは、彼とほぼ同い年だった。
「みんな、私を置いて…。」
「彼はいなくなったから…。」
「捨てられたら私を、彼が拾った…。」
「皆、私を見棄てて逃げて…。」
ベアキャットとの決闘に敗れたり、彼のチームから自分だけ出て行ったとか、強い魔獣との戦いで自分を置いて逃げた…仲間が、恋人が、婚約者が…というものだったが、結局は彼の愛人になったのは、
「おれはビッグになる、上に行く!」
の言葉に酔ったからだったんだな、とシウンは、“仲間や男達は…実は…だったんじゃないのか?”との考えながら思った。
「主様。その4人だが、主様の所に戻ってくるのではないか?」
とシデンが、シウンにとって希望をもたらすことを言った。
「無理だよ。」
「そうよ、完全に堕ちているよ、な。」
「あの人の言葉に、従うしかないわよ。」
「ビックになる、上に行く・・・夢があるものね。」
「彼なら、それができる・・・そんな思いを抱かせてくれる・・・。」
と4人は、夢見る様に言った。
"こいつら、ある意味、未練あり?"シウンとシデンはハーモニーした。
「主様。ベアキャットのチームを追わなかったのか?」
「次の日には、体力と魔力は枯渇していたし、体のいたるところが痛くて動けなかったんだ。翌日も・・・。どこに行ったのかわからなくなった、暫くの間。その後は、・・・恥ずかしい話だが、こちらがあまり動かない方がいい、彼女達が戻るにはと思ったんだ。それに。」
「それに?」
「こいつらの言うように彼女達が堕ちるとは思えないけど、奴隷契約だってあるし、手段はいくらでもあるからな。」
少し目が遠くを見るようになっていた。
「では、どうするのだ、これから?」
シデンは、心配そうに尋ねたが、
「変わらないさ。最後は魔王討伐を目指して頑張るだけだ。」
彼は、淡々と言うばかりだった。
寂しげに言う彼の顔を見ながら、スピットが代表するように、
「あたい達はどうしたらいいんだい?」
他の3人も首を縦に振った。
「ついて来たければ、何時までも私の仲間だよ。」
ため息混じりにもそう言ってしまうシウンに、シデンは大きなため息をついた。
“この屑女達に、主様は食い物にされる…、まあ、そうなったら自業自得だし、…私は所詮奴隷だから…。”
しかし、4人のその後は、シデンの心配を杞憂にさせた。
“主様はすごいな、やはり…、う~ん?”
「冒険者ギルドへの手続き、手伝うわ。」
「買った荷物の半分持つわ。」
「ここは、私が囮になるわ。」
「少しは、料理の腕あがったでしょう?」
といつの間にか、ちゃんとしたパーティーのメンバーとして、きびきびと協力するようになっていた。
そして、シウンに甘えるようになったというか、しおらしくなった。それと同時に、
“角が取れたな?”
と感じられた。何か張り詰めていたというかがなくなったのだ。
「確かに印象が変わったよ。」
シウンが、ギルド事務所で魔獣の有価部分への支払いを待っていると、親しい冒険者が声をかけてきた。
「俺のパーティーではないが、知り合いのパーティーに入ったんだが、数日?一週間だったかな?で飛び出したというか追い出されたそうだ。前からいたメンバー、特に女達から反感を受けて…、らしい。見ただけだが、それを思わせる感じはあったな。まあ、美人だし、実力はあったらしいが。」
スピットのことだった。他の3人も似通った話が聞こえてきた。
他のパーティーの女達と談笑しているファイアの姿を見ながら、“何が?”とシウンは首を捻った。情報集めのためと言っていたが、相手が好感を持たなければ談笑はできるものではないし、彼女の顔は、楽しんで談笑している顔だった。
“彼女らなりに、堕ちた、何とか這い上がろうとあがいていたのかもな?”
ベアキャットの動向を、それとなく聞いて廻ったシオンだったが、中には、
「とられたハーレムが気になるか?」
と露骨な嫌みも言われたが、彼が魔王討伐に向かって出発した、彼のいる場所との距離は広がるばかり、というところだった。
“余程、彼女らを得たことで、自信をもったか?まあ、確かに、彼女達は俺のかさ上げがなくても超一流の冒険者だ…だが、魔王と戦うというなら、もっと…。”
ベアキャットが、他の男女の冒険者をパーティーに追加したという話は聞こえてこなかった。
「私達も、魔王討伐の旅に出ない?」
スピットだった。彼女、そして、彼女の言葉を聞いたファイアら3人も彼女同様、複雑な表情だった。“こいつらとでは、危ないぞ、主様。”“こいつらだと危険すぎる…こいつら、確実に死ぬぞ。”シデンとシウンの実感だった。
とはいえ、魔王討伐には出発しなければならないところまで来ていた。彼は、それを期待されて勇者の認定を受けたわけだし、彼の出身国、国も含む支援者、教会からも、だんだんと、その要請というかが強くなっていた。国や教会の威信はあるし、今後の覇権の問題もある。彼の華々しい活躍を求めているのだ。それは、他の認定された勇者達も同様だった。
「大丈夫。私は死んでも、あなたを先に行かせる。」
「私一人になっても、あなたを支えるから・・・。」
「最初の犠牲になっても構わないわ。」
「あなたのために死んでも恨まないよ、絶対。」
彼女らの表情は真剣だった。
「お前達・・・。」
“使い捨てすれば…。主様は甘いからな…。まあ、私はあいつらを1人でも多く殺せれば、それでいいけど…かな?”
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