第4話 敗北と別れ
シウンは、ベアキャットに真っ向から挑んだ。決して守勢に徹した訳ではなかった。ベアキャットに支援魔法をかけている魔道士の女を、彼女達が倒すことが、まず第1だった。そのためには、ベアキャットの注意を、引きつけておく必要があった。だから押されながらも、押し返そうとし、一矢でも二矢、三矢でも報いようと、剣をふるい、フェイントの魔法攻撃を放ちながら、渾身の魔法攻撃も放った。ひたすら動き、圧倒的な魔法攻撃の威力を何とか受け流し、自分の攻撃は、最大効果を上げるように放った。ベアキャットは、彼を侮っていたのか、防御も攻撃も、威力はあったが、彼から見ると雑だった。
いや、剣筋も魔法の発動、体術全てが自分より雑だと感じた。“彼女達と高め合った自分とは違うのかな?”
だが、実戦での経験の長さ、ベアキャットはシウンより数年年長だった、からくるものが、かさ上げされた力を逆転することを阻止した。彼の剣の、火球の、拳の、蹴りの一撃、一撃がシオンの剣が、鎧が、防御結界が、体が悲鳴をあげて受け止めた。それでも、ぎりぎり何とか受け流し、耐えて、ベアキャットに魔力の集中した一撃を、防御結界、聖鎧の防御をかいくぐり何度か打ち込んだ。その度に何度か押し返した。
だが、結局は絶体絶命の方向に追い込まれていった。
サイウン達が、スピット達を一蹴し、支援魔法の魔道士に向かっていた。が、もう一人いた女の張る防御結界をなかなか破れないでいた。彼女達4人がかりでも、容易に破壊できなかったのだ。焦ったレイカンが、ファイア達に、剣を向けてベアキャットに降伏を求めた。彼は、全く意に介することなく、
「卑怯者。これは、勇者同士の一対一の勝負だ。黙っていろ!」
と、まるで正々堂々の果たし合いのようなことをほざいた。
レイカンも、それでたじろぐことはなかった。
「決闘なんか、受け入れていないわ!あなたが、一方的に襲ってきただけじゃないの!」
しかし、彼は、
「そんな女達など好きなようにして構わんよ。」
とほざいた。それは、本気だと5人は感じた。
ようやく、防御結界にヒビが入った時、シウンは、剣を32合目合わせたところであった。既にボロボロで、勝負は明らかにするだった。満身創痍という状態だった。それでも、倒れず、何とかベアキャットの攻撃を受け止めていた。
「シウン!」
「今、行くから!」
「死なせはしないわ!」
「待っていて!」
彼女達は戦う気満々だった。彼女達は、ベアキャットが彼との戦いでかなりの打撃、ダメージを受けていると判断した。シウンも、そう判断した。ベアキャットも気づいていないダメージを与えていると・・・直前まで。だが、
「だめだ!お前達では勝てない!わかった、俺の負けだ。」
「え?」
「こいつは、もう半ば回復している、傷も半ばが治癒済だ!」
「え?」
シウンにはわかった。それがわかる能力もあったし、回復、治癒魔法も使えるだけに、その能力が反応しやすかったからだ。完全ではないが、彼女達4人を圧倒するだけの力が回復していた、支援魔法でかさ上げされた力が。
「約束どおり彼女らは貰っていくからな。恨みっこなしだ。」
あざ笑うベアキャットに、
「そんな約束はした覚えがないが、負けたのは俺だよ。」
サイウン達は、がっくりと膝を落とした。
「仕方ないな、そこにいる女達を代わりやろう。お前にはちょうどいいだろう。フェアだと思うなよ、俺の譲歩だよ、大幅な。感謝したまえ。」
彼は笑いながら言った。
「ヤドカリの貝交換かい?断るよ。君を愛しくついて来ている女達を連れて帰ってくれ。俺が敗れた屈辱を与えたという名誉を持って。」
ヤドカリは、自分より大きな貝に入った、より小さい相手から力尽くでその貝を奪うことがある。置いていった貝を、奪われた側が使うことから、結果として、とられた方もちょうどいい大きさのものを得られる場合もあり、一方的な強奪ではない、相互利益もあると強調する博愛主義者?がいるが、大きな個体が一方的に行うものであり、強者の強奪にすぎないのである。
シウンは苦しそうな声で言った。
「敗者には、権利などないよ。」
大きな火球の一撃。それを受けても、なんとか倒れなかったシウンに、瞬時に傍に立ち一撃の蹴り、一撃だけの蹴りに見えたが、実際には違うとシウンにはわかつわた、で飛ばし、彼を大地に仰向けに倒した。
「シウン!」
4人の悲痛な声、いや8人の悲痛な声を聴きながら、4人の悲痛の声は別の言葉だったが、半ば気を失っていた、シウン。
「それで、主様とこの4人はどうしたのだ?」
シデンの問いに、
「たおれている俺を、4人がかりで罵りながら足蹴にして…スピットに至っては、斧を振り下ろしたよ。」
さすがに、腹立たしい過去、行為だという顔だった、シウンは。
「それで良く無事だったな?」
「まあ、勇者だからな。しかし、危なかったよ。」
「で、その後は?」
「スピットを振り飛ばして、皆を黙らせて・・・、とにかくこいつらを宿に連れてゆき、飯を食わせて、部屋をとって、勿論別室だ・・・それから治癒魔法もかけてやった。そして、翌日、朝食後、衆人環視の中、お前の女じゃないんだよ、と言って出ていった、こいつらは。あ、もちろん、宿代も朝食代も、いや、夕食代も払わずにだ。」
「それでこいつらはどうするんだ、主殿?」
「仕方がないから、しばらく一緒にいるさ。聞き出したいこともあるしな。」
シデンは、また大きなため息をついて、
「主様は、人が好過ぎる、本当に」
その言葉に、ようやくスピット達が反論?し始めた。
「あの女達、すっかり堕ちているよ。」
「あたしらを愛人にできると思わないでね。」
「まあ、可愛がってあげるけどさ。」
「貸し借りなしでということで。」
シデンが腹立たしいというより、愚かな者に教えてやるという顔で、
「おい、お前達、主様のすごさがわかっていないようだな。」
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