四日目 秘密の地下倉庫にて 中編
「どうしましたか、こんな所で」
「食事前のお散歩……ですか?」
「随分と手が早いのですね」
「好奇心旺盛……と言えばいいのでしょうか」
「しかしどうして……人は秘密を暴きたがるのか……」
「いえ……解りますよ」
「鼻腔をくすぐる蜜の様に……胃袋に落ち、下腹を刺激する様な……」
「そこに存在するのならば……吸わずにはいられない」
「まるで蛆虫の如くに群がり…………おっと」
「ごめんなさい。アナタの事を虫に例えるだなんて……今のは忘れてください」
「さて……アナタは」
「地下で」
「一体」
「何を」
「見たのですか?」
「いくつも並んだ、未だ血が滴り落ちる拷問器具?」
「それとも、アナタに印が付けられた書類の方でしょうか」
「拷問器具の方は前の管理者の所有物」
「残虐な管理者は街の人間を連れ去って、己の嗜虐心を満たす為に拷問を繰り返していた」
「滴る、まだ新しい血液に関しては……そうですね」
「見間違い」
「暗い地下倉庫ですから」
「血の赤の純度も、質感さえも、誤認する事があるでしょう」
「そう考えた方が、楽、ではありませんか?」
「アナタの事を歓迎し、もてなす、都合の良いシスターを幻視している方が」
「ただ優しく無害な私を、アナタの脳に、記憶として」
「ただ刻み込んでおく方が……」
「震えて……うふふっ」
「可愛らしい」
「それとも気になるのは……書類の方でしょうか?」
「アナタの身長、体重、血液型」
「出身地」
「好きな食べ物」
「嫌いな食べ物」
「性癖に好みのタイプ」
「旅の道程」
「次の目的地」
「アナタが通る筈だった街道」
「すぅ…………はぁ…………」
「本当に……永かった」
「遠い街で一目見た時から……アナタの存在に夢中でした」
「アナタの首筋に流れる真っ赤な血液」
「その柔らかい肌の上からでも分かりますよ……ああ、そこにある……求めていたモノが……確かに……」
「ええ……もうお察しでしょう……?」
「私は血を吸う鬼……」
「アナタという存在を心の底から愛した…………愛してしまった」
「――――吸血鬼です」
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