三日目 共同生活にて 後編

「今日はお疲れ様でした」


「とても助かりましたよ」


「これも全てアナタのおかげです」


「何かお礼を……と考えていたのですが」


「申し訳ございません。このような事しか思いつかなくて……」


「どうぞこちらへいらしてくださいませ」


「私の膝の上に頭を……ふふ、少しくすぐったいですね」


「お礼というのは、耳かきです」


「どうして耳かきなのか……ですか?」


「本当はマッサージをして差し上げたかったのですが……どうも心得が無くて……」


「耳かきでしたら心得がありましたので」


「まずは右耳をこちらへ……はい、それでは入れていきますね」


「痛かったら言ってください」


「…………」


「……耳かきを、誰にしたのか……ですか?」


「孤児院の子供達ですよ。昔、教会の活動で何度か孤児院の方へ厄介になっていたのです」


「その時に……おや、どうしました?」


「安心した……? それはどういう……」


「あぁ……なるほど」


「ご安心ください」


「私に夫はいませんし、同性を含め、お付き合いをした方などいませんので」


「この身は未だ、清いままでございます」


「安心……しましたか?」


「うふふ……お可愛いこと」


「カリ……カリ……気持ち良いですね」


「このまま寝てしまっても構いませんよ」


「……………………ふふ」


「ふぅー」


「うふふ、ごめんなさい。驚かせてしまいましたね」


「身体がビクビクって……」


「驚いてしまいましたか……? それとも……気持ち良かったですか……?」


「気持ち良かったのですね。良かった」


「右耳はここまでです。あまり長くしても痛めるだけですから」


「左耳を……んっしょ……」


「目が蕩けていますよ……眠いですね」


「たくさん動いてくださいましたもの……ね?」


「カリ……カリ……」


「よく手入れされていて綺麗ですね。几帳面で、良いと思います」


「やり過ぎもいけませんが」


「やらな過ぎも不衛生でいけませんから」


「お耳の裏側も……揉んでいきますね……」


「今度はアロマオイルを用意しておきます」


「精神が落ち着いて、今よりも更にリラックスが出来るようになりますよ」


「色んな香りを用意して、マッサージの方も習いたいです」


「そしてアナタをたくさん……癒したいのです」


「そう……今度……」


「また…………今度にでも…………」


「……明日も……教会で過ごしてみませんか?」


「ご迷惑だとは思っています。もう、アナタに手伝っていただく事もありません」


「ですがどうか……私はまだ、アナタといたいのです」


「……!」


「本当ですか!?」


「……嬉しい」


「…………ふぅ」


「…………ちゅ」


「耳に何か当たりましたか……?」


「ふふ、気のせいですよ」


「お休みなさい。今日もゆっくり……休まれてくださいまし」

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