二日目 恩返しにて 後編

「失礼……いたします」


「そんなに慌てなくても良いではありませんか」


「今日はたくさん手伝って貰いましたから。どうかお背中だけでも流させてください」


「さっ、早く座ってくださいまし。たっくさん、癒して差し上げますから」


「泡を出して……ふふ、もこもこですね?」


「んっ……しょ……」


「気持ち良いですか?」


「……ふぅ……んっ……」


「旅の疲れを……癒してくださいね」


「流石、旅をしているだけはありますね。逞しいお背中です」


「照れなくても良いではないですか」


「私は永い間、この教会に務めていますから。外へ出る機会なんて隣街への買い出し程度ですもの」


「目的は存じませんが……とても、羨ましく思います」


「ずっと……独りで……ここに……」


「……んっ……あっ」


「コレも……恥ずかしいですか?」


「慌ててばかり……本当に……可愛らしい」


「どうか少しばかり……この温もりを……感じさせてくださいまし……」


「…………」


「すぅ…………はぁ…………」


「ごめんなさい。こんなはしたない格好で……こんな……」


「そんな事ない? 綺麗だよっ……てっ……!?」


「も、もう……からかわないで下さいまし! そんな心にも無い事を……」


「……本当に……綺麗……でしょうか?」


「……っ」


「嬉しい」


「嬉しいです。ええ、とても」


「でしたらもう少し……このままでいてもよろしいでしょうか……?」


「お優しいのですね。こんな私に、身体を許してくださるなんて」


「……温かい」


「心臓の音が重なって」


「体温を共有して」


「息も」


「荒くなっていくのが分かりますね」


「このまま血液が沸騰してしまいそう……」


「……そう、思いませんか?」


「……………………」


「…………ハァ」


「ここまでに……しておきましょうか」


「これ以上は……歯止めが効かなくなってしまいそうですから」


「少し、寂しかったのかも知れません。人とここまで長く接するのは久方振りでしたので」


「……流しますね。熱くはないと思いますが」


「丁度良いですか? ふふっ、目を細めて……気持ち良さそう……」


「湯船にゆっくり浸かってください」


「先に上がって夕飯の支度をしてまいりますので」


「えっ……? 明日も何か手伝える事はないか……って」


「た、旅は良いのですか? これ以上手伝っていただく訳には」


「一宿一飯の恩だなんて……お世話になっているのはこちらの方です」


「それでも……良いのですか? 私の為……?」


「…………」


「か、顔を……見ないでくださいまし」


「その……アナタが恥ずかしがる理由が、分かった様な気がします」


「ええ……ええ、それではまた明日もお願いいたします」


「今日はどうか、疲れを癒してください……ね?」

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