突然と親友①

「避けるだけではつらまないだろう!もっと正面からぶつかってこい!」


鎧騎士の大剣が地面を砕き、空気を揺るがす。

大きく後方へ飛んでなんとか距離を取るも、休ませる暇を与えないように、フォリアさんともう一人の魔法使いが私に向けて攻撃を開始する。


「やられた借りは絶対に返す!」


「あなたから攻撃してきたんでしょ!」


フォリアさんの切り下ろしをなんとか避け、魔法使いが放ってきた炎魔法第4級の『炎生矢』をこちらも同じ『炎生矢』で迎撃する。

正直、かなり厳しいかな。

一番の問題は、あの鎧騎士。

他の3名とはまるで格が違う。

大雑把に見える剣筋は、味方の攻撃から意識を削ぐためだろう。

しかも、攻撃していない時は、いつでも他の味方の援護に行けるように立ち回っている。


「『燃えろ』」


「やばっ!」


私の足元に赤の魔法陣が発生したので、急いで緊急離脱を試みる。

次の瞬間、魔法陣から火柱が吹き出した。

この距離で肌を焼く魔法——炎属性第2級『盛均陣火』だろう。

第2級の魔法をこうも簡単に操るなんて。

第3級までの魔法なら、ほとんどの人が使えるが、第2級以上はセンスと魔力量によっては使えず、練度が足りなければ実戦で使うことはほぼできない。

この魔法使いも、相当な腕前!


「隙ありっ!」


「声に出したら意味なくなるよ——うわっ!」


足が凍りついて……動けない!

驚いた私を見た鎧騎士が仮面の下で笑った気がした。

まさかこの鎧騎士……この重装備で魔法剣士なのか?


「終わりだ!」


大剣が振り下ろされ、私の体を両断……なんてさせないよっ!


「せいやっ!」


「ごぶっ!」


私の全力身体強化もりもりの拳をその身に受け、鎧騎士が気絶して地面に倒れる。

その隙に、私は足を解凍し、驚いて動かなくなっているフォリアさんに向けて雷属性第5級の『雷球』を連射する。


「があっ!」


無防備な長身に幾つもの『雷球』が直撃し、フォリアさんは仰向けで倒れた。

後は後衛の2人だけ!

これなら勝て——

(残っているのは3人だ。最後まで気は抜かないように)

え?リーア母さん!?

距離を詰めようとした私は一度足を止め、周囲を見渡した。

気配は無い……いや、無さすぎる。

私は躊躇なく、回復魔法を発動していて動けない回復僧侶に向け、土属性第3級『岩影随破』を発動。

私の周囲に4発のもの宙を飛ぶ巨大な岩石が発生し、僧侶に向けて飛んでいく。


「やっぱり。隠れるのが上手な子がいたんだ。教えてくれたリーア母さんには感謝しなくちゃね」


「気がつかれておったか。まぁいい。多少の時間稼ぎにはなっただろうからの」


巨大な岩石は、どこからともなく現れた大盾によって防がれた。

大盾を持っていたのは、身長はかなり小さな仮面の女の子だった。

……種族はドワーフかな?

ドワーフは珍しくはないが、それにしてもこの子はかなり幼いな。

喋り方は随分と年寄りだけど。


「痛てて……さっきは、随分と派手に殴ってくれたなぁ。嬢ちゃん」


「すみません。余所見をして敵の攻撃を食らってしまうとは不覚でした」


回復が間に合っちゃったかー。

またあの鎧騎士を相手にするのは面倒だな。

フォリアさんも鎧騎士ほどではないけど厄介だし、あの盾持ちドワーフも底がしれない。

一気に勝負を決めたほうが早いかなぁ。


「さぁ、第二勝負と行こうか!」


「『穿て』」


「参る!」


鎧騎士が光属性第5級『光球』を乱射しながら私に突撃を開始、続けてフォリアさんも。

中でも私を驚かせたのは、魔法使いが放った魔法、水属性第1級『全底面桜』だ。

先ほど、回復僧侶を守るそぶりを見せなかったのは、この魔法を紡いでいたから!?

街一つなら簡単に飲み込んでしまうほどの荒波が私に向けて放水される。

その勢いは地面を抉り、大木を薙ぎ倒すほど。

私が放った氷属性第3級『氷層旋回』によって発射された無数の氷柱も、全て等しく無に返されていく。



「ふんっ!」


激流で背中を押され、加速した鎧騎士の大剣が私の魔法障壁と激突する。

尋常ではないほど重い一撃が私の魔法障壁を軋ませる。


「……ねぇ。本気で私を殺すつもりなの?」


「あぁ。あんたは一回痛い目に遭わないと、俺たちの言うことを聞いてくれ無さそうだしな」


「私が死んだら元も子もないんじゃない?」


「それは安心しろ。もし仮に死んでも、俺たちの聖女様が復活させてくれるからな」


激流で足場はすでに浸水し、足に踏ん張るための力が入りにくい。

しかも正面はこの鎧騎士の剣を受け止めるので精一杯。


「『打て』」


魔法使いが、ここぞとばかりに光属性第3級の『陽浪渓務』を発動。

夜空から光の光線が私に降り注ぎ、ついに私の魔法障壁が押し負けて砕けた。


「きゃっ!」


「今だ!」


鎧騎士が私を地面に押し倒し、地面から黒い蔦が生えて私を拘束した。


「感謝します!」


フォリアさんが鎧騎士と闇の蔦で地面に押さえつけられた私に剣の矛先を向け、最後の突撃を開始。


「来ないでっ!」


「甘いの。若造よ」


闇の蔦を強引に地面ごと引き抜き、私を地面に押し倒す鎧騎士との拮抗勝負の中で放った水属性第4級の『清栄矢』はドワーフの少女の盾によって防がれる。

これは……私の負けかな。


「これで終わりだっ!」


月夜に飛び上がったフォリアさんの姿が目に映る。

そして、そのまま落下して私の首に刃が刺さり——刀身が砕け散った。


『私の可愛い娘に、何か用でもあるのかい?』


私の上に着地するはずだったフォリアさんが、私を押さえつけていた鎧騎士を巻き込んで地面を転がる。

さらに、広範囲に闇属性第1級『解淵望王』が適用され、声の主と私を除く全ての生命が強制的に地に膝をつく。

いつ見ても物凄い魔法技術だ。

そして私は、これほどまでに熟達した魔法使いを1人しか知らない。


「リーア母さん!」


『大丈夫かい、ファリア。怪我はない?』


ゆっくりと起き上がると、私の肩に小さな妖精が乗った。

……結局来るのなら、最初からリーア母さんが全部やってくれたらよかったのに。

心の底で愚痴をこぼすが、そんなことを言えば私も地面に這いつくばることになりそうだからやめておく。


『さて。おい、そこの大男。お前には魔法が適用されないようだが、いつまでそうしているつもりだ?』


「おっと、バレていたか」


「嘘……でしょ?」


他の4名は今も地面に膝をつける、もしくは倒れ伏して動けなくなっている。

だが……だがこの鎧騎士は、平気な顔でリーア母さんの魔法を跳ね除けている!?

鎧騎士は体についた土を払うと、わざと手から離した大剣を拾った。


『チッ……今も昔も随分と厄介な鎧だね』


「おいおい。この鎧のことを知っているのか?この鎧の効果を知っている奴は、王都にも魔族にもそんなにいないぞ?」


『悪いね。長生きすると、それだけで知識っていうものは増えるものなのさ』


鎧騎士は本当に驚いているみたいだ。

それでも、決して警戒は解いていない。

いつでも私を斬ることができる間合いを常に維持している。


「それにしても、あんたみたいな妖精は知らないな。少し前の妖精王の会議に出席していないのか?」


『私は精霊会議が免除されているのさ。私はそんな面倒事に足を運ぶ暇はない。娘を育てることに精一杯だからね』


「血の繋がっていない娘がそんなに大切か?」


『血が繋がっているかじゃない。私がこの子を家族と思うか思わないか。それだけさ』


リーア母さんの指先に魔力が集積していく。

これは……リーア母さんの十八番である、闇炎複合魔法『淵草残魂』だろう。

初対面の人間に放つなんて、さっきの発言がよほど気に障ったらしい。

……いやいや、考え事をしている場合じゃない。

早く止めないと、この人たちが死んでしまう!

この魔法はまともに正面から受けられるものではないし、ただでさえ今は『解淵望王』が適用されているのだ。

この鎧騎士は避けることができても、他の人達は動けない。


「リーア母さん!」


『私の娘に手を出した罪は重いぞ?『勇者一行』そして『次期王女様』——娘の想いに深く感謝するんだよ』


リーア母さんの指先から放たれた漆黒の煉獄が鎧騎士も魔法使いも僧侶もドワーフもフォリアさんも大地も薙ぎ倒された木々も砕けた岩も音も光も彼らの仮面も——私の目に映っていた全てを吹き飛ばした。







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