鉱石採取と親友③

『で?私とブルーオーガを見間違え、挙げ句の果てに鉱山を崩し、何故かこの辺りでは手に入らない紫水晶を手にし、全身を土埃で汚して命からがら倒壊から逃げてきたと?』


「……はい。間違っている点はございません」


正直に一部始終を話した私を、リーア母さんは許してくれる……はずがなかった。

たった今、私は硬い床に座らされている。

全身砂埃で汚れてるし、早くお風呂に入りたいな。

早く説教が終わってくれないかなぁ。


『もしもーし。お話を聞いてますか?』


「は、はい!勿論でございまする!」


『語尾が無茶苦茶。一体どこでそんな言葉を覚えてきたんだ』


「今現在、私の目の前を飛ぶ自称邪妖精様が申しておりました」


『これ以上ふざけると……【撃つよ】?』


あ……これは本気でヤバい。

次やらかすと、本当に命の補償がない。

リーア母さんの指先に赤黒い炎と闇の球体が浮かんでいる。

リーア母さんお手製の炎魔法と闇魔法を合成した複合魔法1級の【淵華残魂】をまともに受ければ明日の太陽の光を浴びることはできないだろう。

とりあえず頭を床に擦り付けて許しを乞う。

今の私にはそれしかできない。

ため息と共に、周囲一体を簡単に吹き飛ばしかねない魔力の塊が消失するのが肌で分かった。


『使った魔法は?』


「氷属性3級の『氷層旋回』です」


『なんで、そんな危ないものを放ったの?』


「後ろに立っていたブルーゴブリンに気がつかず、いつのまにか背後を取られており、咄嗟の判断で5級程度の魔法なら大丈夫だと……」


私が頭を床に擦り付けていた場所よりも、ほんの少しだけ横の床ぎ跡形もなく吹き飛び、穴を開ける。

おそらく、1級魔法に限りなく近い魔力の塊が私の横を通ったようだ。

冷や汗が私の背中を逃げるように流れていく。


『言い訳は聞いていない。なぜ魔法を使ったのかと聞いているのだ』


リーア母さんの目が赤く光った……ような気がした。

怖い!怖すぎて今すぐに失神しそう!

いつもより私に向ける殺意が高くないですか!?

……負けるのか?

私は今朝のように、また目の前で悠然と飛ぶ魔王……もとい邪妖精に負けてしまうのか?

リーア母さんは強い。

そこら辺の魔物が束になっても対処できないだろう。

だからって……私が諦めていい理由にはならない。

そうだよ。

諦めちゃ駄目なんだよ。

相手がどんなに強くても……自分がどんなに打ちのめされてもそれは変わらない。

何か……何かこの状況を打破できるものはないのか……?

私が勝てる……唯一の方法が存在するはずっ!


――――――――――――――――――――――


「私の不始末です。大変申し訳ありませんでした」


気がつけば、私は邪妖精様に再び頭を下げていた。

……勝てなかった。

やっぱり……勝てなかったよ。

すごく怖かったよ。

とても辛いよ。

神様、どうかお慈悲を私にお恵みください。


『はぁ……分かればいいよ。今日はこの紫水晶に免じて許してあげよう。とりあえず、まずはご飯にしようか』


私の祈りが通じたのか、驚くことにリーア母さんはため息一つで許してくれた。

緊張が解け、私のお腹が大きな音を立てた。

私が帰ってきた時は夕焼けに染まっていた窓の外は、気がつけばすぐ先も見えないほど暗くなっている。

……陽が落ちるのも早くなったなぁ。

なんか……しみじみとするな。


「私も歳ついに年を感じる年齢になったか……」


『突然何を言い出すと思えば……ファリアなんて、世界からすればまだまだ若造だ。もっと経験を積んでから、その言葉を口にするんだね』


リーア母さんが風魔法をうまく使い、テーブルに出来立ての料理を並べていく。

私に説教してる間に料理も作ってたとか化け物かよ。

私のお腹が再び音を立てた。


「本当にお腹すいた……あれ?」


ようやく食事にありつけると思った途端、私はテーブルの上に置いてある食器に違和感を感じた。


「リーア母さん。今日はお客さんでも来るの?」


テーブルの上にはナイフとフォーク、スプーンが二つ置いてある。

大きさは私の扱うものと同じ。

妖精のリーア母さんが使うには大きすぎる。


『あぁ。そう言えば言ってなかったね。ファリアにお客さんが来るよ。私は姿を隠しておくから、相手は任せた』


リーア母さんが姿を隠さないといけない私のお客さん?

そんな人は知らない。

いや、人かどうか分からないけど。

心当たりがないか考えていると、呼び鈴が鳴った。


「すみませーん。どなたかいらっしゃいませんか?」


「はーい!すぐに出まーす」


……女の人の声だったな。

女の子の親友はいるけれど、こんなに高い声ではなかったはず。


「あけますよー」


扉を開けると、そこに立っていたのは、若干の金色が混ざった髪色をしたすらっとした長身の女性だった。

……私よりも少し背が高い。


「あ、あの!ファリア・デイゲールさん、であっていますか?」


「は、はい。私がファリアですけれど……何か御用ですか?」


私が問いかけると、人間の女性は勢いよく頭を下げた。


「突然の来訪を申し訳ありません。私は王都でシャルちゃ……シャルマ・ニルフェット様と仲良くさせていただいています。フォリアと申します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る