鉱石採取と親友②

鉱山の中は広く、そして冷たい。

5つの『光球』によって、私の周りは明るく照らされているが、それでも地上の明るさとは比べものにならない。

足元に落ちていた黒っぽい石を持ち上げるが、ただの効果の一つもない石だったので、力任せに投げる。


「何か良いものでも落ちてないかな〜」


自分で言っておいて思ったのだが、良いものってなんだろうか?

魔石の原材料である魔鉄石は、この程度の鉱山に埋まっているはずはない。

たまに蒼水晶のかけらが埋まっている、もしくは地面に落ちているくらいだ。

今回の私の鉱山採取の目的が蒼水晶なので、それはそれでありがたいことなのだが。


「ラッキー!誰にも取られていない、結構いいのがありましたなぁ、旦那」


かなり大きい蒼水晶が壁に埋まっていたので、壊さないようにそっと、蒼水晶の周囲の壁に持参の小さなツルハシを振り下ろしていく。

想像通りの大きさの蒼水晶が取れたところで後ろを振り返るが、魔物も妖精も旦那の一人も一匹もいない。

私とすれ違うのは、吹き抜けていく涼しい風くらいだ。

蒼水晶をリーア母さんから受け取った重さを感じなくなる魔法がかけられた袋に入れる。

これで、目標の量は達成できそうだ。

私は一つ、大きな伸びと欠伸をする。


「これだけあれば十分だし、そろそろ帰ろうか——な?」


立ち上がった瞬間に、それは私の目に映った。

何かが……暗闇の中で何かが光ったような気がしたのだ。

『光球』を一つ、暗黒に飛ばしてみる。


「嘘でしょ……」


私は一点を見つめて絶句した。

それは、普通ならこんな浅瀬にあるはずのないもの。

市場には滅多に出回らず、なのにさまざまな道具を作るのに必要。

人々からは鉱石の女王様と呼ばれる存在。

名前は見た目のままに『紫水晶』

鮮やかな紫色で周囲を魅惑するそれを見た私は、すでに目が離せなくなっていた。


「欲しい……」


私の感情はブレーキを捨てた。

全速力で暗闇を駆け抜けて、紫水晶の御前にひれ伏した。

……まずは、少し触ってみる。


「綺礼……まるで吸い込まれてしまいそう」


うぅ……あまりの美しさに、私の両腕と両足に鳥肌が立ち、身震いする。

流石は鉱石の女王様。

私程度の平民が触れていいものではないのか?


「とりあえず……採取しようかな」


ここで恐れてはいけない。

相手は水晶。

人間でも魔物でもない。

決して襲いかかってくることはないのだ。

なら、今の私が負ける相手ではない!

ツルハシをそっと、紫水晶の周囲の壁に打ち付ける。

周囲の壁に小さくヒビが入った。

背中を軽くつつかれた。

うん……ちょっと今集中してるから待って。

もう一度、集中してツルハシをぶつける。

さっきよりも大きくヒビが入った。

……もう少し待って。あと、つつかれると集中が途切れるから邪魔しないで。

丁寧に、尚且つ迅速に採取を進める。

少しでも手が滑って紫水晶が傷つけば、値段は一気に暴落するし、道具の性能も悪くなる。

ならば、この機を逃すわけにはいかない。

細かく調整をし、様々な魔法を使って丁寧に岩肌から削っていく。

何十分、下手したら何時間が経った。


「取れたぁぁぁぁ!!!!」


大きな紫水晶が採取できた。

そして、背中をまたまたつつかれた。

喜びのあまり、ハイタッチをしようと後ろを振り返る直前で、私は違和感に気がついた。

……あれ?

私って、今日一人でここに来てるよね?

じゃあ……さっきから背中を突いてるのは誰?


「あの……どちら様でしょうか……」


恐る恐る後ろを振り返る……寸前で青黒い足が私の視界の隅に映った。

あぁ……やっぱり魔物かぁ。

心の奥底でリーア母さんなんじゃないか、なんて思ってた私が馬鹿馬鹿しい。

背後からいきなり攻撃してこなかっただけマシだけど。

もう一度、後ろの相手に気取られないように少しだけ振り返ってみる。

青く痩せ細った足が見えた。

ここら辺の魔物の体の色は、共通して青色。

理由は分からないけど、土壌の成分が他と違うんじゃないかって言われてる。

この辺りに様々な魔物はいるけれど、今回の相手はどうやらブルーゴブリンのようだ。

なら、私が負けることは無——いや、あるわ。


『ファリアの超威力の魔法が当たったら、一瞬で鉱山が崩れる。だから逃げろと言ってるんだ』


出発前に嫌というほど見たリーア母さんの笑顔が脳内を駆け巡る。

しかも、身体強化魔法も使っちゃダメ。

……私はお世辞にも足が速いとは言えない。

戦闘時は常に身体強化してるから、格上とも戦えてたけれど……魔法が使えない私は普通の可愛らしい少女。

ゴブリン相手に勝てるはずがない。

……ちょっとくらい魔法を使っても、この距離ならリーア母さんにはバレないかな?

ここから私の家までかなり距離はある。

さらに、上位の第1級や2級の魔法を使うのではなく、最弱の5級なら、他の人も使うだろうから、リーア母さんに感知される心配は無い。

ふふふ……あーはっはっは!

私の完璧な計画ここにあり!

あとは魔法をゴブリンの頭に当てるだけ。

心の中でカウントダウンを始める。

3……2……1……0!

私は勢いよく振り返った。


「……え?」


そこには、体格がゴブリンの3倍も4倍もあり、山のような筋肉を備えた青色のオーガがいた。


「いや、オーガの足小さすぎでしょ!!」


後ろにいた魔物が想像していたよりも大きかったので、私はついうっかり……本当にうっかり魔法のランクを2つほど上げてしまった。

氷魔法第3級『氷層旋回』

数百の拳大ほどの氷塊がブルーオーガの筋肉に打ち込まれた。


「あはは……つい手が滑ってしもうた」


もはや何がいたのか分からないほどの肉塊に変化したブルーオーガを見て、私はそっとつぶやいた。


「第3級の魔法なんて、ここいらの魔物には勿体なかったな」


減った魔力は休んで補給すればいいのだが、こう思ってしまう私は少し貧乏くさい。

何はともあれ、今日は帰りますか。

私が紫水晶を袋に入れたその時だった。


「わわっと!」


危うく紫水晶を落としそうになるほどの大きさの揺れが私を襲った。








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