1章

鉱石採取と親友①

「うぅ……」


眩しい。

朝日が眩しい。

昨晩はしっかりカーテンを閉めてから寝たはずなのに……。


『ほら、朝だよ』


う〜ん、あと5分だけ。

願わくばこのままずっと寝ていたい。

私は……この布団と……ずっと一緒に……


『何をふざけた事を言ってるんだ。今日は楽しみにしていた鉱石採取に行くんじゃないのかい?』


こうせき……さいしゅ……!

その一言で目が完全に覚めた私——ファリア・デイゲールは、勢いよくベットから飛び出した。


「そうだ!今日は鉱石採取の日だ!」


『そう何度も言っているだろう。早くいかないと日が暮れるよ?』


 私を起こしてくれた自称邪妖精であり、私の第二の母親であるリーア母さんが、その小さな首を左右に振ってため息を吐いた。

朝ごはんとして用意されていたトーストを美味しくいただき、冷たい水で顔を洗って歯を磨く。

 私の悪い寝相の影響を見事に受けた毛先をブラシで整え、リーア母さんが用意してくれた服装に着替えて準備完了。

玄関で履き慣れた靴の紐を、改めて縛り直しておく。


『採取したものはどこに入れて持って帰るんだい?まさか、手で持って帰るとか言わないでね』


……しまった。

その事をすっかり忘れていた。

準備が早いリーア母さんから、重さを感じなくなる魔法が込められた袋と二度目のため息を受け取る。


『魔物が出たらすぐに逃げるんだよ』


「大丈夫だって。そんなに危険な鉱山ではないし、そこまで奥まで入ることはないよ」


『誰もあんたの心配なんてしてないよ。じゃあ聞くけど、そこら辺の弱い魔物にあんたの魔法を打ち込んだら貫通するだろ?』


「するね」


『鉱山の中で貫通した魔法はどこに当たる?』


『壁?』


『ファリアの超威力の魔法が当たったら、一瞬で鉱山が崩れる。だから逃げろと言ってるんだ』


一理あるから何も言い返せない。

というか、私は既に一度鉱山を壊してますから。

あそこは廃鉱で、近くに何もなかったから良かったけど、今日は話が違う。

わざわざ隣町にある鉱山ギルドに出向いて、まだ使われてない鉱山を一つ譲ってもらったのだ!

なので、付近の鉱山では働いている人がいる。

一つの鉱山が崩れた余波で、別の鉱山も崩れてしまったら、私は鉱山ギルドから敵視されてしまう。

 

 「で、でも!身体強化魔法なら……どう……か……?」


あ……これはやばいかも。

悪魔が笑っている。

リーア母さんが……この世のものとは思えない顔で笑っている!

このままでは、私の鉱山計画が台無しになる可能性もゼロではない。

なにかこの状況を打破できるものはないのか!

周囲を見渡した私は、あることに気がついた。

まさか……あの手を使うしかないのか……!

しかし、あの技は極力使いたくない。

打てばこの場を確実に切り抜けられる自信はあるが、私のプライド&根性が失われてしまう!

鉱山採取とプライド根性が、私の中の天秤にかけられる。

わずか3秒ほどで、天秤は一方に大きく傾いた。


「大人しく逃げます。なので今回は鉱山に行かせてください」


『分かればよろしい』


……負けた

私は体を直角に折り曲げ、妖精の見た目をした悪魔に全身全霊の謝罪をすることを選択した。

これしか方法はなかったんだ……。

まさか、玄関に何もなかったなんて。

すまない!私のプライド根性!

この採取が成功するのなら、多少の犠牲は仕方ないんだ!


「行ってきますっ!」


『気をつけて行ってきな』


私は一度も振り返らずに家を飛び出した。


           *

身体強化の魔法を自分に付与し、全速力で目的の鉱山へと走ったおかげで、予定通りの昼前に鉱山に辿り着いた。

思ったより大きいなぁ。

遠くから見た限りだと、いつも行っているような鉱山ほどの大きさだと思っていたけれど、今回はその倍近くある。

上は鉱山ではなく、ただの岩山だと鉱山ギルドの人は言っていたけど、あれ崩れたりしないのかな?

まぁ、今回の採取には全く関係ないけどね。

 

「うわぁ……」


山の麓にある鉱山の入り口に立った私は、感情が高揚していくのが自分でもわかった。

未知の世界への入り口。

ここから先は、前も後ろも未来も見えない深淵。

どこから入って、入り口から出てくるひんやりとした風は、私を受け入れてくれているのだろうか?

それとも拒んでいる?


「とりあえず、行ってみますか!」

 

早く鉱山に入りたい気持ちが先行してしまった。

光魔法の中でも最弱の5級の魔法『光球』を詠唱無しで連続発動する。

小さく、それでも周囲を照らす光の球が5つ、私の手から浮かび上がったのを確認すると、私は鉱山へと足を踏み入れた。



 

 


 

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