第152話 状態異常解除

イーデンが立ち止った。アンデット化を解くとはすなわち、魂の破壊。あえて表情は見なかった。プライドが高いイーデンのことだ。動揺は見られたくはない。


「叔父上。歩みを止めないよう。皆が不審がる」


イーデンが歩き始めた。弱い自分は見せられない。ほっとした。


「叔父上がアンデット化すればその魔法を解くとわたしは約束しました。しかし、それは、魂の救済にはならない」


「殿下」


イーデンが初めて口を開いた。


「お願い致す。それでも私を止めてくれ」


イーデンは魂の救済を求めていたはずだ。魔法が解かれたら魂はしかばねから解き放たれる。天に旅立つのだ。


しかし、それを諦めたようだ。誰も責められない、全て自分の弱さのせい、とイーデンなら考えているはず。


「叔父上、すまぬ。竜王の加護なら解除できると安直に考えていたわたしが馬鹿だった。約束は無かったことにしてほしい」


「では、」


語気が強まった。冷たく低い声であった。


「わたしに去れと?」


やぶれかぶれになる寸前だな。イーデンはそういうところがある。だから、アンデット化の魔法に手を出した。


「いやいや、そうじゃない。約束なんてもう必要ないってことだ。アンデット化を解くとは言わずに狂戦士化や人狼化を説く方法をフィルに調べさせたよ。その魔法は同様にアンデット化も解ける。わたしがこの目で直に魔法書を見て確認した」


森は目前だった。イーデンは立ち止った。


「殿下、それをわたしにここで」


「止まるな、叔父上」


俺は森を進んだ。イーデンが付いてくる。


「殿下、魔法は四つまでと決まっております。私のために一枠をみすみす捨てるなぞ」


「いいや、これは約束ではなく命令だ。何が何でも受けてもらう」


俺は構わず先を進んだ。イーデンはまるですがり付くように俺にからんで来た。我々の戦いはエンドガーデンを救うこと、そうおっしゃったじゃぁないですかと。


俺がエンドガーデンの民を救済すると信じている。イーデンにとってそれほどまでに俺の魔法の選択が重要なのだ。


それでも俺が頑として聞かないとみるやイーデンは立ち止った。


「私は去ることにします。私は殿下の足を引っ張りたくない」


やれやれだ。そう言うと思ったよ。


「よく考えてみてくれ、叔父上。俺の魔法の枠が四つ。それで叔父上のが三つ。合わせて七つ。その一つを魔法解除に使ってもまだ六つだ。叔父上を失えば魔法の枠は三つ減る。俺のだけのでたった四つだ。解除魔法を使った方が二つも利がある」


「ならば解除の魔法を使わなければもっと得できる。私がアンデット化すればそのルーアーなるものを破壊すればいい。私なら死んでも殿下のために働き申す」


もうやぶれかぶれだな。自分の言っている意味すら分かってない。アンデット化すればその時点で三つ減る。それだけじゃない。


「なら聞くが、戦場でアンデット化すればどうする。どこぞの竜王が叔父上をさらいに来るのだろ。戦っている最中、それが来たなら戦場は大混乱だ」


「では、わたしは去りまする」


で、また話は戻るって訳ね。


「まぁまぁ落ち着け。なにも俺は魔法の枠を一つ捨てるって言っているわけじゃない。回復魔法の内、状態異常解除だぞ。俺はそもそも竜王の加護のために自分自身に魔法を掛けることが出来ない。だが、一つは回復魔法の枠を持っていたい。今後、状態異常解除は貴重な魔法となるぞ。エリノアなんぞ、人を兵としか見ない者に魔法の選者を任せてみろ。回復魔法は戦場で使えるダメージ回復や体力回復ばっかり。最悪、狂戦士化の魔法を与えられる者も少なくはない」


イーデンは口ごもった。反論出来ないと見える。これでよく政治家をやっていたものだ。まぁ、イーデンは元王族で魔法を使えるからな。相手が面従腹背めんじゅうふくはいしていただけなのであろう。だが、俺は違う。そもそも立場が上なのだ。ここは押し切る。


「誰かがこういうような魔法を持っていないといけないんだ。分かるだろ、叔父上。これもエンドガーデンの民を助けるためだ」


カリム・サンもそうだが、イーデンも民という言葉に弱い。


「ですが、」 


とはいえ、イーデンが納得しないのも分かる。明らかに、これは詭弁だ。“魂”の状態異常解除というのもそうだが、こういう魔法こそドラゴン語がやたらに長い。使い勝手が悪く、どう考えても扱いが限定的だ。すでに魔法書から魔法を選んでいたイーデンならその理屈が分からないはずはない。


「俺も民を大切に思っている。その手始めが叔父上ってだけ。さぁ、そこに立ってくれ、叔父上」


イーデンの肩を持つと俺の前に立たせた。俺はフィルに書いてもらったドラゴン語の写しを懐から出した。


さてと。問題はここに書かれているドラゴン語だ。エラく長いうえ、詩だか物語やら文にとりとめがなく読むのが難しい。


ドラゴンたちは魔法陣を飛ばしたりして操っていた。俺たちで言うと大声を出すとかだが、そこは全く考えずにだな、魔法陣を造ることだけに注力する。


王立図書館の地下ではしっかりと魔法陣を目に焼き付けた。写しの魔法陣もここに来るまで何度も見た。


大丈夫。とにもかくにもイメージだ。ドラゴン語一つ一つを咀嚼そしゃくするように丁寧にイメージしていく。練習する時間はなかなかなかったが、その甲斐があって結構出来のいい、白く輝く魔法陣が目の前に形づくられていた。




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あとがき


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