第151話 死神の騎士団


仲間に初お披露目の時、そのかっこでゼーテに行くつもりなのですかって早速カリム・サンに嫌味を言われた。「陛下の趣味だ。コンセプトがちゃんとあって死神だ。君らは言うなれば死神の騎士団だな。これで敵を寄せ付けないらしい」と返すと黙ってしまった。俺の趣味じゃないことは分かってくれたようだ。


旅に全く何も起こる気配がない。アーメットヘルムとマントの効果は有る様な無い様な。まぁ実際は、ゼーテのローレンス王がタァオフゥア、ファルジュナールと上手くやってくれているのだろうなと思う。


タァオフゥア、ファルジュナールにしても王族をもう失いたくないはずだ。浮世離れした爺さんを戦場に出そうとしたメレフィスもそうだけど、どの国もたまは限られている。


しかも、俺たちを襲ってきた二人は国を代表するような使い手たちに違いない。それが生け捕られるという大敗北を喫した。負けた理由も、詳しい情報はこちらから漏れていないはずだから二国は何がどうなったか分かっていない。手の打ちようのない相手にそうそう王族は出せない。


それに黙っていても王族二人は帰って来るんだ。無理はするまい。様子見ってところだ。


今夜は野営するつもりだ。馬を酷使すれば国境の合流地点ブノワトには日暮れ前までに入れよう。だが、敢えてブノワトに入る前に一晩過ごす。ゼーテに入れば俺たちに自由はない。俺にはやらなければならないことがある。


西には幾つもの山が連なっていた。ヘルナデス山脈のアンバー連峰だという。その最高峰が響岳であり、屏風を立てるように西の空を塞いでいた。


俺たちの進む道は緩やかな起伏の高地ではあるが、やはり標高が高いだけあってか草原が広がり、森はあっても小さな塊でしかなく、所々に点在するぐらいだった。


イーデンの魔法を解いてやらないといけない。イーデンも己の秘密は誰にも知られたくなかろう。


フィルなぞは何か分からないまでも察しているのかもしれない。イーデンは三つまでしか皆に魔法を披露していないのだ。そのうえでの、竜王の門での俺の問いだ。


草原の真ん中では具合が悪い。俺が望む魔法を教えてくれたのはフィル。ここで使えばイーデンの秘密をさらすようなもんだ。


見渡せば、だだっぴろい草原の向こうにぽっかりと森が浮かんでいた。





野営は天幕を張るでもなく、ただ火を起こすのみである。要らぬものは持って来なかった。高地は寒暖差が激しい。ブライアンに貰ったマントが役に立っている。


物見以外、騎士たちが火の回りに腰を落ち着いたのを見計らい、俺はイーデンとカリム・サンを呼んだ。まだ、日は暮れていない。これまでに敵の動きは全くなかったが、よもやってこともある。明るいうちにイーデンの魔法を解こうと思う。


俺は先ず二人に、あの森が気にかかる、と主張した。カリム・サンにその理由を問われると、ただ単に勘だと答えた。確認に行くから付いてくるようにとイーデンには指示し、カリム・サンには騎士団の指揮を任せた。


カリム・サンも馬鹿ではない。俺が言い出したら聞かないのは重々承知している。やつとはそこそこ付き合いが長いのだ。だが、イーデンに関していえばそれでは通らない。


クレシオンの戦いでも分かるようにイーデンは守りの要だ。それに確認と言うのであれば、リスクを負ってそこにわざわざ行かずともイーデンのシュガールを放てばいい。


カリム・サンがガチャガチャ五月蠅いので、今回ばかりは黙れとピシャリと言った。まぁ、俺も返す言葉が見当たらなかったしな、仕方がない。


イーデン自体はなんの不服もなかったようだ。偵察なんて嘘で、何か内密な話があるのだろうと察していた。


カリム・サンを追っ払い、俺はイーデンと森に向かって歩き始めた。


葉身が膝丈ぐらいの草原を進んでいく。風が吹くたびに草原はササ―っと音を立て波打った。空も赤みを帯びている。騎士団とは十分距離が取れていた。


「イーデン殿、いや、叔父上。わたしは大事なことを話さなければなりません」


ジュールベルグから聞いた話だ。ルーアーなるもの、魔核と言い換えてもいい、その存在を俺は初めて知った。


賢いドラゴンはそれを持っていて、はぐれドラゴンにはない。持つ持たないは世界樹が関係しているという。ただし、例外もある。例えばアンデットだ。


アンデットもルーアーを持っていて、賢いドラゴンとアンデットの違いは心臓が動いているかどうかである。つまり、アンデットは魔法のみで動いている。賢いドラゴンは魔核が無くなっても死にはしない。心臓が動いているからだ。


はぐれドラゴンにはなろう。だが、アンデットの場合、ルーアーを失えば塵となる。


では、ルーアーとは何たるか。賢いドラゴンは世界樹をヤドリギにするとその体内で発現されるという。だったらアンデットは。


「叔父上は狂戦士化の魔法をご存じですか? 超回復力と肉体のリミッターを外す魔法です。ですが、痛みも何も感じず、我を忘れ、使い過ぎると戻って来られない」


イーデンは黙って聞いていた。俺は歩みを止めず話し続けた。


「わたしは狂戦士化も人狼化も吸血鬼化もルーアーに関係すると考えています。もちろん、アンデット化も」


俺はあえてイーデンの顔を見なかった。ここまで話せば薄々分かってくるはずだ。


「そもそもルーアーは人には存在しません。ルーアーが無いから我々は四つまでしか魔法を使えない。ならばアンデット化の場合、ルーアーはどこから来るのか。賢いドラゴンは世界樹から。おそらくは私の考えだとアンデットは己の魂か、生命力か、意志からか」

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