第140話 魔法博士
「古代兵器というならハロルド・アバークロンビーですな、殿下が御そばに置いているあやつです。殿下の方がわたしよりお詳しいと思いますが」
言葉にトゲがある。やはり図星か。話を俺に振るあたり、ここいらで止めとけってことなんだろ? ああ、分かっているよ。武士の情けってことでいいんだよな。
だが、お前の考えていることは
俺以外、誰も知らない。カールは古代兵器を得て、対等な立場でローラムの竜王に対峙しようとしていた。そんな輩だ。賢いドラゴンを唯一倒せる武器、ヴァルファニル鋼を手に入れているとして何ら不思議ではない。
逆を言えば、俺たちだって手に入れられるのも道理。糸口がほしい。パターソン家は何の古書を集めていた。
「魔導具の類とかはどうだろうか、リーマン殿」
「シーカーですか。パターソン家は元王族だと言っても大昔。その知識は失われているでしょうなぁ」
まぁ当然か。もしそうならパターソン家と言わずシーカーたちが既にヴァルファニル鋼を装備しているもんな。ヴァルファニル鋼の名を伏して的を射る質問をするのはなかなか骨が折れる。
「過去から現在に至るまで、シーカーや魔導具についての書物は御法度です。そもそもシーカーは王族以外、その存在を明るみにすることはタブーでしたから。情報を持っていたとしても、やはり同じ元王家の家柄ですかな。口伝ならされている可能性はあるかと思います。ですが、詳しく伝えられているかは明言できませぬ。我々は正直言ってシーカーを鬼か化物扱いしています。居ないような存在にあえて言葉を残すとは考えづらい。シーカーというなら、そちらも殿下のテリトリーなのでは?」
ヴァルファニル鋼の存在を、俺はヤールングローヴィに聞かされて初めて知った。カールはどこでどうやってその存在を知り得た。シーカーからはあり得ない。やはりパターソン家。エリノアか。
「殿下が何を知りたいのかよく分かりませんが、パターソン家に知識があるとすれば専ら魔法に関してでしょうな。常識的な答えで申し訳ありませんが、パターソン家だけでなく王家から別れたどの家もそうです。魔法を使えなくともどの家も魔法に関しては詳しい。魔法は伝承されているはずです。王家だった
一般論か。俺はバリー・レイズが身に着けていたのがヴァルファニル鋼かどうかを知りたい。王族がやつにどうやって倒された。それによって大方正体が見えて来るのだろうがな。
出来得るのなら、俺もヴァルファニル鋼を手に入れたい。賢いドラゴンと対峙して分かった。ルーアーを破壊しなければ彼らはいつまでたっても止まらない。ダメージは与えられないし、そのうえ白魔法ですぐ回復してしまう。
それこそリーマンの言うとおりダメもとでハロルドに聞いてみるか。ハロルドは一時、カールと行動を共にしていたしな。
「ですが、皆さんは残念ながら魔法書を失うことになりますな。魔法の一括管理のために王太后陛下が全て召し上げているとか。わたくしめはすでに返却済みです」
俺にも返せって言って来るよな、やっぱり。って、これじゃぁ単なる世間話だ。リーマンからはヴァルファニルのヴぁの字すら出てこない。出て来るのは保身と一般論だけ。
「魔法書か。魔法を研究すれば魔法に勝る方法を見つけられると思うか。どう思う、リーマン殿」
「魔法をどう研究いたしましょうが、発動している魔法を破るには魔法しか御座いませんでしょうな」
やはりな。魔法博士のフィル・ロギンズもそう言っていた。完全に袋小路に陥った。
「殿下、一ついいですか。どうも殿下のご質問を聞いていると殿下は誤解なされているようにお見受け致します。バリー・レイズは何もバカ正直に正面切って魔法攻撃に相対したのではございませんよ。剣で魔法陣を切ったのです」
☆
元侍従のフィル・ロギンズは俺の護衛騎士となって竜王の門に部屋を与えられていた。爵位もあって世襲貴族の最下層、男爵・バロンだ。俺が持つ広大な領地の一部を分け与えてやった。
決闘裁判の相手だった神の手と異名をとった男、アレクシス・チャドラーは国民に愛され、サーの称号で呼ばれていた。しかし、貴族ではない。フィル・ロギンズの場合はれっきとした貴族だ。国民が好きも嫌いもなくフィルを呼ぶ場合、名前の頭に必ずロードを付けないといけない。
ドアをノックするとすぐさま開く。突然の訪問にフィルは驚きもせず、もう来る頃かと思っていました、と俺を部屋に入れた。
テーブルの上の料理や酒はまったくの手つかずであった。デルフォードに運ばせたものだ。机には俺が与えた魔法書が置かれている。エリノアに人払いされ、部屋に戻ったら直ぐに魔法書を開いたのだろう。フィルもバリー・レイズが気にかかるようだ。
「帰って来たばかりなのに熱心だな。何かわかったか」
俺はリーマンから情報を掴んでいた。質問したのは挨拶みたいなもんだ。
「いいえ」
曇った顔を見せた。まぁ、そうなるわな。ヴァルファニル鋼がルーアーを壊せるというなら、魔法陣を斬ってもおかしくはない。そして、もしそうなら、ルーアーを壊せる俺も魔法陣をぶっ潰せるという理屈になる。
ヤールングローヴィは言っていた。ルーアーは通常の武器では壊せない、ヴァルファニル鋼、あるいは竜王の加護と。
俺はソファーに座った。立っているフィルに、そこに座れ、と向かいのソファーに手を指す。聞きたいことがある。魔法書の由来についてとイーデンの魔法の解除方法。そして、見つけないといけない。
―――俺に必要な魔法。
イーデンのためのアンデット解除はもちろん、ローラムの竜王のために残しておいた一枠と“サイレント・ギャラクシー”。これらはすでに確定している。俺にはまだ一枠残っている。
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