第124話 魂
魂は存在する。しかも、生命の海に溶け込まなかったとしたら永遠だ。そもそもルーアーを持っていない王族たちが、魔法を使えたのはどういう訳か。
魔法はイメージだという。それは紛うことなく意思だ。車に例えるならエンジン。だとしたら、魂は燃料。ドラゴン語はスターターということか。王族が四つまでしか使えないのはおそらく、良質な燃料ではない。軽油に灯油が混ざっているようなものなんだろう。
いや、違うな。魂の善し悪しで論じるならば、俺の世界でも魔法が使えた者がいたはずだ。もちろん、それは皆無だった。あるいは、まだ他に俺の知らない何か要素でもあるというのか。
ともかく、ルーアーとは賢いドラゴンにとって魔力の受信装置であり、貯蔵タンクでもある。あるいは、魂と言って過言ではあるまい。はぐれドラゴンがバカなのは意思があっても魂が無い。いつも飢えていて、絶えず世界樹を探している。
アンデットもガリオンの竜王に操られもしなければ生きていた時のように活動出来るのであろう。魔法も使えるという。それはまさしく魂は無いけれど意思が残っているからだ。
俺はイーデンと約束した。アンデット化したら解いてやると。竜王の加護持ちの俺が触れれば魔法は無効になる。
だが、俺の理屈から言えば、ことはそう簡単には行かないように思える。魔法を解く解かないは別として、もしルーアーを破壊すればどうなるか。もちろん、アンデット化は解ける。だが、魂が解放されるとは限らない。魂とルーアーが繋ぎ合っているか、同等だからだ。いずれにしても一緒に消えてなくなるのだろう。
イーデンのような人間は、死して魂となれば妻のソフィアと娘のアリスにあの世で会えると思いがちだ。俺にアンデット化を解いてほしいと願ったのもその現れ。自分の魂を亡ぼされるというのなら俺についてくる必要はもうない。
やつのことだ。アーロン王との仲違いでとち狂っていた時ならまだしも、今のやつなら俺や妻子に迷惑はかけられないとどこか火山でも見つけ、マグマの中にでも身を投じよう。
問題はそれだけではない。俺はエトイナ山で竜人化したジンシェンに触れた。竜王のヤドリギに登る際にだ。
そして、セプトン。やつには腹にでっかい穴をあけてやった。どちらも竜人化は解除されなかった。
その事実から、竜王の加護は効果が発揮中の魔法のみ有効だと推測できる。一旦鳴りを潜めた魔法や効果を発揮した後のものなんかには役に立たない。リーマンの自爆魔法でいうと解除は出来ないが、こと爆発の中においては、俺は涼しい顔でいられるってことだ。
元々ルーアー持ちであるドラゴンの竜人化でさえ解除できないでいたのだ。なのにさらに複雑怪奇なアンデット化の解除なんて出来ようか。
そういう理屈なんだ。イーデン・アンダーソンは一旦アンデット化すれば解除なんて出来ない。ルーアーを破壊するしかないのだ。魂も救われない。
あるいは、魔法が発動中でイーデンがアンデット化の最中だったら。確かに竜王の加護で魔法を無効化出来るかもしれない。
そう言う意味でいうならイーデン・アンダーソンとの約束は間違っていない。だが、微妙だ。ルーアーが魂ごと消えてしまうって可能性もあるし、今回の件でもそうだが、状況がそうそうイーデンと一緒にいることを許してくれまい。その瞬間に立ち会えるかは断言できない。
救いなのは竜人化と違い、アンデット化は発動までに時間があるということだ。鳴りを潜め、条件が整えば発動する魔法を事前に解く。何か方法があるはずだ。あの魔法の書………。
ドラゴンでさえ知らない魔法が記載されている。フィル・ロギンズは寸分たがわず複写すると言っていた。
写しはもう終わっているのだろうか。王太后エリノア・バージヴァルからの返還命令はまだ受けていない。
すぐにでも魔法書に目を通す必要がある。真偽確かではないその出所も気にかかる。
眼下に広がる草原に、灰色の街クレシオンがあった。目指すガーディアンはクレシオンのランドマーク、地上百二十メートルの塔である。瓦礫を積み上げたような街並みにただ一つだけ勇壮を誇っていた。
ひどい夜であった。ここへ来て疲れがどっと押し寄せて来る。地平線のずっと向こうに太陽が姿を現す。高峰竜王の角は、朝焼けに赤く染まる。
灰色の街クレシオン上空を通過した。ガーディアンの頭頂部にはハロルドがいた。地上とは随分と距離を取っていたにもかかわらず、こちらに気が付いたのか俺たちを目線で追っている。
アトゥラトゥルは日の出の方向に向かったかと思うと方向転換し、降下した。日の光を背にし、草原すれすれを飛んでクレシオンに向かう。
ハロルドは頭頂部で
アトゥラトゥルは低空飛行を続けた。ゴーストタウンの崩れかけた屋根や石壁を次々に巻き上げていく。そして、ガーディアンに到達すると急上昇、塔壁を駆け上がるがごとく飛ぶと頭頂部に到達。二度、三度羽ばたいて
頭頂部に来てみるとハロルドは反対側の
俺が降り立つとハロルドは駆け寄ってきて力強くハグをした。
「変わりはないか、ハロルド」
「ああ。いい月だった。で、殿下の方は?」
ハロルドはアトゥラトゥルやラキラにはもう驚かない。それどころかほとんど無視だ。
「一部始終をおまえたちに話さなければならないが、まずはここの撤収だ。王都に帰還する」
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