第123話 アンデッド


ジュールはいつになく真剣だ。俺がヤールングローヴィに、『よくも堂々とラキラのそばにいられるな』と罵られたのを他人事ではないように思っている。


『それならまだましさ。石はルーアーの場所を相手に知らせている目印のようでもある。それに石は魔法を無効化するわけじゃぁない。効果を落とすだけのもので自分より強者にはものの役にも立たない。やっかいなのはルーアーを自在に動かすやつさ。あるいはただ単純に、魔法耐性や強度のある骨や皮で守っているやつ。場所を巧妙に隠していて、魔法攻撃には己の魔法で対処する。賢いやつほど魔法に自信がある』


『なら、サメのやつ、セプトンとか言ったな。やつに石はついてなかった。魔法を多用するタイプにも思えない。やつはルーアーを動かせるタイプか。それとドラゴニュート。あのクソガキはドラゴンの姿より倒しにくいと言ったが』


『どこにルーアーがあるか、やっぱり外見ではわからない。そのうえ竜人化すれば力が圧縮されるんだ。ルーアーの守りはドラゴンの時より強化されるって寸法さ』


『それでもラキラの先祖はドラゴニュートを倒した』


『ヤドリギを切り倒して、粘り強く戦ったんだろうな。そうしたら倒せないわけではない。戦えば戦うほど力を失っていく』


ガス欠か。狩るのならまだしも、ラキラを守るという俺たちの戦いにそれは不向きだ。ルーアーがどこにあるか瞬時に分かるようでないと。それともう一つ、訊きたいことがある。


『ヤールングローヴィはヤドリギとドラゴンライダーは同じような役割をしていると言った。そして、お前はヤドリギを持つとドラゴンの体内にルーアーが現れると言う。ドラゴンライダーでもルーアーは出来るのか?』


『それはないな。俺の場合、もともとヤドリギを持っていただろ。ルーアーは有ったんだ。ルーアーを出現させられるのは世界樹以外無い。ドラゴンライダーは基本的にどのルーアーかを問わないのさ。世界樹の場合は自らが造り出したルーアーでないと感応しない。因みにドラゴンライダーのいない賢いドラゴンはヤドリギを替えた場合、使い物にならない古いルーアーと新しいルーアーの二つ持ちとなる』


ローラムの竜王と世界樹が一体だって意味が分かったぜ。あれほどのドラゴンになると替えが効く世界樹は存在しない。もちろん、替えが聞くドラゴンライダーも。かといってはぐれドラゴンになるって選択肢は当然ない。ローラムの竜王はヤドリギと運命を共にするしかないんだ。


『ちなみに、ヤドリギ二本持ちってのがいるのかい。さっきの話によるとそういうやつも居そうな気がするが』


賢いドラゴンの力は世界樹の大きさに比例する。ルーアーが幾つも持てるなら、ヤドリギ一本見ただけじゃぁ分かりゃしない。


『まぁいてもおかしくないな。世界は広いんだ』


ヤドリギを何本も守るのは難しいだろうがな。それよりもむしろ、フェイントの方がいいような気もする。敵に使い物にならない古い方へ注意を向けさせる。実際にそういうケースはあるかもしれんな。気を付けたいところだ。


『ところでキース。おまえの魔法。あれはいったい何なんだ』


さて、どうしたものか。ヤールングローヴィの言う通り、賢いドラゴンならば気にならない方がおかしい。こいつには教えてやるか。いや、ダメだ。よそう。やはりリスクがデカすぎる。


『ジュール。おまえはいつもラキラに張り付いている。俺の魔法には不向きだ。転がる岩の主が言っていたろ。あの魔法は全世界の強者に俺はここにいるって知らせるようなもんだ。賢いドラゴンの中でラキラの力を欲するものが今後出てこないとも限らない。ラキラとずっと一緒にいたいなら、おまえは知らない方がいい』


夜が明けようとしていた。高峰竜王の角を中央にヘルナデス山脈の山影が広がる。


気になることがあった。イーデン・アンダーソンのことだ。五感を同期させる生活魔法を、アトゥラトゥルはイーデンに施してあった。


アトゥラトゥルに急ぐ様子もない。今夜もイーデンらに何も起きなかったようだ。ヘルナデス山脈の山際は赤く燃えていた。空にはまだ、赤みがかったまん丸い月がある。


ヤールングローヴィは言っていた。アンデットはルーアーだけで動いていると。ジュールによればルーアーは魔核とも言うらしい。ドラゴンがヤドリギを持ったら発現するとも言った。おそらくは魔法のエネルギーが世界樹から魔核ルーアーに送られている。


だとしたら、アンデットは魔力をどこから供給するのか。ヤドリギのような外部からの働き掛けは無い。あるのは自分自身。


生命力か、意志か、それとも魂か。


リーマン・バージヴァルは自爆魔法を自身に施している。その事実と効果を隠そうともせず、わざと公にしていた。


生命力と爆発力は比例する。それでいうのなら、老衰なら体がチョロチョロ燃える程度。現時点、やつが殺されたとすれば、転んでもただで起きないやつのことだ、竜王の門を吹っ飛ばしかねない。


想像するに、アンデット化する魔法もそれに似たようなものではないか。ルーアーの発現と自身の中の何か、生命力か、意志か、魂を魔力に変換する。死んで活動するというからには生命力ではないだろう。死して残された想いは行き場を失って強くなるというけど、意志の強さは人様々だ。もっと確たるモノがある。俺の考えでは魂。


俺は魂を引っこ抜かれ、キース・バージヴァルの体に突っ込まれた。キースの魂はというと別次元の生命の海とやらに形を失いつつ溶け込んでいっているという。

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