第54話 証言
次々と証人が呼ばれた。出るわ出るわで、よくもこんなに集められたもんだと感心してしまう。まぁ、あのキース・バージヴァルならネタの宝庫だ。それにカールも言っていた。執政のデューク・デルフォードは俺を忌み嫌っていると。
やつとしてはめちゃくちゃ頑張ったのだろう。日頃からキース・バージヴァルを改めさせるようアーロン王に
アーロン王にしても、それを見越しての人選だったろう。執政の諫言を聞き流していた風を装いながらも、いざという時には事にあたらせるつもりでいた。カールもキースも、いつか不祥事を起こすのは目に見えていた。
キースはともかく、相手がカールであったのなら頭を痛めただろう。執政もカールには好意的だし、なにしろあの人気ぶりだ。議会も後押ししている。それでローラムの竜王に処分してもらおうと思い立ち、それでもダメならキースだとばかりに、俺に毒の瓶を託した。
キースがカールを殺さずに帰還してくるというのは想定内だった。キースの性根は見え透いている。びびって何もできない。次なる手を考えねばならなかった。キースは何とでもなる。だがやはり、問題はカールだ。人知れず闇に葬るしかなかった。
そんな時に、帰還式でのカールの、あの言動である。我慢ならなかった。あの時にいっそのこと二人とも殺せたらどんなに気持ちがよかったか。その後起こる混乱も秩序の崩壊も何も関係なく心の安らぎだけを求めてしまったに違いない。
運がよかったのはカールが逃げ、キースだけが残ったことだ。キースの有罪を確定できれば、裁判にならずとも自動的にカールを有罪にできる。
それには議会も困ったのだろう。キースでは勝ち目がない。魔法の
このような状況をキース・バージヴァルは何と思うだろうか。大の大人たちの思惑でキースはさらし者になっている。
酔って路上で暴力を振るわれたとか、農夫の娘が森に連れ込まれ犯されたとか、馬車でひかれたとか、家に火をつけられたとか、無理やり大量の酒を飲まされて急性アルコール中毒で死ぬところだったとか、猟犬をけしかけられたとか、総じてキース・バージヴァルは王族を
こんなのをかれこれ二時間だ。こんなのって言い方が適切ではないのは分かってはいる。裁かれるべくして裁かれているのだが、憤ってしまうのはどうしようもない。法壇でふんぞり返っているやつらを思うと腸が煮えくり返ってくる。キースがやったことであって俺がやったことではないのもそれに拍車がかけられる。
しかも、証言の合間あいまに、申したいことは、と法務大臣が尋ねてくる。マスクをさせられていて喋れないことをいいことにこの仕打ちだ。弁護人は弁護人で決まって、ありません、と俺に代わって答えてくれる。
真っ当な裁判ではないことは分かっていた。傍聴する人々も俺を蔑むように見ていた。少なくとも彼らにはキース・バージヴァルがどんなに苦しんでいたかだけは知ってもらいたかった。このマスクがなければ俺が代弁してやったろうに。
証言は、キースの素行から核心部分へと移っていった。証言台には立ったのは専属の教師だった男だ。アーロン王がエリノアを妃にすると言い出した時のキースのキレよう、キースはアーロン王を殺すとまで言ったそうだ。
その他にも近衛兵だが、部屋で暴れているキースを床に押さえつけるとキースはわめいたあげく、アーロン王を罵り、殺すとまで言った、と証言した。おそらくはあの地下の偽の玉座でクスリでもやっていたのだろう。
あとの証言も大方似たり寄ったりで、殺しを示唆する証言は大抵キースがキレた時に発せられていた。次の日はもう覚えていないのだろう。その気がないのは明白だ。
裁判も二時間半を越し、証言はどれもこれも同じで内容に変化がなく、出し尽くされた感はいなめない。見世物としてもこれ以上続けるのもどうかとさえ思ってしまう。
案の定、居眠りをする者も現れ、そろそろお開きかって時に、ムーランルージュの支配人が証言台に姿を現した。
法務大臣に、姓名と仕事を言いなさいと命じられた。ムーランルージュの支配人は言われた通りに己の素性を話す。続いてキースとの関係を問われた。
ムーランルージュの支配人は答えた。
「店の支配人と客の関係です」
法務大臣がよく通る声で淡々と言葉を発した。
「被告人はあなたの店を相当気に入っていたようですね。遊郭にはその種の店はごまんとある。それなのにあなたの店ばかりに行っていた。お気に入りの女性がいたからですか。それとも他に理由があったと、あなたはお思いですか」
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あとがき
追い詰められるキース。果たして裁判の行方は。
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