第四章 蠢く王都

第44話 ドラゴンライダー


「キースさん、私も何か分かったらお話します」


ラキラ・ハウルはそう言って、うつむいた。そりゃぁそうだ。世界の秩序といっても過言ではないローラムの竜王がいなくなるっていうんだ。俺を心配してくれているのは有難いが、それだってやっとのことだろう。


俺たちはエトイナ山を後にし、ジンシェンの背に揺られていた。どこまでも続く森。左手の遠い空には、はぐれドラゴンの影が幾つもあった。草原キングラン上空でハゲタカのように獲物を探している。


風に揺れる赤い髪がラキラの表情を隠していた。ラキラは暗い表情を俺に見せたくないのだ。


「ありがとうよ。でも、あんま気にすんな。始めっからこんなこったろうと思っていたんだ。大丈夫。少なくとも帰るヒントは掴んだんだ。俺にしてみれば上出来だろ?」


ラキラは俺がどういう男かなんて何も知りゃぁしない。ましてや、自分のことで精いっぱいだ。笑顔で、だろ?って俺に言われてもラキラに返答のしようがない。無茶振りのようで、ラキラには俺がバカっぽく見えたはずだ。能天気で空気を読めていないやつ。けど、俺が凹んでないっていうのも何となく分かってもらえるはずだ。


少しは元気を取り戻してもらいたい。俺は本当に大丈夫だ。強がりでも何でもない。この歳になれば期待する自分に裏切られる経験を何度もしている。それだって、自分自身が悪いのであって期待する行為そのものには何の問題もない。周りっくどい言い回しになったが、つまり、俺が言いたいのは、過度な期待はしないようにしているってこと。


ただ、反省はしている。目の前に三枚のカードがあるとしよう。引いたカードがババだった感はいなめない。残ったのは二枚のカード。ラグナロクとガレム湾のダンジョン。おかげで他の二枚が何かは大体察した付いた。


ババのペナルティーは大幅な時間のロスか。ローラムの竜王から仕事を請けてしまったのもあるしな。


仮想現実の可能性があるとはいえ、俺の世界に行ったキース・バージヴァルを思うと不安になってしまう。もし、そうならやつをあまり長い時間、自由にさせてはいけない。


まぁ、くよくよ考えても始まるまい。気持ちを切り替えることが大切だ。この世界で生き残るための力は貰ったし、最後までとは言えないが、ラキラ・ハウルにもある程度は力になれる。これで俺も納得して自分の世界に帰れるってもんだ。


実際、俺は何をすべきか、もう理解している。どこにいけばいいかもだ。俺と罪なき兵団はまったくの別口だ。あれがここにあるのが不思議だが、それ以上でも以下でもない。それぐらいの気持ちで割り切る。ただ、強化外骨格パワード・エクソスケルトンは有効活用させてもらう。


ローラムの竜王は言った。この世界の秘密を見つけろと。それはすなわち、俺をこの世界に呼んだ張本人を見つけろってことに言い換えられる。おそらくそいつは、竜王をも超える存在。計り知れない力。


ザザムの竜王か、ガリオンの竜王か。それだってローラムの竜王を越えることが出来なかった。ローラムの竜王が言っていた。ザザムもガリオンもローラム大陸を狙っていると。それは二体の竜王がローラムの竜王を怖がってローラム大陸に手出しが出来なかった事実を物語っている。


ローラムの竜王を越える存在。そいつは歴史の闇でうごめき、誰にも気付かれずこの世界を動かしている。そいつが何者でどこにいるのか、ローラムの竜王でさえ口を閉ざすも同然。


まさしくゲームマスターだな。


そいつに会った俺は選択を迫られる。ローラムの竜王が正常なところを見ると、そいつはかなり危ないやつとみた。


まぁ、俺をこの世界に呼んだんだしな。何か魂胆があるのは間違いない。そいつはどこかのタイミングで俺の前に現れる。弱みにつけ込んで何かを俺に強要する。いくら俺が焦っても、俺は元居た世界へ自分のタイミングでは帰れない。いや、使われた挙句、ポイッと捨てられるのかもしれない。


だが、俺に接触してくる前に、俺の方からやつの元に押しかけるって手もある。あるいは、そういう意味でローラムの竜王は世界の秘密を見つけろと言ったのかもしれない。


笑える。頭隠して尻隠さずだ。ローラムの竜王はそいつについて何も言えなかった。だが、ちゃんとヒントは与えてくれた。


『ラキラは、ドラゴンを戦いの道具にしたくないんだ』


ラキラの肩に魔法陣。そして、ドラゴンがいた。濃い紫色のカエルみたいなやつだ。カール・バージヴァルにヤドリギを奪われ、はぐれドラゴンになってしまうのをラキラに助けられたあのドラゴン。


シーカーの里に置いてこられたと思っていたが、まだラキラから離れていなかった。


『マレビト、ご苦労だったな。上手くいかなかったようだが、気を落とすな』


“マレビト”とは恐れ入った。ローラムの竜王に会った時もこいつはずっとラキラの懐にいて、俺たちの話を盗み聞きしていた。


『大丈夫。ラキラもお前の願いは分かっている。気休めじゃないぞ。里の主に訊いてやるってよ』


頭の中に直接話しかけられているような感じだ。カエルのドラゴンの前で黒い魔法陣が現れては消え、現れては消える。泣いたり怒ったりしなければ、魔法陣は黒一色で、色の変化はないようだ。


『シーカーの歴史で十二の主全てに乗れたのはラキラが初めてなんだぜ。他のやつはエラっそうなだけでラキラの半分にも満たない。あ、半分ってぇのはヤドリギの大きさな。ドラゴンライダーのレベルはドラゴンのヤドリギを見れば分かる。逆を言えば、ヤドリギの大きさを見てドラゴンライダーは、乗れるドラゴンをり分けているんだ』


ドラゴンライダーって言うのか、あいつらは。それでもってレベルがある。それにしてもベラベラと聞きもしないことを。こいつはどこまでも口が減らないやつだ。


『色々知っているんだな。ラキラに聞いたのか』


俺も口の前に魔法陣を造っていた。パッと出てすぐ消える。なんつぅか、うっとうしい。慣れるまでに相当時間がかかりそうだ。

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