第42話 運命

「まず、この世界の秘密を見つけることじゃな。その後は、厳しい選択を迫られる。ぬしはどちらかを選ばなければならない」


「私はどうすればいいのです」


「選ぶのはおぬしじゃ。わしではない」


計り知れない力。選択。そして、この世界の秘密。


「一つだけ、お教え願いたいことが」


「申してみよ」


「罪なき兵団。あれはいったいどこから来たのです。天上界から来たなんて夢物語を聞かされても正直受入れることができません」


竜王は、にやりと笑った。その顔を、いい質問ととるべきか。それとも、この質問を待っていたととるべきか。


「地球っていうところから来た。船に乗ってな」


地球! ということは、ここは地球ではない。そうだ! 箱舟ラグナロク! 学匠がくしょうハロルド・アバークロンビーが投獄された時に叫んでいた言葉。ここは並行宇宙ではないってことか。



いや、俺は魔法で召喚された。計り知れない力が俺の身に及んだと竜王は今はっきりと言った。


それに時間だ。二千年以上も前に罪なき兵団はここに来た。俺はほんの十七、八年ほど前まで罪なき兵団と戦闘を共にしていた。


「その船にもわたしのように何か計り知れない力が働いたのでしょうか」


「魔法ではない。カガクじゃそうじゃ」


そうじゃ? 竜王らはこれに関与していないって言いぶり。確かに、船というからには己の意思でここに来たと見るべき。科学で次元を超えたとも考えられる。それが時間の誤差を生んだのか。


間違いない事実は、古代遺跡と言われる物は全て、俺が使っていた機械だということ。


分からない。俺の生きた時代に未知の惑星へ移民船を出していたと仮定しよう。その星にはドラゴンがいた。おそらくは百年二百年、いや、もっと多くの時間をかけて宇宙を旅したと考えられる。それがこの星に到達して、さらに二千年以上。つまり、俺はわざわざ三千年ちかくの時を越えてここに呼び出されたってことになる。


だとしたら、なぜ、三千年も前の俺が呼び出されたのか。なぜ、俺なんだ。同時代の誰かでもよかったんじゃないか。


「もういいだろう。質問はここまでじゃ。秘密は自分で見付けよ。それでこそ正しい選択ができるというものじゃ」


仕方ない。これ以上無理いは出来ん。神のごとくなやつだ。いいだろう。元の世界に帰るために何をすべきか、大体は見当が付けられたしな。


「ただ、まれびとよ。わしもぬしの力になれないわけでもない。どうじゃ、わしの願いを聞いてくれるか?」


交換条件? 何でもできるやつが頼るなんてことがあるのか? 信じられない。鵜呑みには出来ないが、まぁいいさ、いいヒントは貰ったんだ。聞いてやろう。


「もったいないお言葉。承りましょう」


「よう言うた、まれびとよ」 


竜王はうなずいた。満足であった。


「じゃが、しばし待たれよ。願いを言いたいところじゃが、わしの要件は後じゃ。先に乙女の問いに答えなくばならぬ。さて、乙女よ、“空”とは何ぞやってことじゃったな」

 

ラキラはうなずいた。


「簡単に言えば、わしはこの世から消える。おぬしらの言葉を借りるなら死ぬってことじゃ」


ラキラは言葉を詰まらせた。こわばった表情で竜王を見つめていた。微笑む竜王に、なんとか絞り出すようにラキラは言葉を発した。


「恐れながら」 


「よい。申せ」


「信じられません。それはまことでしょうか」


「まこともまこと。結界も弱まったりするじゃろ。庭師も多くは動かせない。ロード・オブ・ザ・ロードも具現化するには一苦労じゃ。わしの定められた期日はもう目の前に迫っている」


「期日………。 それは運命さだめなのですか」 


ラキラは語気を強めた。


「エンドガーデンはどうなるのです。わたしたちの里は!」


ローラムの竜王がいなくなれば、エトイナ山はドラゴンの奪い合いになる。結界も消え、多くのはぐれドラゴンがエンドガーデンに流れ込む。ローラム大陸全土に血の雨が降る。


「何を慌てておるのじゃ。そうならぬためにおぬしらを呼んだのじゃろうが」


「わたしたちに何が。何をすればいいのです」


「エンドガーデン中から人を集めよ。王族もシーカーも関係ない。そして、ここに連れて来い。わしが片っ端からドラゴン語を話せるようにしてやる」


自衛! それが竜王の出した答え。そして、それが俺たちの呼ばれた理由。


俺がエンドガーデン代表でラキラがシーカー代表って訳か。だが、腑に落ちない。竜王はなぜそこまで人に肩入れする。


真意が分からないってのはなんだかむずがゆい。今回の件もしかり、それにつながる話でもあるが、竜王は侵略者の人間を滅ぼさなかった。まぁ、いずれにしても人に残された道はそれしかないのだがなぁ。


ただし、上手くいくかどうかだ。人とドラゴンの停戦とは訳が違う。


「面白くなさそうじゃのう。皆、魔法を使えるようになる。人間は誰もがそれを望んでおるのじゃろ。喜ばしい限りじゃろうが」


からかっているのか。おそらくはこのじいさん、五つの王族の始祖にも魔法が使えるとかなんとか言ってあおったのだろう。あいにく俺は魔法には興味がない。


「お言葉ながら、竜王様。まず、王族がその特権を手放すか、です。進歩、保守と意見を異にする五人の王はエンドガーデンの覇権を掛けて争いましょう。真っ先に魔法を取り入れた国が戦況を有利に進めますが、国内は権力闘争となり、魔法を奨励した王族は国力の向上に伴い、破滅の道も進むことになります。もちろん、シーカーの里のようにまだ支配されていない地域にも火の手がおよぶでしょう。契約と言う重しが亡くなるのですから。シーカーの秘密も遅かれ早かれ皆の知るところになりましょう」


とんでもないことを請けてしまったと実感するぜ。こっちは一日でも早く元の世界に帰りたいっていうのに。


ラキラは声を荒げた。


「それではシーカー十二支族が黙っていません。竜王様との契約があればこそ平穏を保ってきました。そもそも私たちの間ではエンドガーデンの人たちにさげすまれているという反感があります。火に油を注ぐようなものです。竜王様、他にやれることは御座いませんでしょうか」


契約があってこその平和。俺に言わせれば、そもそも五つの王国が二千年以上もの間、一つも減らずにいれたこと自体、奇跡。


「ない」


竜王は覚悟を決めろとばかりにピシャリと言った。


「知恵を働かせろ。ローラム大陸だけに目を向けるな。ザザムもガリオンも、ローラムを狙っておる。わしは力を与える。使い道はおぬしらで考えるのじゃ」


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